円満相続税理士法人 代表税理士
『最高の相続税対策は円満な家族関係を構築すること』がモットー。日本一売れた相続本『ぶっちゃけ相続』7.1万部の著者。YouTubeチャンネル登録者7万人。新婚。
祭祀財産の概要と書類
祭祀財産(さいしざいさん)とは、神や祖先をまつるために必要な財産のことです。
神や祖先をまつることを一般に祭祀といいます。祖先をまつるのが祭祀の典型例ですが、宗教や宗派によっては神をまつる場合もあります。
祭祀に用いるための財産であることから、祭祀財産と呼ばれます。
祭祀財産の種類として、民法は以下の3種類を規定しています(民法897条1項)。
系譜(けいふ)
祭具(さいぐ)
墳墓(ふんぼ)
系譜(けいふ)
系譜とは、先祖から子孫へと連なる血縁関係のつながりを表したものです。
その家の代々の血縁関係が把握できる絵図や記録であり、いわゆる家系図や家系譜のことです。
冊子・巻物・掛け軸などの形で系譜が残されている場合もあります。
祭具(さいぐ)
祭具とは、祭祀に用いられる器具のことです。
どのような器具が祭祀に用いられるかは宗教や宗派によって異なりますが、祭具の典型例として仏像・位牌・十字架などがあります。
お盆で先祖を迎えるために用いられる盆提灯も、祭具の一種です。
仏壇や神棚など、一般に取り外しが困難なものも祭具にあたります。ただし、仏間など建物の一部になっているものは、器具ではないので祭具に該当しません。
墳墓(ふんぼ)
墳墓とは、亡くなった人の遺体や遺骨を葬るための設備であり、いわゆるお墓のことです。
墓碑・墓石・埋棺・霊屋などが墳墓に該当します。
墳墓が設置される敷地である墓地についても、墳墓と社会通念上一体のものと捉えられる範囲の敷地であれば、墳墓に含まれるとされます。
ただし、あまりに広大すぎる敷地の場合は、墳墓と社会通念上一体のものとは認められず、墳墓には含まれないとされる可能性があります。
祭祀財産は相続税の対象にならない
祭祀財産を承継すると、その分だけ相続税が多く発生すると思われるかもしれませんが、祭祀財産は原則として相続税の対象ではありません。
相続税の対象となるのは預貯金・不動産・有価証券などの相続財産ですが、祭祀財産は相続財産に含まれないからです。
相続税法においても、「墓所、霊びよう及び祭具並びにこれらに準ずるもの」は、相続税の課税価格に算入しない旨が規定されています(相続税法12条1項2号)。
相続財産ではないことから、被相続人(遺産をのこして亡くなった人)が生前に祭祀財産を購入しておけば、財産が減少して相続税対策になるとする考え方があります。
しかし、あまりに高価なものを購入した場合は祭祀財産とは認められずに、税務署から課税逃れの指摘を受ける可能性があります。
また、相続税には基礎控除がある(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数)ので、そもそも祭祀財産を購入して節税対策をする必要がないケースも少なくありません。
節税対策を検討する場合は、まずは税理士に相談することをおすすめします。
祭祀財産を承継するのは誰か
系譜・祭具・墳墓などの祭祀財産を承継するのは、祭祀承継者(さいししょうけいしゃ)です。
祭祀承継者を決める方法は民法に規定されており、以下の3段階の方法によって決まります。
①故人が祭祀承継者を指定する(民法897条1項但書)
②慣習によって祭祀承継者を決める(同条同項)
③家庭裁判所が祭祀承継者を決める(同条2項)
3つの方法には優先順位があり、まず①の方法が優先されます。
①の方法で決まらない場合は、②の方法で決められます。それでも決まらない場合は、最後に③の方法によります。
故人が祭祀承継者を指定する
誰を祭祀承継者にするかを故人が指定した場合は、故人の指名を受けた人が祭祀承継者になります。
たとえば、遺言書の中に
長男を祭祀承継者として指定する
と記載するなどです。
遺言書によって祭祀承継者を指定するのが一般的ですが、遺言書に記載する以外の方法も認められるので、書面や口頭による指定も可能です。
ただし、遺言書以外の方法で指定をすると、書面を紛失したり言った言わないのトラブルになったりする可能性があるので、基本的には遺言書で指定することをおすすめします。
慣習によって祭祀承継者を決める
