投稿日:2026.09.02 最終更新日:2026.09.02
一次相続が未分割のまま二次相続が発生したら?後日の遺産分割でも二次相続税の還付が認められなかった裁決
こんにちは、相続専門税理士の桑田です!
本ブログでは、相続が発生したものの、その遺産分割が終わらないうちに次の相続が発生してしまうことがあります。
例えば、父が亡くなった後、父の遺産分割をしないまま母も亡くなってしまうケースです。
このようなケースは「数次相続」と呼ばれますが、一次相続の遺産分割を後回しにすると、二次相続の相続税に大きな影響が生じることがあります。
今回は、一次相続の遺産分割を二次相続の申告後に行い、「母は父の遺産を取得しない」と決めたにもかかわらず、二次相続の相続税還付が認められなかった裁決(令和7年10月29日)をご紹介します。

円満相続税理士法人 パートナー税理士
相続や事業承継を手掛けるほかに、一般企業・税理士法人・弁護士法人などを対象とした相続税研修会や、事業承継研究会などを開催。穏やかでわかりやすい説明が特徴の相続専門税理士です。SNS総フォロワー数約2万人の税理士インフルエンサーです(^^)
目次
事案の概要
平成26年、父が最初に亡くなりました。
父の相続人は、母と子ども3名の合計4名です。
しかし、父の相続については遺産分割が行われないまま、約1年半後の平成28年に母が亡くなりました。
父の相続を「一次相続」、母の相続を「二次相続」と呼びます。

一次相続については、課税価格の合計額が基礎控除額以下であるとして、相続税申告は行われていませんでした。また、二次相続の相続税申告期限を迎えた時点でも、一次相続の遺産分割は成立しておらず、父の遺産は未分割の状態でした。
この場合、二次相続の相続税を計算する際には、父の未分割遺産のうち、母の法定相続分に相当する金額を母の相続財産に含めることになります。
二次相続の当初申告では、相続人である子ども3名のうち1名は、この母の法定相続分相当額を母の相続財産に含めて申告していました。一方、ほかの2名は、その金額を含めずに申告していました。
その後の税務調査を経て、2名は母の法定相続分相当額を追加する修正申告を行いました。また、もう1名についても、更正の請求と税務署による更正処分が行われました。
その結果、父の未分割遺産に係る母の法定相続分相当額を母の相続財産に含める形で、二次相続の課税価格と相続税額が確定しました。
母の死亡から約8年後に遺産分割が成立
令和6年、相続人である子ども3名は、一次相続と二次相続の遺産分割協議を行い、一次相続については、次のような内容で合意しました。
- 父の遺産は子ども3名がそれぞれ3分の1ずつ取得する
- 母が取得する父の遺産はない
- 父の債務と葬儀費用は母が負担する

