特別受益と寄与分の主張10年限定

令和3年に民法が改正され、令和5年4月から施行されています。

今回の改正の重要なポイントの一つは、特別受益と寄与分を主張できるのが、相続開始から10年に限定されたことです。

特別受益や寄与分が認められるかによって、相続できる財産の割合が変わってくるので、改正後の新しいルールを知っておくことは重要です。

そこで今回は、特別受益と寄与分の10年限定についてわかりやすく解説します。

目次
  1. そもそも特別受益と寄与分とは
    • 特別受益とは
    • 寄与分とは
  2. 特別受益と寄与分の主張の10年限定とは
  3. なぜ主張できる期間が10年に限定されたのか
  4. 相続人全員が合意すれば特別受益と寄与分を考慮することも可能
  5. 特別受益や寄与分が認められるケースの例
  6. まとめ

そもそも特別受益と寄与分とは

民法改正の要点は、特別受益と寄与分を主張できる期間が10年に限定されたことです。

しかし、特別受益や寄与分がどのような制度かを知らなければ、期間が限定されたと言われてもイメージしにくいかもしれません。

そこで、制度の理解をより深めるために、そもそも特別受益と寄与分がどういう制度なのかを簡潔に解説します。

特別受益とは

特別受益とは、ある相続人が故人から生前贈与や遺贈によって得た、特別の利益のことです。

たとえば、故人が生前に大学の進学祝いとして長男に100万円を贈与した場合、一般に特別受益にあたります。

特別受益を受けたにもかかわらず、法定相続分(民法が定める相続の割合)で遺産を取得できるとすると、他の相続人との間に不公平が生じてしまいます。

たとえば、故人が亡くなって1000万円の遺産があり、長男と次男の2人が相続人であるとしましょう。

法定相続分で遺産を分割する場合、長男と次男はそれぞれ500万円ずつ相続するので、本来は公平に遺産を分割できます。

しかし、故人が生前贈与として長男だけに200万円を与えた場合、法定相続分で500万円ずつ分けるとすると、生前贈与を受けなかった次男が損をする結果になります。

そこで、原則として特別受益を考慮して相続分を計算することで、相続人の公平を図ろうとするのが、特別受益の制度です。

上記の例において200万円の特別受益が考慮された場合、具体的な相続分は長男が400万円で、次男が600万円になります。

長男はすでに200万円を贈与されたので、その分だけ長男の取り分を減らし、逆に次男の取り分を増やせば、それぞれ合計で600万円ずつ公平に取得した結果になるのです。

寄与分とは

寄与分とは、故人の財産の維持や増加に特別な貢献をした相続人がいる場合に、法定相続分よりも多くの遺産を相続できるようにする制度です。

特別な貢献とは、相続人がつきっきりで故人の介護をしたことで、ホームヘルパーを雇う費用を支払わずにすんだ場合や、故人の事業に貢献して業績を大きく増やしたなどです。

故人に特別な貢献をした相続人がいるにもかかわらず、他の相続人と同じ相続分しか認められないとすると、実質的に不公平な結果になってしまいます。

そこで、貢献の度合いに応じて相続分をプラスすることで、特別な貢献をした相続人の利益を確保するのが、寄与分の制度です。

たとえば、法定相続分では長男と次男が500万円ずつ相続するところ、長男が親の介護に貢献したことから、長男が700万円、次男が300万円を相続すると決めるなどです。