故人が祭祀承継者を指定しなかった場合は、慣習によって祭祀承継者を決めます。
慣習とは、ある社会や集団などにおいて長年認められている、決まりやしきたりのことです。
家や地域の慣習によって祭祀承継者が決まる場合は、その慣習によるということですが、現代社会においては何が慣習であるかは必ずしも明確ではありません。
そこで、慣習によって決めるといっても、実際には相続人が話し合いをして、誰が祭祀承継者になるかを決める場合が少なくないのです。
家庭裁判所が祭祀承継者を決める
慣習(相続人の話し合いを含む)によって祭祀承継者が決まらない場合は、最後の手段として、家庭裁判所が祭祀承継者を決める方法があります。
具体的には、相続人などの利害関係人が家庭裁判所に調停または審判の申し立てをして、祭祀承継者を指定するように求めます。
家庭裁判所がどのような基準で祭祀承継者を決めるかは、法律には明確な規定はありませんが、以下のような要素を考慮したうえで、祭祀承継者を指定するのが一般的です。
被相続人と祭祀承継者の関係
過去の生活状況
祭祀承継者候補の意思や能力
相続人などの利害関係人の意見
祭祀財産の承継は拒否できない
祭祀承継者に指定された場合、祭祀財産の承継を拒否することはできません。
たとえば、遺言書によって長男が祭祀承継者に指定された場合に、長男が祭祀承継者になりたくなかったとしても、祭祀財産の承継を拒否することはできないのです。
相続財産を相続したくない場合は、相続放棄をすれば相続せずにすみますが、祭祀財産の承継を拒否するための制度はありません。
相続放棄をしても祭祀財産は承継できる
相続放棄をした場合でも、祭祀財産は承継できます。
相続放棄をした場合、最初から相続人ではなかったものとして法的に扱われるので、相続財産(預貯金や債務など、相続の対象となる財産)は相続できなくなります。
しかし、祭祀財産は相続財産ではないので、相続放棄をした場合でも、祭祀承継者に指定されれば祭祀財産を承継できるのです。
相続放棄をした人が祭祀承継者に指定された場合、相続財産は相続せずに、祭祀財産だけを承継することになります。
祭祀財産を処分することは可能
祭祀財産を承継することは拒否できませんが、承継した祭祀財産を処分することは可能です。
ただし、祭祀財産の処分が可能であるとしても、祭祀承継者の都合だけで祭祀財産を処分してしまえば、他の親族とトラブルになる可能性が高いので注意しましょう。
たとえば、維持や管理に費用がかかるなどの理由で、先祖代々伝わっている祭祀財産を勝手に処分してしまえば、親族との関係が悪化する可能性があるのです。
祭祀財産を処分することは法的には可能ですが、後のトラブルを防止する観点からは、親族などと事前に相談することをおすすめします。
また、祭祀承継者は祭祀財産を用いて祭祀を主宰すべき立場ではありますが、祭祀を主宰すること自体は法的な義務がないとされます。
トラブルの可能性は別として、祭祀承継者は祭祀財産を承継しなければならないものの、祭祀財産を処分するかや、祭祀を主宰するかは法的には自由なのです。
祭祀承継者の指定は慎重に行うべき
祭祀承継者を指定する場合は、祭祀財産をきちんと承継してくれそうな人を選ぶことが大切です。
祭祀承継者を適当に選んでしまうと、祭祀財産を勝手に処分してしまったり、祭祀をきちんと主宰しなかったりなどの可能性があるからです。
故人が祭祀承継者を指定しなかった場合は、慣習や家庭裁判所の手続きによって祭祀承継者が指定されます。
しかし、話し合いや手続きの中で、誰が祭祀承継者になるかをめぐって、相続人同士の争いやトラブルになる可能性があります。
誰を祭祀承継者にすべきかを慎重に検討し、最もふさわしいと思われる人を故人が指定しておけば、祭祀承継者や祭祀財産をめぐるトラブルを防止しやすくなるのです。
まとめ
祭祀財産とは、先祖などをまつる祭祀に使われる財産のことであり、系譜・祭具・墳墓があります。
祭祀財産を承継する祭祀承継者に指定された場合、承継を拒否することはできませんが、祭祀財産を処分することは法的に自由です。
祭祀財産をめぐるトラブルを防止するには、祭祀財産をきちんと管理できる人を祭祀承継者に指定することが重要です。
祭祀財産は原則として相続税の対象になりませんが、安易な相続対策は税務署に指摘される可能性があるので、まずは税理士に相談することをおすすめします。