配偶者居住権と家族信託の活用検討

父が亡くなりました。相続人は母と私です。自宅は、同居の母が相続する予定ですが、将来、母が認知症で施設に入った場合、自宅の処分を含む管理が心配です。

こんにちは、円満相続税理士法人の伊藤です!

「小規模宅地等の特例」が使える配偶者が自宅を相続するケースが多いと思いますが、2次相続まで考えて、自宅の取得方法を検討しましょう。また、認知症も心配ですよね。そのような場合に、活用を検討すべき制度を解説します。

配偶者居住権の検討

配偶者居住権は、残された配偶者の居住権を保護するため、令和2年4月1日以降に発生した相続から新たに認められた権利ですが、実務においては、節税のために活用されるケースが多いようです。

【事例】2次相続では小規模宅地等の特例は使えない(同居でもなく、家なき子でもない)ため、配偶者の財産、2次相続の税率を考えると、1次相続の段階で子どもに自宅を相続する。

このような場合において、配偶者居住権を設定し、「所有権」は子どもが相続して「配偶者居住権」は母が相続します。そして、母が相続する「配偶者居住権」には、小規模宅地等の特例(配偶者の特例)を適用することができます。

2次相続が発生した場合に「配偶者居住権」は消滅して相続財産にはならないため、子どもは1次相続の相続税負担のみで済むことになります。つまり「配偶者居住権」部分が節税となります。

配偶者居住権のイメージは下記の通りとなります。下記例では、土地・建物評価額合計25,000,000円が、配偶者居住権6,777,857円、所有権18,222,143円となり、二次相続が発生した場合、「配偶者居住権」部分が消滅して節税になります。

家族信託の検討

私は遠方に住んでいる為、母が認知症で施設に入居した場合、自宅の管理が難しくなります。認知症が進んでしまうと売却ができなくなりますよね。

認知症が軽度の場合、家族信託の活用が考えられます。認知症の程度が進み施設に入居することになっても、信託契約において権限を設定しておけば、子どもが自宅の売却をすることができます。

【家族信託の手続きの流れ】

信託契約の内容(受託者に託す権限)を決定し、信託契約を締結します。管理修繕、賃貸、売買、建替えなど、受託者に具体的に何をしてもらうかを決定します。

信託契約書を公正証書にします。契約上のトラブル回避のため、公正証書の作成が望ましいです。また、銀行口座(信託口)を開設する際、金融機関で公正証書の提示が必要となります。

信託登記を行います。不動産登記を受託者に名義変更します。

銀行口座(信託口)を開設する。自分の財産と信託財産を分別管理するため、信託口の銀行口座を開設します。

【費用例】不動産3000万円(土地2000万円・建物1000万円の場合)で、約50万円となります。

・専門家費用(信託財産の1%、30万円程度)

・公正証書作成費用(5万円程度)

・登録免許税(土地:固定資産税評価額の0.3%、建物:固定資産税評価額の0.4%、10万円程度)

・信託登記手続き費用(5万円程度)

家族信託により適用出来なくなる特例

母に相続が発生した場合、自宅を売却することも考えられます。注意すべき点はありますか?

家族信託を設定し、お母様に相続が発生した場合、空き家譲渡特例が適用できません。一方で、小規模宅地等の特例、取得費加算の特例は適用できます。

2022年12月20日に信託税務に関する東京国税局の文書回答事例が公表されました。

信託終了後に帰属される信託不動産については、空き家譲渡特例の適用を受けることができないという回答内容で、家族信託における委託者兼受益者死亡を終了事由とする残余財産の取得は、「相続又は遺贈」には該当せず、適用の対象外と明示されました。

2022年12月20日付国税庁文書回答事例

空き家譲渡特例の対象かどうか(昭和56年5月31以前に建築された家屋)、対象の場合は譲渡益が見込まれるかどうかを事前に確認するようにしましょう。

まとめ

今回は、自宅の相続の際に検討したい「配偶者居住権」と「家族信託」を解説しました。

相続税の軽減策として、一度は配偶者居住権の適用は検討すべきですし、認知症対策として、家族信託は非常に有効です。

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