遺言信託とは?トラブル回避 メリット・デメリットをわかりやすく解説

遺言信託って最近よく聞きますけど、なんでしょうか?
遺言書の作成を考えているんですが。

こんにちは!税理士の枡塚です。

最近、信託銀行のCMなどで遺言信託ということばを耳にする機会が増えましたね!

遺言信託とは、簡単にいうと、公正証書遺言を銀行などの金融機関が預かってくれるサービスのことです。

公正証書遺言については、こちらで詳しく解説しています♪

遺言信託は、とても高額な報酬がかかる可能性があります。しかも、その支払いをするのは、遺言書を作成した人ではなく、残された相続人です。そのため、思わぬトラブルが生じることもよくあります。

これまで遺言信託を利用した相続に何件も携わってきた私が、遺言信託のメリットデメリットを徹底解説します!

最後までお読み頂ければ、遺言信託を利用すべきご家族像がはっきりわかります♪さらに、最大のデメリットである高額な報酬を節約する方法も伝授しちゃいます!

遺言信託とは?

信託銀行(一般的な銀行や証券会社でも取り扱いがあります)が、遺言書作成の相談から、遺言書の保管、そして遺言書の執行まで一貫してお手伝いをしてくれるサービスです。

信託銀行等が行う遺言信託の一般的な流れについてご紹介します。

遺言信託

①遺言書作成の相談

まず、遺言書を作りたいなぁと思った方(以下、「遺言者」といいます)は、遺言書作成に向けて、信託銀行等に事前に相談を行います。必要に応じて、税理士や弁護士などの専門家と協力をしながら、遺言書の原案を作成します。

②遺言書の作成

遺言者は、公証役場へ行き、公正証書遺言を作成します。この公正証書遺言で、遺言者が死亡した場合の遺言執行者を信託銀行等に指定をします。

また、公正証書遺言の作成には、2人以上の立会が必要になりますが、依頼をした場合には、信託銀行等の職員が立会人となることも可能です。

③遺言信託の契約

遺言書作成後、遺言者は信託銀行等と遺言信託の契約を締結します。この際、遺言者が死亡した際に信託銀行等へ死亡の連絡を行う死亡通知人を指定する必要があります。

この契約締結により、公正証書遺言の保管は、信託銀行等が行います。内容や財産、相続人の異動等について、定期的な照会が行われます。

次に実際に遺言者が死亡してしまった後の流れについて、確認をしていきます。

遺言信託

④遺言者の死亡を連絡

遺言信託の契約時に指定をされた死亡通知人は、遺言者が死亡した旨を信託銀行等へ連絡します。

⑤遺言書の開示、遺産・債務調査、財産目録の作成

死亡の連絡を受けた信託銀行等は遺言執行者となり、執行業務を始めます。
遺言執行者とは、簡単に言うと、遺言の内容を実現するために必要な手続きを行う人を言います。
相続人の協力を得ながら、遺言者の遺産・債務を調査し、その調査結果に基づき、財産目録を作成します。

⑥相続税申告・納付手続き等のアドバイス

相続人は、相続税申告・納付などの手続きを行いますが、信託銀行等が相続人のサポートを行います。必要に応じて、信託銀行等が提携をしている税理士や弁護士、司法書士などの紹介を受けることも可能です。

⑦遺産分割の実施

信託銀行等は、遺言書の内容に基づき、遺産の管理や処分、名義変更、引渡しなど、相続人等へ遺産の分配を行います。遺言の執行が完了すると、相続人等へ完了報告が行われ、遺言信託業務は終了します。

実際に依頼している人はどのくらいいるの?

遺言信託

一般社団法人信託協会・信託統計便覧が公表しているものです。
年間1万件ペースで増加していることがわかりますね。遺言信託が、身近なものになってきているということがよくわかります。

メリット・デメリット

それでは、遺言信託のメリット・デメリットについて、お話をします!

メリットその1 安心感がある

遺言執行者は、未成年者や破産者以外であれば、誰でもなることができ、相続人のうちの一人や信託銀行等の法人を指定することができます。(民法1009条)

弁護士や公証人、税理士や司法書士といった専門家を遺言執行者に指定するケースは非常に多いですが、個人に依頼をした場合、遺言者より先に死亡してしまうというリスクがあります。

また、遺言執行者は、正当な理由があれば家庭裁判所の許可を得て辞任することもでき、任務を怠れば利害関係者の請求によって解任されることもあるのです。

このように辞任や解任、死亡や破産手続き開始の決定を受けたことにより、遺言執行者がいなくなったときは、利害関係人が家庭裁判所に遺言執行者の選任手続きを行わなければなりません! 
しかし、大手の信託銀行等は、そのような心配はほぼないでしょうから、安心感があります。

