遺言をしたとしても、喧嘩をして遺産を相続させたくなくなったなどの理由で、遺言を撤回したくなるかもしれません。

結論から言えば、遺言を撤回することは可能です。

しかし、遺言を撤回するには、民法が定める方式(ルール)を満たさなければなりません。

また、一定の行為をした場合は、遺言を撤回するつもりでなかったとしても、遺言を撤回したと見なされる場合があるのです。

そこで今回は、遺言を撤回する方法や、遺言を撤回したと見なされるケースについて解説します。

目次
  1. 遺言の撤回とは
  2. 遺言の撤回の基本的なルール
    • 遺言の撤回はいつでもできる
    • 遺言は何度でも撤回できる
    • 遺言は一部だけを撤回することもできる
    • 遺言を撤回しないという宣言は無効
    • 遺言を撤回した後に新しい遺言をすることもできる
  3. 遺言を撤回する方法
    • 遺言を撤回するには方式を満たす必要がある
    • 遺言を撤回する方式は遺言自体の方式でなくても良い
    • 遺言を撤回するための記載例
  4. 遺言を撤回したと見なされる場合がある
    • 新しい遺言が古い遺言と抵触する場合
    • 古い遺言と抵触する行為をした場合
    • 遺言書を故意に破棄した場合
    • 遺贈の目的物を故意に破棄した場合
  5. まとめ

遺言の撤回とは

遺言の撤回とは、一度した遺言をなかったことにする意思表示のことです。

たとえば、相続人として長男と次男がいる場合に、「長男にA銀行の預金を相続させる」という内容の遺言書を作成したとしましょう。

ところが、遺言書を作成した後に長男と喧嘩をしたので、故人は遺言を撤回しました。

遺言の撤回が行われると、その遺言は最初からなかったものとして扱われるので、長男がA銀行を相続するという遺言はなかったことになります。

もし、「長男にA銀行の預金を相続させる」という遺言を撤回した後に、故人が新しい遺言をせずに亡くなって相続が発生した場合、遺言が存在しないのと同じ状態になります。

その結果、A銀行の預金を誰が相続するかは遺言で指定されていない状態になるので、長男と次男が遺産分割協議をして、誰がA銀行の預金を相続するかを決めることになります。

