遺言執行者とは相続人全員の代理人として、遺言書に書かれた内容の実現に必要な一切の権利と義務を持つ人のことをいいます。

指定

遺言執行者の指定の方法は、主に下記の2つです。

遺言による指定

家庭裁判所に対する申立

遺言執行者は、基本的に遺言書によって指定されます。

一人である必要はなく、数人を指定することも可能!また、特定の第三者に遺言執行者の委託を任せることもできます。

さらに、順位を指定することも可能です。その場合には、遺言書に下記のように記載をします。

”遺言執行者には妻A子を指定する。ただし、遺言執行時にA子の就任が難しい場合には、A子に代わって長男B男を遺言執行者とする。”

なお、遺言執行者の指定がされていないが必要である場合や、指定されていた人が辞退するなど遺言執行者がいなくなったときは、家庭裁判所に申立てをすることによって選任することができます。

遺言執行者が必要な場合とは、次の通りです。

遺言によって認知をする場合

法律上、婚姻関係にない男女の間に生まれた子供については、法律上の母親は出産の事実によって確定しますが、父親については認知の手続きが必要になります。

認知をすると、その効力は出生のときまでさかのぼります。

そのため、相続人が増加することになり、法定相続分や相続順位に変動を及ぼすこととなるため、注意が必要です。

また、子供を認知する旨の遺言書が見つかった場合には、遺言執行者は就任から10日以内に認知の届出をする必要がありますので、迅速な対応が求められます。

遺言によって相続人廃除を行う場合

遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言の効力が生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない旨が、民法893条に規定されています。遺言による推定相続人の廃除が認められると、その効力は被相続人の死亡の時までさかのぼります。

そのほか、相続人同士が争っている場合にも、遺言執行者を選任することでトラブルを最小限に抑えられる可能性もあるでしょう。

就任の承諾または辞退

遺言執行者に就任するかどうかは、その人の自由な意思に委ねられているため、もちろん辞退することもできます。

専門的な手続きを担うことになりますが、遺言執行者になるために特別な資格は必要ありません。未成年者及び破産者以外は、誰でも遺言執行者になることができます

なお、一度、遺言執行者に就任した後に、なんらかの事情によって遺言執行者を辞めようとする場合には、就任前の辞退とは異なり、家庭裁判所に辞任の許可を申立てる必要があります。ただし、注意しなければならないのは、申立てをした場合であっても、100%許可されるわけではなく、「正当な理由(病気になってしまった、仕事で遠方に転勤になった等)」が必要になる点です。

単に、「実際にやってみたら、手続きが大変だった…」というのは、正当な理由にはなりません。

辞退と辞任では、手続きの煩雑さが雲泥の差ですので、必ず、辞退についても検討してみてましょう。

承諾する場合

相続人に対して、意思表示をする必要があります。その方式は、法律上制限はなく、口頭でも書面でも良いとされています。

また、承諾したときは、直ちに任務を開始し、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知する必要があります。

なお、平成30年度の民法改正前は、通知義務はありませんでしたが、改正によって通知義務が明確化されました。

辞退する場合

辞退する方法についても、決まりはありません。

相続人その他の利害関係者に対して、遺言執行者を辞退することが伝わればOKです。辞退する理由を問われることもありません。

催告が可能

相続人その他利害関係者は、遺言執行者に対して、相当の期間内に遺言執行者になるか、確答すべき旨を催告することができます。

その定められた相当の期間内に相続人に対して、確答しないときは、就職を承諾したものとみなされるので、注意しましょう。

執行業務の流れ

一般的な流れ

遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の権利義務を有し、次のような流れで業務を行うのが一般的です。

相続財産目録の作成・交付

就任後、遅滞なく、相続開始時点での相続財産を調査し、調査が完了したら、財産目録を作成して、相続人や包括受遺者に交付しなければいけません。

財産目録とは、個人の相続財産をすべてまとめたもので、書式に決まりはありませんが、財産が特定できる情報と評価額を記載する必要があります。負債についても記載を必要です。