メリットその2 遺言作成にあたり事前に相談をすることができる

いざ、遺言書を作成しよう!と思っても、財産をどのように残すことが残された家族にとって良いのか、色々と悩みが出てきてしまい、結局なかなか書き出すまでたどり着かないというお声もよくお伺いします。

遺言信託を依頼すると、遺言書作成にあたって、事前に相談をすることができ、ご意向、相続人や受遺者の関係性、財産の内容を把握したうえで、アドバイスを受けることができます。必要に応じて、提携している税理士や弁護士のアドバイスを受けることも可能でしょう。

メリットその3 資産の有効活用に関する積極的なアドバイスを受けることができる

遺言に記載された資産の内容から、その有効活用に関して生前贈与や資産の組み換えといった資産承継全般のアドバイスも併せて受けることができます!


これは、信託銀行等の本来の業務を活かした強みであり、弁護士や税理士などの専門家にはなかなかできないことです。(宣伝や勧誘が苦手で、積極的な資産の組み換えを考えていない方にとっては、デメリットの一つになりますが…)

デメリットその1 費用が高額

最大のデメリットは費用です!!めちゃくちゃ高額…(;^ω^)
遺言執行時の報酬の算定の基礎となるものは、遺産の額とされ、一般的には遺産の相続税評価額に一定の報酬割合を乗じて計算されます。

依頼をした信託銀行等やそのグループ銀行への預入資産については、報酬割合が軽減されます。主なメガバンクの遺言信託による遺言信託手数料と執行時の報酬割合です。

遺言信託

ご覧いただいてわかる通り、最低執行報酬も定められています。
財産規模や手間にかかわらず、執行時には、最低でもこれだけの報酬がかかるのです!


また、毎年の遺言書保管料や内容を変更する際にも手数料がかかります。よくよく考えたら、「めっちゃ費用かかるやーん!」なんてことにもなり兼ねませんね。

この費用は、相続手続き全てにかかる費用ですよね?

いいえ、この費用は、あくまで遺言執行に係る報酬です。
上記の費用とは別に、税理士に対する相続税申告書作成費用(相場は遺産の0.5%~1%)や司法書士に対する不動産の名義変更費用がかかります

相続手続き全てにかかる金額だと思っていました…
ちなみに、これらの費用は誰が負担するのでしょうか?

相続人です!
なぜなら、遺言を執行するときには、遺言者は亡くなってしまっているからです。

相続した財産からお支払いするにしても、高すぎるーーー!
解約したい…

このように、思いがけない費用に、解約したいと考える相続人が出てくるケースがあります。


この場合には、相続人全員の同意が必要になるほか、中途解約の精算金が生じたり、信託銀行等によっては、解約ができないと言われる場合もあり、思いがけず、様々なトラブルが生じることもあります。

デメリットその2 財産に関するもの以外が引き受けられない

信託銀行等ができることは、法律によって「財産に関する遺言の執行」だけに限定をされています(金融機関の信託業務の兼営等に関する法律 第一条第1項第4号)。

そのため、認知や未成年者後見人の指定といった身分行為の遺言執行者となることができません。また、相続人の廃除の意思表示に基づく、家庭裁判所への申立てについても、信託銀行等では受けることができません。

デメリットその3 相続争いが発生した場合は引き受けられない

信託銀行等が取り扱うことができる相続業務について、日本弁護士連合会と社団法人信託協会との間で下記のような合意をしています。


①信託銀行等は、相続人間で争いが生じているか、その恐れが高いものは相談に応じない
②信託銀行等は、法的紛争が生じている場合には、遺言執行者に就任しない
などなど…


弁護士業務の権益を守るための取り決めをしていますので、信託銀行等は争いの仲介役はしてくれないのです。

遺言信託をおすすめしたい人

メリット・デメリットをそれぞれ見てきました。
では、どのような方が信託銀行等で遺言信託をすべきなのでしょうか?

おすすめしたい人その1 財産規模が大きい・金融資産の預入先が分散しすぎている場合

相続手続きは、たくさんの書類を収集する必要があります。そのため、財産の規模が大きい方や、金融資産をいくつもの銀行に預け入れている方は、その分手続きが煩雑になり、相続人の方は非常に大変な思いをされます。

しかし、遺言信託を依頼した場合には、それら一連の手続きを代わりに行ってくれるので、相続人の方々の負担はとても減少することになります。


財産の規模が大きい、金融資産の預入先が多数に及んでいる、相続人がお忙しい…そんなご家族にはおすすめです

おすすめしたい人その2 家族構成がシンプルで、関係性に少し距離がある場合

デメリット3でもお伝えした通り、相続争いに発展しそうな場合には、信託銀行等では引き受けてもらえません。しかし、争いまでにはならないけれど、関係性に少し距離があるようなご家族には、第三者が手続きを進めてくれることにより、すべて丸く、スムーズに終わるケースがあります