遺言の撤回の基本的なルール

撤回できる期限や回数など、遺言の撤回に関する基本的なルールを解説します。

遺言の撤回はいつでもできる

遺言を撤回できる時期については制限がないので、遺言者(遺言をする人)は遺言をいつでも撤回することができます。

具体的には、遺言者が亡くなって相続が開始するまでは、いつでも遺言を撤回することが可能です。

撤回する時期が早すぎるために無効になることはなく、時期が遅すぎるために無効になることもありません。

たとえば、遺言を作成した次の日に撤回することができますし、遺言を作成してから10年後に撤回することもできます。

遺言は何度でも撤回できる

遺言を撤回できる回数に制限はないので、理論上は遺言を何度でも撤回できます。

たとえば、「長男に不動産Aを相続させる」という遺言をした後に、長男と喧嘩をしたので遺言を撤回したとします。

その後、「次男に不動産Aを相続させる」という二回目の遺言をしましたが、次男とも喧嘩をしたので、二回目の遺言も撤回したとしましょう。

遺言を撤回できる回数に特に制限はないので、遺言を撤回した後に新しい遺言をしたとしても、その新しい遺言を撤回することもできます。

撤回できる回数に制限がないことから、一回目の遺言を撤回し、二回目の遺言も撤回し、三回目の遺言も撤回する…を繰り返すことも理論上は可能です。

しかし、遺言の撤回をした後に、新しい遺言が完成する前に故人が亡くなってしまうと、遺言が存在しないのと同じ状態になってしまう点には注意が必要です。

遺言は一部だけを撤回することもできる

遺言は全部を撤回するだけでなく、遺言のうち一部だけを撤回することも可能です。

遺言の全部を撤回すると、遺言全体について遺言がなかったことになります。

たとえば、「長男が不動産Aを相続する、次男が不動産Bを相続する」という遺言をしたとしましょう。

遺言の全部を撤回した場合、不動産Aについても不動産Bについても、誰が相続するかを指定していない状態になります。

遺言を撤回した後に故人が亡くなって相続が発生した場合、不動産Aと不動産Bそれぞれについて誰が相続するのか、遺産分割協議をして決めなければなりません。

しかし、遺言は全部を撤回するのではなく、一部だけを撤回することもできます。

たとえば、「長男が不動産Aを相続する、次男が不動産Bを相続する」という遺言をした後に、「次男が不動産Bを相続する」という部分だけを撤回したとしましょう。

この場合、「次男が不動産Bを相続する」ことは撤回されたので、不動産Bについては、遺産分割協議によって誰が相続するかを決めなければなりません。

一方、「長男が不動産Aを相続する」という部分は撤回されていないので、遺言の効力が認められます。

故人が亡くなって相続が発生した場合、不動産Aについては、遺言に従って長男が相続することになります。

遺言を撤回しないという宣言は無効

遺言を撤回しないという宣言をしたとしても、宣言自体が無効になるので、遺言を撤回することは可能です。

遺言を撤回する権利を放棄することはできないと規定されている(民法1026条)ので、遺言を撤回しないという宣言をしても、その宣言は無効になってしまうからです。

自分に有利な遺言をしてもらった相続人としては、遺言をいつでも撤回できるとすると、自分に有利な遺言が撤回されないか心配になってしまうかもしれません。

そこで、遺言者を説得して「私は遺言を撤回しないことを宣言します」と一筆書かせることで、遺言を撤回されないようにしたとします。

しかし、遺言を撤回する権利を放棄することはできないので、遺言を撤回しないという宣言をしても、無効になってしまうのです。

宣言をしても無効になることから、遺言者は宣言をした後でも、自由に遺言を撤回することができます。

遺言を撤回した後に新しい遺言をすることもできる

遺言を撤回した後に、新しい遺言をすることも可能です。

一度した遺言を撤回すると、その遺言は無効になりますが、遺言を撤回した後に新しい遺言をした場合、その遺言は法的な効力が認められます。

たとえば、「不動産Aは長男に相続させる」という内容の遺言(遺言甲)をした後に、長男と喧嘩をしたために、遺言甲を撤回したとします。

その後、次男に熱心に世話をしてもらったので、「不動産Aは次男に相続させる」という内容の遺言(遺言乙)をしたとしましょう。

この場合、遺言甲は撤回によってなかったことになり、遺言の効力は認められません。

しかし、遺言甲を撤回した後に作成された遺言乙は、それが遺言に必要な様式をきちんと満たしていれば、新しい遺言として法的な効力が認められます。

遺言乙を作成した後に故人が亡くなって相続が発生した場合、遺言乙の内容に従って、次男が不動産Aを相続します。

遺言を撤回する方法

遺言を撤回するための基本的な方法について解説します。

遺言を撤回するには方式を満たす必要がある

遺言を撤回する方法はなんでも良いわけではなく、民法が定める遺言の方式によらなければなりません(民法1022条)。

民法は遺言の方式を厳格に定めており、原則的な方式として自筆証書遺言・秘密証書遺言・公正証書遺言の3種類があります。

それぞれの遺言の方式には厳格なルールがあり、ルールを守っていない場合は遺言の効力が認められません。

遺言を撤回する場合も同様であり、民法が定める方式を満たさなかった場合は、撤回の効力が認められないのです。

たとえば、自筆証書遺言の方式の一つは、遺言の全文を遺言者自身が自署しなければならないことです。

そのため、自筆証書遺言の方式によって遺言を撤回するには、遺言を撤回する旨を遺言者自身で自署する必要があります。

ただし、ある遺言の方式を満たしていない場合でも、他の遺言の方式を満たしている場合は、撤回の効力が認められます。

たとえば、遺言の撤回をした場合に、公正証書遺言の方式を満たしていなくても自筆証書遺言の方式を満たしている場合は、撤回の効力が認められるのです。

遺言を撤回する方式は遺言自体の方式でなくても良い

遺言を撤回するには、民法が定める方式による必要がありますが、遺言自体とは異なる方式でも問題ありません。

たとえば、自筆証書遺言の方式で遺言を作成した場合に、必ずしも自筆証書遺言の方式で撤回する必要はありません。

秘密証書遺言や公正証書遺言など、自筆証書遺言以外の方式によっても遺言を撤回することができます。

遺言を撤回するための記載例

遺言を撤回するための主なポイントは、以下の2つです。

・どの遺言を撤回するのか(遺言書の日付と種類を明らかにする)

・遺言のうちどの部分を撤回するのか(全部なのか一部なのか明らかにする)