遺言の執行手続き

遺言の内容に沿って、実際に遺産を配分します。

その過程で、不動産の所有権移転登記の申請や、預貯金や有価証券の解約・名義変更の手続きを行うことになります。場合によっては、金銭化のために不動産を売却するなど、大掛かりな手続きが必要になることもあります。

なお、相続人は遺言執行者が行うこれらの行為を妨げることはできないとされています。

その他

遺言執行者は、上記のように遺言の内容の実現に向けて遅滞なく業務を遂行することを求められますが、その他にも次のような義務を負っており、違反すると相続人その他利害関係者より損害賠償請求される可能性もあります。

善管注意義務

不当な管理によって、財産に損害を与えることがないように注意義務を負っています。

相続人への報告義務

手続きの進捗を報告する義務を負い、相続人その他利害関係者からの問い合わせにも対応する必要があります。

財産の引き渡し義務

財産に関する受取物があれば、相続人その他利害関係者に引き渡す必要があります。

復任権

上記の執行業務の流れを見てわかるように、遺言の執行とは一般的には難易度の高い手続きが求められる局面が多く存在します。また、想像していたより時間を要するなど、遺言執行者本人が職務を遂行していくのが難しくなる場合も考えられます。

そのようなときには、遺言執行者は、自己の責任で第三者にその任務を任せることが可能です。

これを『復任権』といいます。

復任権についても、平成30年度の民法改正によって大きく変わった点です。

旧民法では、次のように規定がされていました。

遺言執行者は、やむを得ない事由がなければ、第三者に任務を行わせることができない。

つまり、原則NG、例外的にはOKという位置づけでした。

これは、遺言者が信じて任せている、あるいは家庭裁判所が選任するものであることから、第三者に任務を任せることは望ましくないという理由に基づくものでした。

これが、改正によって、次のように規定されることになり、原則OK、例外NGという位置づけに変更されました。

遺言執行者は、自己の責任で第三者にその任務を行わせることができる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

なお、遺言書が作成された日が平成30年7月1日より前であればその遺言書は旧法が適用されることになるため、原則復任権は認められません。一方、平成30年7月1日以降に作成された遺言書であれば、遺言執行者の復任権は当然に認められます。

遺言執行者に指定されており、第三者に任務を任せたいと検討している場合には、遺言書の作成日を確認するようにしましょう。

解任

遺言執行者に就任したにも関わらず、全く手続きを進めてくれないなど、遺言執行者が任務を怠ったときその他正当な事由があるときは、利害関係者は、その解任を家庭裁判所に請求することが可能です。

その他正当な事由とは、病気、長期不在、行方不明など任務の遂行が困難とみられる場合や、一部の相続人の利益に加担しているなど公正さを疑われる場合をいいます。

報酬

遺言執行者へは、報酬の支払いをする場合があります。報酬の有無、金額に決まりはありません

遺言執行者を相続人その他親族が行う場合には、報酬の支払いをしない場合もあります。一方、専門家に依頼する場合には、財産額や財産の内容に応じる報酬規定に基づき支払いをすることになるでしょう。一般的に、専門家に依頼する場合は、遺産総額の1~3%が相場といわれています。

では具体的に、報酬はどのように決まられるのでしょうか?

