相続税の非上場株式評価 相互持合株式はどう評価する?連立方程式で解説

こんにちは!円満相続税理士法人の湯本です。

非上場株式の相続税評価においては、原則的な評価方法に加え、実務上判断が分かれる「特殊論点」がしばしば問題となります。
中でも、実務家を悩ませる代表的な論点の一つが「相互持合株式の評価」です。

取引関係や資本政策の一環として、会社同士が株式を相互に保有するケースは珍しくありませんが、相続税評価においては、このようなケースに対する明確な通達上のルールが存在しないのが実情です。

そこで本記事では、株式を相互保有している会社の純資産価額方式による相続税評価方法について、実務上の考え方や注意点を交えながら解説していきます!

相互持合株式の背景

会社同士でお互いの株式を持ち合う主な目的は、株主を安定させて敵対的な買収を防いだり、取引先との関係(仕入れ先や販売先など)を長く安定させたりすることです。

しかしその一方で、株式を持ち合って「安定株主」が増えると、経営陣に対するチェックが甘くなり、企業の健全な経営が損なわれるおそれがあります。

また、株を持ち合っていても、実際には大きな利益につながらないことが多いため、資金の使い方として効率が悪くなるという問題もあります。

このように、メリットよりもデメリットの方が大きいとされることから、最近では株式の持ち合いをやめる企業が増えてきています。

非上場株式の相続税評価

まずは非上場株式の相続税評価方法について、簡単におさらいしておきましょう。

非上場株式の評価は、相続人が同族株主に該当するかどうかによって評価方法が異なります。

相続人が同族株主に該当する場合 ⇒ 原則的評価方式

相続人が同族株主以外に該当する場合 ⇒ 特例的評価方式

ここでいう「同族株主」とは、家族などの近しい関係者(これを「同族関係者」といいます)と合わせて、会社の総議決権の過半数を保有している株主のことを指します。

つまり、親族などの関係性が近い人たちで会社を支配しているかどうかによって、評価方法が変わるということですね!

イメージとしては、こんな感じです。

相続人がファミリーで会社を支配している場合
⇒ 原則的評価方式(株価が高くなる傾向)

相続人がファミリーで会社を支配していない場合
⇒ 特例的評価方式(株価が低くなる傾向)

このイメージを持っておけばOKです!

同族株主が所有する株主を評価する

さらに、原則的評価方式評価を行う場合は、以下のいずれかの方法で株価を算定します。

類似業種比準価額方式

純資産価額方式

本記事では、このうち「純資産価額方式」に焦点を当てて解説していきます。

純資産価額方式とは
純資産価額方式とは、簡単に言うと、会社の貸借対照表に記載された純資産の金額を、その会社の評価額(株価)とみなす考え方です。

ただし、貸借対照表の数値は、購入当時の簿価(取得時の価格)のままになっているのが一般的です。

そのため、資産や負債の項目を時価(相続税評価額)に修正したうえで、評価額を算出する必要があります。

本記事では、非上場株式の評価(純資産価額方式)をさらに掘り下げて解説したいので、非上場株式の評価の基本的な考え方は、こちらの記事をご覧いただくとより理解が深まるはずです!

相互持合株式の相続税評価上の問題点【循環係数】

前述の通り、純資産価額方式は、会社の貸借対照表に記載された純資産の金額を、時価に修正して評価額を算出する必要があります。

しかし、相互持合株式がある場合は「循環計算」と呼ばれる問題点が発生してしまいます。

どういうことなのか、具体例を交えてお伝えします。

前提

被相続人はA社・B社のオーナーで、それぞれA社株式を40%・B社株式を60%直接保有

A社はB社株式を40%保有

B社はA社株式を60%保有

A社・B社は非上場会社であり、純資産価額方式により株価評価を行う

つまり、被相続人はA社・B社の株主であり、かつ、A社・B社は相互に株式を持ち合っているような状況で、オーナーに相続が起こりました。

株価評価はどうなる?