例えば…
①家族構成は、遺言者・配偶者・子供が2人。子供のうち1人は海外に居住していて、仕事が忙しく、年に1回帰国できるかできないかである。
②家族構成は、遺言者・子供が2人。配偶者は既に亡くなっており、子供2人はそれぞれ遠方に住んでいて、家庭を持っているため、数年に1度会うくらいだ。

物理的な距離だけでなく、精神的な距離も第三者が介入することにより、埋めてくれるケースがあります。

知って得するポイント

ここまでを読んで頂き、遺言信託に興味はあるけど、やっぱり最大のデメリットである費用が気になるという方にその費用を抑える方法をご紹介します

デメリット1でもご紹介した通り、遺言を執行する際の執行報酬は、遺産の総額を基に計算されます。国税庁が公表している「相続税の申告事績の概要」によると、相続財産に占める土地建物の割合は約40%です。

年々この割合は減少傾向にはありますが、それでもなお、相続財産のうちに占める不動産の割合は非常に高いものです。もちろん、そんな不動産についても、遺言信託を依頼すると規定通りの報酬がかかります。

そこで、知って得するポイントです!!

不動産の遺言執行(所有権の移転登記)については、信託銀行等にお願いせず、ご自身で司法書士に直接依頼をする!!

たったこれだけのことです!!


過去の判例に、不動産について、相続人に「相続させる」と記載した遺言書がある場合には、その不動産については遺言執行手続きは不要とする判例があります(最高裁平成7年1月24日判決)。

裁判要旨には、以下のように記載されています。

特定の不動産を特定の相続人甲に相続させる旨の遺言により、甲が被相続人の死亡とともに当該不動産の所有権を取得した場合には、甲が単独でその旨の所有権移転登記手続をすることができ、遺言執行者は、遺言の執行として右の登記手続をする義務を負わない。

この判例から、遺言書に「不動産○○については、相続人▲▲に相続させる」と記載することにより、公正証書遺言のみで、その不動産を取得した相続人単独で所有権移転登記をすることが可能です。

つまり、言執行者に執行手続きをしてもらう必要はないのです!


しかし、多くの方はこの取り扱いをご存知でないため、不動産もまとめて信託銀行等に執行手続きを依頼し、高額な費用を請求されています。

解決策

①遺産の種類ごとに遺言執行者を指定する

不動産に関しては指定しない


②遺言書を不動産とその他の資産とに分けて2通作成する

不動産に係る遺言書については遺言執行者なしとし、その他の資産に係る遺言書のみ遺言執行者を信託銀行等とする

上記のいずれかの方法により遺言書を作成することで、不動産に係る執行報酬を節約することができます(^^♪

ただし、「相続させる」と記載ができるには、相続人に対してのみです。相続人以外の人に不動産を渡したい場合には、「遺贈する」と記載せざるを得ないので、遺言執行手続きが必要となりますので、ご注意ください。

ちなみに、所有権の移転登記(相続登記)は、必ず司法書士に依頼をしないといけないというものではありません。さらに費用を削減する方法として、相続登記をご自身でする手もあります!

相続登記を自分でやる方法については、こちらで詳しく解説をしています!

さらに、円満相続税理士法人では、遺言の特殊な取扱いについても、しっかりとご案内をします。遺言があるからこそ困っているというご相談もよくお伺いします。故人の思いをしっかりと残しつつ、ご相続人皆様がスムーズに相続できるようサポートしていきます。こちらも合わせてお読みください♪

≫相続税申告プラン

まとめ

遺言信託についてご紹介してきましたが、ご理解頂けましたでしょうか?

費用は非常に高額となるケースはありますが、残されたご家族の負担を軽減する手段として、非常に有効な場合があります。メリットデメリットをしっかりとご理解頂き、無駄な費用を支払うことのないように対策をしたうえで、活用しましょう!

自分には遺言信託が必要なの?そもそも遺言書を書くべきかな?など、遺言書作成に関してお困りのことがありましたら、是非、円満相続税理士法人にご相談ください!円満相続税理士法人では、多くの遺言書作成のお手伝いをしているだけでなく、実際に自身の遺言書を作成してしているメンバーもいます!

大切な資産を最善の形で、ご家族に残す方法を一緒に検討させて頂ければ幸いです♪

※今回ご紹介した「遺言信託」は、法的な意味での信託行為を遺言によって行う「遺言信託」とは異なるものです。

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