つまり、最終的な遺産分割では、母は父の財産を一切取得しないことになりました。
そこで相続人らは、一次相続の遺産分割の結果、母が取得する父の遺産はないこととなったため、二次相続の遺産総額も減少するとして、更正の請求を行いました。しかし、税務署は「更正をすべき理由がない」と相続税の減額を認めませんでした。
しかし、相続人らはこの処分を不服として、国税不服審判所に審査請求を行いました。
争点となった「更正の請求の特則」とは?
相続税の申告期限は、原則として、相続開始を知った日の翌日から10か月以内です。
しかし、申告期限までに遺産分割が終わらないこともあります。
その場合、相続税法第55条により、未分割の財産は各相続人が法定相続分に応じて取得したものとして相続税を計算します。
その後、遺産分割が成立し、実際の取得額が法定相続分による取得額と異なることになった場合には、相続税法第32条第1項第1号の特則により、一定期間内であれば相続税の減額を求めることができます。
これが、遺産分割後の「更正の請求の特則」です。
今回の争点は、一次相続の遺産分割によって二次相続の相続財産が減少した場合にも、この特則を利用できるかどうかでした。
相続税法第三十二条 相続税又は贈与税について申告書を提出した者又は決定を受けた者は、次の各号のいずれかに該当する事由により当該申告又は決定に係る課税価格及び相続税額又は贈与税額が過大となったときは、当該各号に規定する事由が生じたことを知った日の翌日から四月以内に限り、納税地の所轄税務署長に対し、その課税価格及び相続税額又は贈与税額につき更正の請求をすることができる。
一 第55条の規定により分割されていない財産について民法(第904条の2(寄与分)を除く。)の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従つて課税価格が計算されていた場合において、その後当該財産の分割が行われ、共同相続人又は包括受遺者が当該分割により取得した財産に係る課税価格が当該相続分又は包括遺贈の割合に従つて計算された課税価格と異なることとなつたこと。
※今回の事案に関係する部分を抜粋しています。
相続人側の主張
相続人側は、相続税法には「二次相続の相続税については、一次相続の遺産分割を理由とした更正の請求を認めない」という明確な規定はないと主張しました。
また、母が実際には父の遺産を取得していないにもかかわらず、母が父の財産を取得したものとして二次相続税が課税されたままになるのは不合理であり、実質的に二重課税が生じるとも主張しました。
確かに、実際の遺産分割だけを見ると、母が取得していない財産が母の相続財産に含まれているため、違和感を覚える方も多いと思います。
しかし、国税不服審判所は、相続人側の主張を認めませんでした。
審判所の判断
国税不服審判所は、相続税法第32条による更正の請求は、相続税特有の「後発的な事情」を調整するための制度であると説明しました。
未分割の遺産について法定相続分で申告した後、同じ相続について遺産分割が成立し、各相続人の取得額が変わった場合に、相続人間の税負担を実際の遺産分割に合わせて調整するための制度です。
一方で、この制度は、当初の申告に存在していた誤りや、申告の前提そのものを後から修正するための制度ではないと判断されました。
今回、相続人らは、二次相続の申告によって確定した母の遺産総額そのものを減少させようとしていました。
審判所は、相続税法第32条による更正の請求では、申告や更正によって一度確定した遺産の価額を前提とする必要があるとしています。
つまり、同じ遺産総額を前提として、相続人ごとの取得割合や税負担を調整することはできます。
しかし、一次相続の遺産分割を理由として、二次相続の遺産総額そのものを減らすことは、相続税法第32条の対象ではないと判断されたのです。
その結果、税務署が行った「更正をすべき理由がない旨の通知処分」は適法とされました。
「二重課税になる」という主張は認められたのか?
相続人らは、今回のような更正の請求が認められなければ、実際には母が取得していない財産について、二次相続税が課されることになり、不合理であると主張しました。
これに対し審判所は、今回の更正の請求は相続税法第32条第1項第1号の要件を満たさないと判断しました。そのうえで、仮に当初の二次相続の申告に誤りがあったとして、その是正を求めるのであれば、同条の特則ではなく、所定の期限内に国税通則法第23条に基づく通常の更正の請求を行うことが予定されていると説明しています。
この所定の期限内とは、原則法定申告期限から5年以内です。
今回、一次相続の遺産分割が成立したのは、母の死亡から約8年後でした。
そのため、この国税通則法第23条に基づく更正の請求によって修正しようとしても、すでに期限を過ぎていた可能性が高いと考えられます。
国税通則法第二十三条 納税申告書を提出した者は、次の各号のいずれかに該当する場合には、当該申告書に係る国税の法定申告期限から五年以内に限り、税務署長に対し、その申告に係る課税標準等又は税額等につき更正をすべき旨の請求をすることができる。
一 当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額が過大であるとき。
※この通則法での更正の請求は、土地評価が過大となっていることを発見した場合などにも、使われます。また、申告、更正又は決定に係る税額計算の基礎となった事実について裁判が行われ、その判決等によって、当該事実が当初の計算の基礎と異なることが確定した場合には、国税通則法第23条第2項第1号により、その確定した日の翌日から2か月以内に更正の請求が認められることがあります。
実務上の重要なポイント
今回の裁決から分かる重要なポイントは、一次相続の遺産分割を長期間放置しないことです。
父の遺産分割が終わらないまま母が亡くなった場合、二次相続の相続税申告では、原則として母が父の遺産を法定相続分に応じて取得していたものとして計算することになります。
その後、一次相続の遺産分割で「母は父の遺産を取得しない」と決めても、二次相続の申告期限から長期間が経過していれば、二次相続税を減額できない可能性があります。
特に注意したいのは、相続税法第32条による更正の請求が認められるのは、基本的に同じ相続について、遺産総額を変えずに相続人ごとの取得額や税負担を調整する場面だという点です。 一次相続の遺産分割によって、二次相続の相続財産の範囲や遺産総額そのものを変更することは、同条による更正の請求の対象にはならないと判断されました。
まとめ
今回の裁決を一言でまとめると、次のようになります。
父の相続が未分割のまま母が亡くなり、父の遺産のうち母の法定相続分を母の相続財産に含めて申告した場合、その後の遺産分割で「母は父の遺産を取得しない」と決めても、相続税法第32条によって二次相続税を減額することはできない。
数次相続では、一次相続の遺産分割の内容が、二次相続の相続税に大きな影響を与えます。
「相続税がかからないから、一次相続の遺産分割は急がなくてもよい」と考えてしまうこともありますが、次の相続が発生すると、思わぬ税負担や手続上の問題につながる可能性があります。
一次相続が未分割のまま二次相続が発生した場合には、通常の相続よりも論点が複雑になります。
将来の税負担や更正の請求期限も踏まえ、できるだけ早い段階で遺産分割の方針を整理することが大切です。
※本記事は、令和7年10月29日付の国税不服審判所の裁決書抄録をもとに、内容を一般向けに分かりやすく整理したものです。本文をご覧になりたい方は、こちらから。
https://www.kfs.go.jp/service/JP/141/03/index.html
個別の事案については、相続に詳しい税理士などの専門家にご相談ください。