被相続人はA社株式およびB社株式の双方を保有しているため、相続税の計算においては、これらいずれも相続財産として評価の対象となります。
この場合、A社およびB社の株価は、いずれも財産評価基本通達に基づき評価することになります。

ところが、A社の貸借対照表にはB社株式が、B社の貸借対照表にはA社株式がそれぞれ計上されており、互いに相手の株式を保有している状態となっています。

このような状況では、A社株式の評価にはB社株式の価値が影響し、同様にB社株式の評価にはA社株式の価値が影響するため、相互に依存した評価関係が生じます。


結果として、A社株式を評価するにはB社株式の価額が必要であり、B社株式を評価するにはA社株式の価額が必要という循環的な構造になってしまい、評価額が定まらない循環計算の問題が発生するのです。」

実際にExcel等で試算してみると、分かりやすいかもしれません

相互持合株式の相続税評価方法【連立方程式で株価を求める】

相互持合株式の評価においては、原則的な評価方法を用いると循環参照が発生し、株価が収束せずに決定できなくなってしまいます。
そのため、このような場合には、A社株式およびB社株式をそれぞれ変数X・Yとおき、連立方程式を用いて逆算することで株価を求めます!

すみません。全然言っている意味が分かりません…

ですよね…具体的に解説しますので安心してください!

連立方程式は、たしか中学の数学で習うと思いますが、私も記憶の彼方へ飛んで行ってしまっているので、思い出しながら解説していきます(^^;

前提

被相続人はA社・B社のオーナーで、それぞれA社株式を40%・B社株式を60%直接保有

A社はB社株式を40%保有

B社はA社株式を60%保有

A社・B社は非上場会社であり、純資産価額方式により株価評価を行う

A社・B社の貸借対照表(B/S)

A社の貸借対照表(B/S)
資産:1億円 B社株式:X円 負債:8000万円

B社の貸借対照表(B/S)
資産:8000万円 A社株式:Y円 負債:4000万円

株価評価

【計算前提】
B社株式=X
A社株式=Y
α=A社が所有するB社株式の保有割合…40%
β=B社が所有するA社株式の保有割合…60%

【連立方程式】
X=(B社資産-B社負債+Y)×α
Y=(A社資産-A社負債+X)×β

【株価算定】
X=(800-400+Y)×0.4
X=(400+
Y)×0.4
X=160+0.4
Y

Y=(1,000-800+X)×0.6
Y=(200+
X)×0.6
Y=120+0.6
X

X=160+0.4×(120+0.6X)
X=160+48+0.24X
0.76X=208


X【B社株式】=273.68 ∴B社株式=27,368,000円

Y=120+0.6×(160+0.4Y)
Y=120+96+0.24Y
0.76Y=216


Y【A社株式】=284.21 ∴A社株式=28,421,000円

A社・B社の株価算定後の貸借対照表(B/S)

A社の貸借対照表(B/S)
資産:1億円+B社株式:27,368,000-負債:8000万円=純資産:47,368,000円

B社の貸借対照表(B/S)
資産:8000万円+A社株式:28,421,000-負債:4000万円=純資産:68,421,000円

つまり、株価を直接算定しようとすると循環参照が生じてしまいますが、株価をあえて「虫食い状態」として扱い、数値が判明している部分から逆算するアプローチを取ることで、循環参照を回避し、それぞれの株価を合理的に算定することが可能となります。

これ、初めて考えた人頭良いですよね~

相互持合株式の相続税評価上の留意点

連立方程式を用いることで、相互持合株式の評価額を簡単に算定できるので、とても便利な方法ですが、注意点もいくつか存在します。

大会社の場合は検討不要

相互持合株式の評価において、連立方程式を用いて評価しなければならないのは、双方が純資産価額方式で評価される場合です。
したがって、どちらか一方でも大会社であれば、類似業種比準価額方式が適用され、相互に評価が影響し合うことはなくなります。

財産評価基本通達に明確な評価方法の定めはない

相互持合株式の評価については、財産評価基本通達に具体的な評価方法が定められているわけではありません。
そのため、連立方程式で算定した株価が、実態と比べて著しく低いと判断される場合、税務署から評価額について指摘を受ける可能性があります。

とはいえ、現時点では他に実務的な評価方法が存在しないため、仮に指摘があったとしても、どのような根拠で是正するのかは疑問が残ります。

おわりに

近年、相互持合株式は減少傾向にありますが、同族経営を重視する中小企業では、依然としてその慣習が根強く残っているケースも少なくありません。
特に、事業承継や相続対策が注目されている今、株価評価や株価対策の重要性はますます高まっています。

円満相続税理士法人では、非上場株式に関する複雑な評価や特殊な論点にも精通しております。
株価評価・株価対策、またそれに関連する相続対策についてお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください!

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