上記のポイントを押さえた遺言の撤回の記載例として、以下を参考にしてください。

①:遺言者は、◯年◯月◯日付で作成した自筆証書遺言について、全部を撤回する

②:遺言者は、◯年◯月◯日付で作成した自筆証書遺言のうち、「甲不動産を長男に相続させる」の部分を撤回する

上記の記載例においては、遺言の日付や種類を具体的に記載しているので、どの遺言を撤回するのかが明らかです。

また、遺言のうちどの部分を撤回するのか(全部なのか一部なのか、一部の場合はどの部分を撤回するのか)も明らかになっています。

遺言を撤回したと見なされる場合がある

一定の行為をした場合は、遺言を撤回することを明言していなくても、遺言を撤回したと見なされることがあります。

そこで、遺言を撤回したと見なされるケースについて解説します。

新しい遺言が古い遺言と抵触する場合

新しい遺言の内容が、古い遺言と抵触する場合は、抵触する部分について古い遺言を撤回したものと見なされます。

たとえば、「不動産Aを長男に相続させる」という遺言をした後に、「不動産Aを次男に相続させる」という新しい遺言をしたとしましょう。

この場合、不動産Aを誰が相続するかについて古い遺言と抵触するので、「不動産Aを長男に相続させる」という古い遺言は撤回したと見なされます。

その結果、「不動産Aを次男に相続させる」という新しい遺言の効果によって、不動産Aは次男が相続することになります。

古い遺言と抵触する内容の遺言をした場合は、古い遺言を撤回しなくても、自動的に撤回したものとして処理されるのです。

注意点として、古い遺言が撤回されるのは、新しい遺言と抵触する部分のみです。

抵触しない部分については、依然として古い遺言が有効なので注意しましょう。

たとえば、「不動産Aを長男に相続させる。不動産Bを次男に相続させる」という遺言をしたとします。

その後、「不動産Aは次男に相続させる」という新しい遺言をした場合、「不動産Aを長男に相続させる」という古い遺言の一部分と抵触するので、その部分は撤回したと見なされます。

その結果、「不動産Aは次男に相続させる」という新しい遺言の効果によって、不動産Aは次男が相続することになります。

一方、古い遺言のうち「不動産Bを次男に相続させる」という部分は新しい遺言と抵触しないので、この部分の効果は存続します。

その結果、不動産Aも不動産Bも、両方とも次男が相続することになるのです。

古い遺言と抵触する行為をした場合

古い遺言と抵触するような行為をした場合は、抵触する部分について古い遺言を撤回したものと見なされます。

新しい遺言を作成しなくても、古い遺言と抵触する行為をした場合には、その部分について古い遺言を撤回したものと見なされるのです。

たとえば、叔父にお金を貸してもらったお礼として、「不動産Aを叔父に遺贈(遺言によって遺産を譲ること)する」という遺言をしたとしましょう。

その後、甥にもお金を貸してもらったので、そのお礼として不動産Aを甥に贈与したとします。

この場合、不動産Aはすでに甥に贈与してしまったので、叔父に遺贈することはできません。

甥に不動産Aを贈与するという行為が、古い遺言と抵触するため、遺言が撤回されたと見なされるのです。

遺言書を故意に破棄した場合

遺言者が遺言書を故意に(わざと)破棄した場合は、遺棄した部分について遺言を撤回したものと見なされます。

たとえば、故人が「長男に不動産Aを相続させる」と記載された遺言書を作成したとしましょう。

その後、故人が長男と喧嘩をして、もう長男に不動産を相続させる気がなくなったので、遺言書を破り捨ててしまいました。

この場合、遺言者が故意に遺言書を破棄しているので、「長男に不動産Aを相続させる」という遺言は撤回したものと見なされます。

遺贈の目的物を故意に破棄した場合

遺言書が遺贈の目的物を故意に破棄した場合は、遺贈の目的物についての遺言を撤回したものと見なされます。

遺贈とは、故人が亡くなって相続が発生した場合に、故人の財産を指定した人に譲る行為です。

遺贈によって相手に譲る財産を、遺贈の目的物といいます。

たとえば、「自動車Aを遺贈する」という遺言をした場合、自動車Aが遺贈の目的物です。

遺言者が遺贈の目的物を故意に破棄した場合は、遺贈の目的物についての遺言を破棄したと見なされます。

「甥に自動車Aを遺贈する」という遺言をした後に、遺言者が自動車Aを廃棄処分した場合は、甥に自動車Aを遺贈するという遺言は撤回したと見なされるのです。

注意点として、遺言が撤回されるのは遺贈の目的物に関する部分だけです。

遺贈の目的物以外の部分、たとえば「不動産Aを長男に相続させる」などの部分については、遺言は依然として有効なので注意しましょう。

まとめ

遺言者は、遺言の全部または一部をいつでも撤回することができます。

遺言を撤回した場合、撤回した部分については遺言の効力が生じません。

遺言を何度も撤回したり、撤回した後に新しい遺言をしたりすることも可能です。

ただし、遺言を撤回するには、民法が定める遺言の方式を満たす必要があります。

また、遺言書を破棄したり、遺贈するはずの物を処分したりなど、一定の行為をした場合は、遺言を撤回したと見なされることがあるので注意しましょう。

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