方法は下記の3つです。

遺言書に報酬が記載されている場合には、その記載に従う

【記載例】

・遺言執行者に対する報酬は、遺産総額の○%とする

・遺言執行者に対する報酬は、金○○万円とする

・遺言執行者に対する報酬は、遺言執行者を依頼する△△弁護士の所属する弁護士事務所の報酬規定に応じる

遺言書に報酬が記載されていない場合は、遺言執行者と相続人全員による話し合いにより決定する。話し合いによっても決まらない場合には、家庭裁判所により決定する

家庭裁判所に対して申立てを行うと、家庭裁判所は相続財産の総額や内容、手続きの難易度を総合的に判断して、報酬額を決定してくれます。

根拠条文

(遺言執行者の指定)

第千六条 遺言者は、遺言で、一人又は数人の遺言執行者を指定し、又はその指定を第三者に委託することができる。

 遺言執行者の指定の委託を受けた者は、遅滞なく、その指定をして、これを相続人に通知しなければならない。

 遺言執行者の指定の委託を受けた者がその委託を辞そうとするときは、遅滞なくその旨を相続人に通知しなければならない。

(遺言執行者の任務の開始)

第千七条 遺言執行者が就職を承諾したときは、直ちにその任務を行わなければならない。

 遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない。

(遺言執行者に対する就職の催告)

第千八条 相続人その他の利害関係人は、遺言執行者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に就職を承諾するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、遺言執行者が、その期間内に相続人に対して確答をしないときは、就職を承諾したものとみなす。

(遺言執行者の欠格事由)

第千九条 未成年者及び破産者は、遺言執行者となることができない。

(遺言執行者の選任)

第千十条 遺言執行者がないとき、又はなくなったときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求によって、これを選任することができる。

(相続財産の目録の作成)

第千十一条 遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければならない。

 遺言執行者は、相続人の請求があるときは、その立会いをもって相続財産の目録を作成し、又は公証人にこれを作成させなければならない。

(遺言執行者の権利義務)

第千十二条 遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。

 遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。

 第六百四十四条、第六百四十五条から第六百四十七条まで及び第六百五十条の規定は、遺言執行者について準用する。

(遺言の執行の妨害行為の禁止)

第千十三条 遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。

 前項の規定に違反してした行為は、無効とする。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。

 前二項の規定は、相続人の債権者(相続債権者を含む。)が相続財産についてその権利を行使することを妨げない。

(特定財産に関する遺言の執行)

第千十四条 前三条の規定は、遺言が相続財産のうち特定の財産に関する場合には、その財産についてのみ適用する。

 遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第八百九十九条の二第一項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる。

 前項の財産が預貯金債権である場合には、遺言執行者は、同項に規定する行為のほか、その預金又は貯金の払戻しの請求及びその預金又は貯金に係る契約の解約の申入れをすることができる。ただし、解約の申入れについては、その預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合に限る。

 前二項の規定にかかわらず、被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

(遺言執行者の行為の効果)

第千十五条 遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる。

(遺言執行者の復任権)

第千十六条 遺言執行者は、自己の責任で第三者にその任務を行わせることができる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

 前項本文の場合において、第三者に任務を行わせることについてやむを得ない事由があるときは、遺言執行者は、相続人に対してその選任及び監督についての責任のみを負う。

(遺言執行者が数人ある場合の任務の執行)

第千十七条 遺言執行者が数人ある場合には、その任務の執行は、過半数で決する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

 各遺言執行者は、前項の規定にかかわらず、保存行為をすることができる。

(遺言執行者の報酬)

第千十八条 家庭裁判所は、相続財産の状況その他の事情によって遺言執行者の報酬を定めることができる。ただし、遺言者がその遺言に報酬を定めたときは、この限りでない。

 第六百四十八条第二項及び第三項並びに第六百四十八条の二の規定は、遺言執行者が報酬を受けるべき場合について準用する。

(遺言執行者の解任及び辞任)

第千十九条 遺言執行者がその任務を怠ったときその他正当な事由があるときは、利害関係人は、その解任を家庭裁判所に請求することができる。

 遺言執行者は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができる。

(委任の規定の準用)

第千二十条 第六百五十四条及び第六百五十五条の規定は、遺言執行者の任務が終了した場合について準用する。

(遺言の執行に関する費用の負担)

第千二十一条 遺言の執行に関する費用は、相続財産の負担とする。ただし、これによって遺留分を減ずることができない。

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