こんにちは!円満相続税理士法人の湯本です。
円満相続税理士法人 税理士 大学在学中から税理士を目指し25歳で官報合格。 法人税務を経て現在は円満相続税理士法人にて、 相続・事業承継のプロとして、 申告・税務相談・執筆・セミナー講師など 幅広く活動中! 詳しいプロフィールはこちら
親御様の土地にお子様が建物を建てたり、もともとあった賃貸不動産の建物だけをお子さまに贈与したりして、
特に地代のやり取りをせず賃貸アパートなどを経営されているような場合があると思いますが、
課税関係はしっかり整理できていますか?
結論から言うと、賃貸アパートなどを経営している場合は税務上のメリットがいくつかありますが、駐車場などを経営している場合は、逆に税金の負担が重くなるケースがあるのです!
地代のやり取りをせず土地の貸借をすることを、専門用語で『使用貸借』と言います。
今回は、特に親族間での使用貸借が絡んだ課税関係について、掘り下げていこうと思います。
使用賃借による賃貸経営 税務上のメリット
親御様が賃貸経営をするだけでも税金的なメリットを得られますが、
たとえば、建物の名義を子・土地の名義は親・両者間で地代の授受はなし(使用貸借契約)といった感じに、
子が親の土地の上で賃貸アパートを経営するような形態を取ることで、
税金的な恩恵をより受けられる可能性があります。
⑴小規模宅地の特例(貸付事業用宅地等)の適用が受けられる【相続税対策】
小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地等 以下、「貸付事業用宅地等」)とは、簡単に言うと賃貸事業に利用されていた土地を相続すると、一定要件を満たすことで、200㎡まで土地の評価を50%減できる特例のことです。
その分、相続税の負担を抑えることができます。
一定要件とは…
①相続開始の直前において被相続人ないしは被相続人と生計を一にしていた親族(簡単に言うと生活費を支払うお財布が同じ親族)の貸付事業※に利用されていた宅地等であること
>>>小規模宅地等の特例「生計を一にしていた」とは?判例を徹底解説
②被相続人の親族が相続または遺贈によりその宅地等を取得すること
③被相続人から、貸付事業を相続税の申告期限までに引き継ぎ、かつ、申告期限まで貸付事業を継続すること
④被相続人と生計を一にしていた親族の場合は、相続開始前から相続税の申告期限まで、貸付事業を継続していること
⑤その宅地等を相続税の申告期限まで有していること(つまり、売っちゃダメということ。)
⑥基本的に、相続開始の3年以上前から、貸付事業を営んでいること(例外あり)
※ 貸付事業とは、不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業および準事業(サラリーマンが副業で行う賃貸事業等)をいいます。
>>>小規模宅地等の特例~貸付事業用宅地等の場合~を徹底解説
ということで色々細かい要件があるのですが、そこまでハードルの高い要件ではないので相続税対策として、賃貸不動産を持つ方は結構いらっしゃいます。
※①の『被相続人と生計を一にしていた親族が貸付事業をしていた場合』とは、土地は親名義、建物は生計が一である子名義という状況で、土地を子が親から使用貸借をして、賃貸経営をしているようなケースです。
つまり、生計一である子が、親名義の土地に建物を建てたり、建物の贈与を受け貸付事業を行う場合、200㎡まで土地の評価を50%減でき、その分相続税の負担が下がるというわけです。
⑵相続財産の膨張を防ぐ【相続税対策】
賃貸不動産を持つことで、相続税の負担を抑えられるのは分かりましたが、
賃料収入を生む建物を親が持っていると、結局賃貸収入が親に蓄積することになり、相続財産が膨張する結果になります。
そこで、生前に建物部分だけでも子へ贈与等で渡してしまうことで、賃料収入が親ではなく子へ蓄積することになりますので、親の相続財産の膨張を防ぐことができるわけです。
生前贈与をしてしまうと、貸付事業用宅地等を受けられなくなるのではないでしょうか?
