相続放棄をすると遺産を一切相続せずにすむので、預貯金や不動産など、遺産の管理からも解放されると思われるかもしれません。

しかし、相続放棄の管理義務という制度が民法に規定されており、一定の場合には、相続放棄をしても遺産を管理しなければならないケースがあるのです。

相続放棄の管理義務の制度は令和3年に改正されており、令和5年4月から新しい制度が施行されている点にも注意しましょう。

そこで今回は、相続放棄の管理義務について、改正によってルールがどのように変わったかも含めて解説します。

目次
  1. 相続放棄の管理義務とは
    • 相続放棄とは
    • 相続放棄の管理義務とは
  2. 相続放棄の管理義務は改正された
  3. 管理義務はどのような場合に生じるか
  4. 管理義務が生じるケースと、生じないケース
    • 管理義務が生じるケース
    • 管理義務が生じないケース
  5. 管理義務の内容
    • 自己の財産の場合と同一の注意とは
    • 財産を引き渡すまでの間とは
    • 財産を保存する義務とは
  6. まとめ

相続放棄の管理義務とは

相続放棄の管理義務がどのような義務かについて、相続放棄の制度の概要とともに解説します。

相続放棄とは

相続放棄の管理義務を把握する前提として、まずは相続放棄について簡潔に解説します。

相続放棄とは、本来は遺産を相続するはずの相続人が、遺産を相続しないという選択をするための制度です。

相続放棄をした相続人は、最初から相続人ではなかったものとして法的に扱われるので、遺産を相続せずにすみます。

故人との仲が悪かったので相続したくない場合や、借金などの負債が多すぎる場合などに、相続放棄を活用できます。

ただし、相続放棄をすると、借金や負債などのマイナスの財産を相続せずにすみますが、預貯金や不動産などのプラスの財産も相続できなくなるのです。

相続放棄の管理義務とは

相続放棄の管理義務とは、相続放棄をしても一定の場合には、相続財産(預金や不動産など相続の対象となる財産)を管理する義務を負う制度です。

相続放棄をすると相続人ではなくなるので、相続財産はもう自分には関係のないことだ、と言いたくなるかもしれません。

しかし、相続放棄をした人が相続財産を全く管理しなくなってしまうと、弊害が生じてしまう場合があります。

たとえば、老朽化した不動産を相続放棄した後に、相続人が不動産を全く管理しなくなると、損なわれる美観や悪臭などによって、近隣の住民に迷惑となる可能性があります。

そこで、相続放棄をしたとしても、一定の場合には財産を管理する義務を負わせることで、相続財産が適切に管理されるようにしたのが、相続放棄の管理義務の制度です。

制度について噛み砕いてまとめると、相続放棄をしても一定の場合には、相続するはずであった財産をきちんと管理しなければならないということです。

相続放棄の管理義務は改正された

相続放棄の管理義務は民法940条に規定されていますが、同条は令和3年に改正されており、令和5年4月1日から新しい制度が施行されています。

改正前の相続放棄の管理義務の制度には、以下のような問題点がありました。

財産をいつまで管理しなければならないのか、管理義務の期間が明確でなかった

財産が遠隔地にあるなど管理が難しい状況でも、基本的に管理をしなければならなかった

詳しくは後述しますが、改正後の新しい制度においては上記の問題点が改善され、管理の負担が軽くなっています。

管理義務はどのような場合に生じるか

相続財産を管理する義務が生じるのは、「相続放棄の時点において、相続財産に該当する財産を現に占有している場合」に限定されます。

財産を現に占有しているとは、その財産を事実上支配していることです。

たとえば、不動産に住んでいる場合や、貴金属を身に着けているような場合は、それらの財産を事実上支配している状態といえます。

改正前は、占有していない場合でも管理義務が生じましたが、改正後は、財産を現に占有している場合にだけ管理義務が生じることになったのです。

管理義務が生じるケースが限定されたことで、改正前に比べて、相続放棄をする場合の負担が軽くなりました。

管理義務が生じるケースと、生じないケース

どのような場合に管理義務が生じるのか、生じないのかを把握するために、それぞれ具体的なケースをご紹介します。

管理義務が生じるケース

相続放棄した場合に管理義務が生じる具体例として、母親が所有する家に長男が同居しており、母親が亡くなったケースを見ていきましょう。

夫を早くに亡くしたので、母親に配偶者はいません。母親の子としては、同居している長男のほか、別居している次男がいます。

母親の財産として、長男と同居していた家と預貯金がありますが、遺言によって長男が家を相続し、次男が預貯金を相続することになりました。

母親が亡くなった後、長男は故人の家にしばらく住んでいましたが、だいぶ古くなってきたことから、家を相続せずに相続放棄することにしました。

上記のケースにおいて、長男に管理義務が生じるかについて検討しましょう。

管理義務が発生する要件のポイントは、以下の3つです。

①相続人であること

②相続財産であること

③相続放棄をする時点で現に占有していること

まず、長男は母親の遺産を相続する立場なので、相続人にあたります(①を満たす)。

次に、相続の対象となる遺産を相続財産といいますが、故人である母親が所有していた家は、相続財産に該当します(②を満たす)。

最後に、相続放棄をする時点で家に住んでいる場合、その子は、家を現に占有している状態にあるといえます(③を満たす)。

以上より、①〜③を全て満たすことから、長男には家の管理義務が生じるので、家を適切に管理しなければなりません。

