家族信託

こんにちは、円満相続税理士法人の橘です。私はよく、

私の親が重度の認知症になってしまったのですが、今からできる相続税対策はありますか?

という相談を受けます。

その答えは、

残念ですが、重度の認知症となってしまった場合には、今からできる相続対策はありません

と、お伝えしています。

相続税対策ができないだけなら、まだいいです。

本当に恐いのは、デッドロックと呼ばれる現象。これは、不動産などの所有者が、認知症等により自分の意思が示せなくなると、売ることも貸すことも取り壊すこともできなくなる、つまり、誰も手が付けられなくなってしまう状態をいいます。

今回は、不動産の所有者が認知症になってしまうと、どのようなことが起きるのか、そしてその解決策としての家族信託をご紹介していきます。

不動産の所有権とはなんぞや

家族信託のことを理解するためには、不動産の所有権の考え方を理解するとスムーズです。

まず、不動産の持ち主のことを、所有者(しょゆうしゃ)といいます。

この所有者には、所有権(しょゆうけん)という権利があります。

所有権は、さらに2つの権利に分解することができます。

1つめは、

その不動産を管理する権利です。

これは、その不動産を修繕したり、建替えたり、売ったりすることを決めることができる権利です。

自分が買った不動産を、他人が勝手に建替えたりしたら困りますよね。そういったことは、法律上はできないようになっています。管理をする権利は所有権のある人にしかないのです。

そしてもう1つの権利が、

その不動産から得られるお金をもらう権利です。

これは、その不動産から得られる家賃や、その不動産を売却した際の売却代金を自分のものにできる権利です。このお金を自分のものにできる権利のことを、難しい言葉で受益権(じゅえきけん)といいます。しかし、難しい専門用語を覚える必要はありませんので、お金をもらう権利と覚えておけばOKです。

ということで所有権は、管理をする権利とお金をもらう権利から構成されているというわけです。

認知症になったら不動産が売れない

ここで一つ、クイズをだしていきます。

もし不動産の所有者が認知症などにより、判断能力が低下してしまった場合、その家族は、その人の代わりに不動産を売却することはできるでしょうか?

父が認知症になったとしても、その物件の所有権は父がもっています。財産を売却したり、修繕したりすることを決められるのは、所有権をもった人だけです。たとえ親族であっても、父の了解を得ずに(つまり勝手に)売却することはできないのです。

正解を発表していきます。


正解は・・・・

父の代わりに売却することは、原則として、できません!

父が認知症になったとしても、その物件の所有権は父がもっています。財産を売却したり、修繕したりすることを決められるのは、所有権をもった人だけです。たとえ親族であっても、父の了解を得ずに(つまり勝手に)売却することはできないのです。

成年後見制度とは

認知症や精神障害などにより、判断能力が低下してしまった人を法的に支援する制度で、平成12年4月1日にはじまりました。導入されて以来、利用者は毎年右肩上がりに増えており、現在では約20万人の方がこの制度を利用しています。

成年後見制度は、判断能力が低下してしまった人のために、親族や弁護士、司法書士などが、その本人に代わって財産管理や契約行為を行うことができる制度です。本人の代わりになってくれる人のことを後見人(こうけんにん)といい、判断能力の低下してしまった人のことを被後見人(ひこうけんにん)といいます。

後見制度には二つの種類があります。ご本人が元気なうちから、将来、自分が認知症になってしまった時のために、後見人を選んでおくことのできる任意後見制度というものと、既に判断能力が低下してしまったあとに、後見人を家庭裁判所が選ぶ、法定後見制度というものです。

いずれの制度を利用した場合においても、後見制度を開始した場合には、後見人が本人の代わりに、介護施設の入居の手続きや、銀行での預金の入手金などが行えるようになります。

後見人に頼めば不動産を売却できる?

それでは、ここでまたクイズをだしていきます。

【問題】後見人に頼めば、その人の不動産を売却する手続きを進めることができる。〇か×か。

正解は・・・・

原則として、できません!

後見人は、その人の財産を守ることが役目であり、財産を運用したり、組み替えたりすることが役目ではありません。売却することに合理的な理由があると認められる場合を除き、家庭裁判所から許可がおりない可能性が高いのです。

不動産を売却しないと、介護施設に入居できないなどの理由があれば売却することはできますが、そういった事情がなければ、不動産の売却はほぼできないと思っていた方がいいです。
こうして、不動産を売却することも建替えたりすることもできなくなってしまうのです。このような状態をデッドロックといいます。

65歳以上の28%は認知症の疑いがある

私はこれまで、5000人以上のご相続の相談にのってきましたが、ほとんどの方が、ピンピンコロリ(亡くなる直前まで元気で、急に亡くなってしまうこと)が前提で、相続対策を考えておられます。

しかし、注意をしなければいけないのは、認知症などの症状が進んでしまった場合、そこから先は、相続対策は一切できなくなってしまうということです。

認知症になってしまうと相続対策はできなくなります

現在、世の中のどれくらいの人が、認知症(もしくはその疑いがある)かご存知でしょうか?
厚生労働省のデータによれば、なんと65歳以上の28%は、すでに認知症であるかその疑いがあるのです。

現在、世の中のどれくらいの人が、認知症(もしくはその疑いがある)かご存知でしょうか?
厚生労働省のデータによれば、なんと65歳以上の28%は、すでに認知症であるかその疑いがあるのです。

