円満相続税理士法人 代表税理士
『最高の相続税対策は円満な家族関係を構築すること』がモットー。日本一売れた相続本『ぶっちゃけ相続』シリーズ19万部の著者。YouTubeチャンネル登録者10万人。
基本的に、相続放棄があった場合でも、相続税の計算は、相続放棄がなかった場合の相続人の人数を基に計算するため、相続放棄によって相続税を節税することはできません。
しかし、唯一、相続放棄をすることで、相続税を節税できるシチュエーションがあります。相続のプロを目指す方は、このシチュエーションに出会ったら、忘れずに、しっかりと提案するようにしましょう。
さて、それは、どのようなシチュエーションなのか。
それは、相続人が直系尊属(父母)になる場合です。
例えば、父、母、長男、二男という4人家族がいました。
この度、長男が亡くなったとします。長男には配偶者も子もいなかったため、相続人は父と母の二人になります。
このシチュエーションにおいて、相続人である父と母に、『相続税の観点から相続放棄を検討されてはいかがですか?』と提案するようにしましょう。
相続放棄をしなかった場合には、長男の遺産を、父母が相続する際に、相続税の負担が発生します。そして、父母が亡くなった時に、それぞれ、父母が所有している遺産に対して相続税が課税されたうえで、最終的に、二男が遺産を承継することになります。
お気づきの通り、今の流れだと、長男が所有していた遺産に2度相続が課税されて、二男が承継する形になります。
父母が相続放棄をした場合は、どうなるでしょうか?
この場合、長男の遺産は、全て二男が相続することになります。この時の相続税の計算は、法定相続人の人数は二人として計算し、最終的に相続税の2割加算が適用されます。
2割加算は適用されるものの、2回相続が課税されるよりは、トータルでの税負担を抑えられる可能性があるわけです。
考え方は以上になりますが、実際に相続放棄をした方がよいかの結論を出すためには、相続放棄をした場合の税額と、しなかった場合の税額のシミュレーションを作成し、それを比較したうえで最終決定をするべきですね。
なお、相続放棄をしなかった場合のシミュレーションを作成する際は、相次相続控除の適用も考慮する必要があります。例えば、長男から遺産を相続した父が、相続後1年以内に亡くなった場合には、父が負担した相続税の全額(例外あり)を、父の相続税から控除することができます。
ただ、実際に人がいつ亡くなるかは、誰も予想することができないため、このようなことをシミュレーションに組み込むかは、難しい所ですね。少し大変かもしれませんが、1年以内に相続が発生した場合から、10年以上の相続が発生しなかった場合の11通りのシミュレーションを創るのもおススメです(相似相続控除の金額だけ調整すればいいので、そんなに大変ではないと思いますが)。
私の経験則からいうと、父母が、ある程度(2億や3億以上)の財産を所有している場合は、相続放棄した方が有利になる傾向があると思います。
これは、父母が遺産を相続すると、父母が元から所有している財産額に、上乗せされる形で財産額が増加するからです。相続税は超過累進税率なので、増えた財産額には、相続税率が30%、40%、50%といった、かなり高い税率が適用される部分が、ダイレクトに増えることになるのです。この辺りは、実際にシミュレーションを組んで、税額の上り幅を確かめてください。
ちなみに、相続税対策の観点から相続放棄をすることが、家庭裁判所から認められるか、という質問を受けたことがあります。
結論、このような理由でも認められます。
相続放棄申述書には、相続放棄の理由という欄があり、その選択肢『生活が安定している』という項目があります。これを選択して申述書を提出したところ、家庭裁判所から、特に何か言われたことはありません。
相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った日から3ヶ月以内にしなければなりません。このシチュエーションに該当している相談者さんが来た場合には、3ヶ月以内にシミュレーションを作成し、相続放棄をするべきか否かの検討をしなければいけません。かなりタイトスケジュールになります。しっかりと提案していくようにしましょうね。