管理義務が生じないケース

相続放棄をしても管理義務が生じない場合の具体例として、遠く離れた親の持ち家を相続することになったケースを見ていきましょう。

大学進学をきっかけに、親元を遠く離れて一人暮らしを始めた長男が、就職した後も遠隔地での生活を続けていたとします。

その後、親が亡くなって相続が発生し、親の持ち家を長男が相続することになりました。

長男は長年実家に帰ることはほとんどなく、親の家業も弟の次男が受け継ぐことから、持ち家を相続放棄することにしました。

長男は遠く離れた場所にある持ち家の管理をしなければならないのでしょうか。

改正前の制度においては、遠隔地に相続財産がある場合でも、基本的には管理義務が生じていました。

しかし、生活の本拠から遠く離れた場所にある財産を管理することは、相続人にとっては大きな負担になります。

相続の負担から解放されるために相続放棄をしたにもかかわらず、財産を管理しなければならないとすると、相続放棄の実用性が損なわれてしまいます。

そこで改正後の制度においては、遠隔地に財産がある場合など、相続人の管理下にない相続財産を義務の対象から外すことで、過度な負担が生じないように調整されました。

本件のように、相続人が普段生活している場所から遠く離れた不動産については、相続人が現に占有しているとはいえないので、基本的に管理義務の対象にはなりません。

管理義務の内容

相続放棄をした人に管理義務が生じるとしても、具体的にどのような義務が生じるのでしょうか?

管理義務について規定する民法940条を要約すると、以下の3つが義務の具体的な内容になります。

①自己の財産の場合と同一の注意をする

②財産を引き渡すまでの間

③財産を保存する義務がある

管理義務の具体的な内容について、上記の項目ごとに見ていきましょう。

自己の財産の場合と同一の注意とは

管理義務について規定する民法940条を要約すると、「自己の財産の場合と同一の注意をもって、その財産を保存する義務を負う」ことになります。

「自己の財産の場合と同一の注意をもって」とは、自分の財産を管理する場合と同じくらいの注意をすれば足りるということです。

自分のものを管理する場合、ちょっとした不注意でミスをすることもあります。その程度の失敗であれば、管理の範囲として許されるという意味です。

民法に規定される管理義務として、他に「善管注意義務」というものがあります。

善管注意義務とは、善良な管理者の注意義務の略称です。

善管注意義務の内容を要約すると、業務として管理を任された場合に、通常期待される程度の注意をしなければならないという意味です。

善管注意義務は仕事として管理を任されているケースなので、自分の財産を管理する以上の注意をしなければなりません。

相続放棄の管理義務は、自分の財産と同じ程度の注意をすれば足りるので、善管注意義務と比べると要求される注意の程度は低くなります。

財産を引き渡すまでの間とは

管理義務が生じる期間は、相続人などに財産を引き渡すまでの間です。

財産を引き渡すまでは義務が続きますが、相続人などに財産を引き渡した場合は、義務が終了します。

たとえば、長男が相続放棄をしたので、次男が代わりに遺産を相続するとしましょう。

長男が占有している相続財産として、自動車がある場合、長男は次男に自動車を引き渡さなければなりません。

次男に自動車を引き渡せば、長男の管理義務は終了します。しかし、自動車を引き渡さなければ、管理義務が継続するのです。

財産を保存する義務とは

財産を保存する義務の具体的な内容については、以下の2つの考え方があります。

①財産を壊したり減らしたりしないこと

財産を壊したり減らしたりしないことが、管理義務の具体的な内容であるとする考え方です。

この考え方によれば、管理する義務のある財産を壊したり減らしたりすると、義務違反にあたります。

たとえば、相続財産として自動車がある場合に、自動車の窓ガラスを壊してしまうと、一般に保存義務違反になります。

相続財産として5つの宝石があり、2つを紛失してしまった場合も、一般に義務違反に該当します。

②財産を壊したり減らしたりしないだけでなく、現状を維持すること

財産を壊したり減らしたりしないことに加えて、財産を維持するために必要な行為をすることも、義務に含まれるとする考え方です。

たとえば、相続財産である家屋が傷まないように、必要に応じて修繕をすることなどが考えられます。

現状を維持することも義務に含まれることから、①よりも②のほうが重い義務になっています。

相続放棄の管理義務の内容が、①と②のどちらであるかは、実ははっきりしていません。

条文は抽象的な義務を規定しているのみであり、義務の具体的な内容については書かれていないからです。

今後、相続放棄の管理義務が争点となる裁判がもし行われた場合には、裁判所によって、義務の具体的な内容が判断される可能性があります。

まとめ

相続放棄の管理義務とは、相続放棄をしても一定の場合には、相続財産を管理しなければならない制度です。

相続放棄の管理義務は民法940条に規定されていますが、令和5年4月1日から新しい制度が施行されています。

同制度の改正によって、管理義務が生じるのは、相続人が財産を現に占有している場合に限定されました。それによって、遠隔地に財産がある場合などの負担が軽減されています。 また、従来はいつまで義務が続くのかが不明瞭でしたが、他の相続人などに財産を引き渡すまでしか義務を負わないことが明確になりました。

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