人の死は必ず訪れますが、認知症になる確率も無視することはできません。相続専門の税理士として、お伝えしたい非常に大切なことは、相続対策よりも、認知症対策の方が緊急度、重要度が高い!と、いうことです。

家族信託とは

認知症への対策として、今、非常に注目されているのが家族信託です。この家族信託は、後見制度の良い所だけを抽出した、とても使い勝手のよい仕組みです。

どのような仕組みかというのを一言でいうと、財産の所有権のうち、管理する権利だけを信頼できる家族に移す(託す)というものです。

さきほど、所有権には、管理をする権利お金をもらう権利があるとお伝えしました。この2つの権利のうち、管理をする権利だけを移すのです。お金をもらう権利はそのままの所有者に残しておきます。そうすることによって、不動産の管理は信頼できる家族に任せて、家賃ですとか、売却代金はそのままの所有者が得る形になります。

家族信託

信託銀行ではなく、信頼できる家族に託すのが、家族信託の特徴です。現在の家族信託は、平成19年にできたばかりなので認知度はまだまだ低いですが、徐々に世の中に認知されはじめています。

家族信託にかかる税金

これまで、不動産の管理をすべて引き継がせるには、所有権をまるごと移す、生前贈与という方法が主流でした。生前贈与では、主有権を丸ごと移すので、受益権(お金をもらう権利)も移すことになります。この場合には当然、多額の贈与税の負担が発生するのです。

また、贈与税だけではなく、不動産取得税や登録免許税という別の税金もかかります。さらに贈与税の申告書の作成を税理士に依頼すれば、その税理士に支払う報酬も発生します。まとめると、不動産を生前贈与するとコストが非常に高くなってしまうのです。

一方で、家族信託の場合にはどうかというと、まず、贈与税はかかりません。あくまで管理する権利だけを移すので、受益権(お金をもらう権利)はそのままです。この形の場合には贈与税は一切発生しません。また不動産取得税も非課税です。登録免許税はかかりますが、生前贈与の場合と比べるとその負担は5分の1です。

生前贈与と比べると家族信託は非常にリーズナブルにできるのも、家族信託の人気が高まっている理由ですね。

生前贈与と家族信託の違い

遺言書の代わりとしての家族信託

受益権(お金をもらう権利)を誰に相続させるかは、家族信託を始めるときに、予め決めることができます。

例えば、父から長男へ、不動産を管理する権利を家族信託によって移しておきます。その後、父が亡くなった時に、受益権(お金をもらう権利)は母に相続させることを、予め契約に織り込んでおくことができるのです。

父に相続が起きた後には、管理は長男が行い、家賃収入は母に帰属するような形にできるのです。この形は非常に安心感があるので、多くの人がこの形の家族信託にしています。

受益権(お金をもらう権利)を誰に相続させるかは、家族信託を始めるときに、予め決めることができます。

家族信託のデメリット

ずばり、世の中からの認知度が低いこと、対応できる専門家が少ないこが挙げられます。平成19年からスタートした制度なので、まだまだ普及が進んでいるとは言い難いのが現状です。

銀行の人でも、

家族信託?なんですかそれは?投資信託ですか?

と対応してくることもあり、不安に思われる人もたくさんいらっしゃいます。

また、よく税理士のなかでも、

家族信託は税金の取り扱いが不明確だから、手を出さない方がいい

という人もいますが、認知症対策として家族信託を活用する分には、税金面で問題になるようなことはありません。

家族信託にかかる費用

信託する財産の金額にもよりますが、信託契約書の作成、信託に関する登記、信託口座の開設等を、司法書士や弁護士に依頼すると、だいたい20万円くらいから、最大何百万かの費用が発生します

【参考】後見制度にかかる費用

ちなみにですが、後見制度を利用した場合にはコストが結構高くかかります。だいたい月額2万円~6万円が相場です。さらに後見監督人というものつけなければいけない場合には、追加で報酬が月額1万円~3万円かかることもあります。

そして、これも注意しなければいけないことですが、後見制度を開始した場合には、その人の判断能力が完全に回復するか、その人が亡くなるまで、後見制度を途中でやめることはできません。そのため、場合によっては非常に長い期間、コストがかかり続けてしまうこともあるのです。

その点、後見制度に比べれば、家族信託にかかる費用は一回きりのものです。

確かに家族信託をしても、ずっとお元気なまま相続が起きた場合には、その費用は無駄になるかもしれません。

しかし、もし認知症になってしまい、リフォームしたくても中々できないので、入居者がどんどん減っていく…。地価の下落が止まらないのに、売りたくても売れない…。そのような事態になってしまう可能性を無くせるのであれば、検討の価値はあると思います。

まとめ

次にあてはまる方は、家族信託を使うメリットが非常にあると思いますので、お勧めします!

  • 将来、認知症や精神障害などになってしまうことが心配だ
  • 妻の生活のために、不動産は妻に相続させたいが、管理できるか心配だ
  • 障害を持つ子供がいて、将来の財産管理が心配だ
  • 先祖代々引き継いできた土地を、これからも一族で守りたい
  • 将来の財産の管理を任せられる、信頼できる家族がいる!

なお、認知症と診断された後では家族信託をすることはできなくなります。

円満相続税理士法人では家族信託に強い司法書士と連携をとりながら、家族信託のコンサルティングを積極的に行っています。家族信託に強い司法書士のご紹介だけも可能なので、お気軽にご連絡くださいませ。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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