おっしゃる通り、生計を別にしている子へ贈与してしまった場合、
貸付事業用宅地等の要件である⑴①『被相続人ないしは被相続人と生計を一にしていた親族の貸付事業の用』という要件から外れることになり、適用ができなくなります。
ただ、子がもし生計一親族である場合は、引き続き『生計を一にしていた親族の貸付事業の用』の要件は満たすことになるので、貸付事業用宅地等の恩恵を受けられるということになります。
⑶所得分散効果【所得税対策】
賃料収入を親だけで受けていた場合、賃貸収入が小さければ良いですが、
例えば都心の一等地にあるような家賃の高い物件を複数賃貸している場合、親の収入が非常に大きくなることになります。
所得税は累進課税と言って、年間収入が大きくなればなるほど、所得税の負担が大きくなり、住民税と合わせて最大55%の税負担になります。
資産管理会社の設立等で所得分散を図ることも考えられますが、賃料収入が法人を建てる程大きくない場合や、親が既に高齢である場合は、法人化はあまりお勧めできません。
というのも、賃料収入が小さい場合は、所得税率より法人税率の方が高くなってしまいます。
また、ご高齢で法人化対策をすると、万が一法人化対策後すぐにご相続が起こってしまうと、不動産の評価額が上がってしまいますので、結局相続税が高くなる可能性が高いです。
そこで、賃料収入を生む建物だけを先んじて子へ生前贈与しておくことで、親と子で所得分散ができ、所得税の負担が抑えられるということになるわけです。
生計一親族が賃貸経営をするケース別課税関係
ここからは親の土地に、子などの生計一親族が、使用賃借によって賃貸経営をする場合のケース別の課税関係を整理していきましょう。
⑴生計一親族が建物を賃貸しているケース
生計一親族が建物を賃貸しているケースとは、たとえば、父名義の土地を子へ使用貸借し、建物は子名義にして賃貸事業を行うというケースです。
このケースの特徴は、
貸付事業用宅地等の恩恵を受けることが出来る→相続税Down
賃料収入は子が享受することになり、父の相続財産の膨張を防ぐことが出来る→相続税Down
父と子で所得分散が図れるため、所得税の負担を分散出来る→所得税Down
というわけで、上記1.でお話した税務上のメリットを享受できるということになります。ただ、次のようなケースの課税関係には注意が必要です。
⑵生計一親族が構築物を賃貸しているケース
生計一親族が構築物を賃貸しているケースとは、たとえば、父名義の土地を子へ使用貸借し、子がアスファルトを敷いて月極の賃貸駐車場を営むようなケースです。
一般的に構築物として挙げられる例は、アスファルトやマンションの立体駐車場、購入した砂利などです。
このケースの特徴は、
子の収入でなく、土地の所有者である父の収入として所得税の確定申告をしなくてはない=所得分散が図れない。→所得税Up
父が本来受けるべきであった賃料収入を子が受け取っているため、父から子への賃料収入相当額の贈与があったものとみなされる。(みなし贈与課税)→贈与税Up
みなし贈与のうち相続開始前7年以内のものは、生前贈与加算の対象になり、相続税対策にならない。→相続税Up
※ただ、土地は父の賃貸事業用ということになるので、相続時に貸付事業用宅地等が適用できる余地はあります。
ということで、税金のトリプルパンチを食らってしまう可能性があるわけです!実際に、これとほぼ同じようなケースを巡り、国税不服審判所で実際に争われた事例があります。
『親が子に対し駐車場である土地を使用貸借し、駐車場の賃料収入を子に帰属させた場合に、その賃料につき対価を支払わないで利益を受けた場合に該当するものとして、子に対する贈与税課税が認められた事例』(国税不服審判所 令和5年6月13日裁決)
上物が建物なのか、アスファルトのような構築物なのかで課税関係が変わってくる理由として、
ポイントは大きく3つあると考えられます。
ポイント①:アスファルトは土地の構成部分となり、建物のように独立の所有権が成立する余地がなく、アスファルトを含む土地そのもの賃貸していると考えられる点
ポイント②:使用貸借は賃貸借と違い、借主に借地権等の権利が全く保証されていないので、貸主の一存で手放さなくてはならないことがある(つまり、子の立場が非常に弱い)点
ポイント③:所得税の発生要因である収入は、それに見合う費用や労力を投下して得るものという考えが根本にあることから、このケースでは子は賃料収入を得るためにほとんど費用や労力を投下していない (子が頑張って稼いだというより、父から贈与受けたんでしょ?と捉えられる)点
というように上記のポイントを総合的に考えると、
子が賃貸経営をしているというよりは、父が賃貸経営をしていて、その賃料収入相当額を子へ贈与したようなものですよね!
という結論にも納得がいきます。
おわりに
生前贈与による相続税対策が非常に厳しくなった昨今では、不動産を用いた相続税対策は必要不可欠です。
ただ、親の土地を子に利用させて所得を分散する相続税対策については、思わぬ落とし穴がありますので、十分な注意が必要です。