特別受益と寄与分の主張の10年限定とは

民法改正によって、相続が開始してから10年が経過した後に遺産分割をする場合は、特別受益と寄与分を主張することができなくなりました。

改正前は、遺産分割において特別受益と寄与分の主張ができる期間に制限はありませんでした。

たとえば、相続開始から20年経過した後であっても、理論的には主張が可能だったのです。

しかし、改正によって主張できる期限が設けられたことで、相続開始から10年が経過した場合には、原則として特別受益と寄与分の主張ができなくなりました。

もし相続開始から10年が経過した場合は、特別受益や寄与分が認められるような事実があったとしても、遺産分割においてこれらの事実を反映できなくなったのです。

たとえば、長男が親の介護を熱心にしていたために、本来は500万円の寄与分が認められる状況であったとします。

親が亡くなって相続が開始してから11年後に遺産分割が行われ、長男が寄与分を主張したものの、次男が寄与分に反対したとしましょう。

この場合、相続開始から10年が経過した後なので、他の相続人(次男)が反対している以上は、長男の寄与分はもはや認められなくなってしまうのです。

特別受益や寄与分を主張したい場合は、相続開始から10年が経過する前に、早めに遺産分割の手続きを始めることが重要です。

なぜ主張できる期間が10年に限定されたのか

遺産分割協議は民法907条1項に規定されていますが、同項は「いつでも遺産分割をすることができる」旨を規定しており、期限は特に設けられていません。

遺産分割に期限がないことから、故人が亡くなって長期間が経過した後に、はじめて遺産分割が行われることもあります。

ところが、遺産分割の中で特別受益や寄与分が主張されたにもかかわらず、証拠を紛失したり、証人が高齢で亡くなってしまったりなど、トラブルが発生するケースが少なくありませんでした。

決め手となる証拠がなくなってしまうことで、特別受益や寄与分の争いだけが続き、遺産分割の手続きが長期化することが問題となっていました。

そこで、特別受益や寄与分をめぐるトラブルの長期化を防止するために、これらの主張ができる期限が10年に限定されたのです。

相続人全員が合意すれば特別受益と寄与分を考慮することも可能

すこしややこしいのですが、特別受益と寄与分の主張が10年に限定されるのは、遺産分割調停をするなど、相続人間に争いがある場合の話です。

相続人全員が同意して遺産分割をするのであれば、相続開始から10年が経過した後でも、特別受益や寄与分を考慮して分割をすることは禁止されません。

そもそも、相続人全員が同意するのであれば、遺産をどのように分割するかは原則として自由だからです。

特別受益や寄与分を反映させて、法定相続分とは異なる分割をしたとしても、相続人全員が同意するのであれば問題はありません。

また、特別受益や寄与分の主張が10年に制限されるのは、他の相続人の利益(遺産の取り分に対する期待)を保護するためです。

他の相続人が特別受益や寄与分を認めるのであれば、利益を保護する必要はないので、相続開始から10年以上経過したとしても、あえて主張を制限する必要はないということです。

特別受益や寄与分が認められるケースの例

特別受益や寄与分が認められる例として、親が亡くなって遺産の総額が1000万円あり、相続人が長男と次男の2人のケースで考えてみましょう。

民法が定める法定相続分に従って遺産を分割する場合、それぞれの相続分は長男が500万円で次男が500万円です。

長男と次男はどちらも忙しかったので、遺産分割を始めたのは相続開始から11年後でした。

ところが、親と同居していた長男が、「自分はずっと親の介護をしてきたので、200万円の寄与分があるはずだ」と主張します。

もし、次男が寄与分を否定して遺産分割調停などで争う場合、相続開始から10年が経過しているので、長男による寄与分の主張は認められません。

その結果、法定相続分に基づいて遺産分割が行われるので、長男と次男の取り分はそれぞれ500万円ずつになります。

しかし、「兄さんの言うとおりだ。寄与分を考慮したうえで遺産分割をしよう」と次男が同意した場合は、相続人全員が同意しているので、寄与分を考慮して遺産分割ができるのです。

その場合、長男が主張する200万円の寄与分が考慮されて、遺産の取り分は長男が700万円、次男が300万円になります。

まとめ

民法の改正によって、遺産分割において特別受益と寄与分を主張できる期間が、相続開始から10年に限定されました。

特別受益とは、相続人が故人から生前贈与や遺贈を受けた場合であり、寄与分とは、相続人が故人に対して特別な貢献をした場合のことです。

特別受益や寄与分を主張されると、他の相続人の遺産の取り分に影響があるので、相続をめぐるトラブルが長期化するのを避けるために、主張できる期間が限定されました。

しかし、相続人全員が同意するのであれば、相続開始から10年が経過した後でも、特別受益や寄与分を反映させて遺産分割をすることは認められます。

いずれにせよ、特別受益や寄与分を主張したい場合は、早めに遺産分割の手続きを始めることをおすすめします。

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