海外不動産

こんにちは!円満相続税理士法人の久保です。

海外不動産投資が注目されるなか、「日本の税金はどうなるの?」といった疑問を抱く方も多いのではないでしょうか。

不動産を所有するのが個人か法人か、また所有者の居住地などによって、日本で課税される税金の種類や範囲、税率が異なります。

そこで本記事では、海外不動産投資をする際に知っておくべき日本の課税ルールや、相続時の対策について詳しく解説します。

税制改正や日米租税条約なども踏まえ、トラブルを防ぐ実践的な内容をお届けします。

これから海外不動産投資を始める方や、すでに資産を所有している方は、ぜひこの記事を参考にしてください!

個人で海外不動産を所有する場合にかかる税金(所得税)

個人で不動産を所有する場合に、その不動産から得られる利益にかかるのが「所得税」です(付随して住民税や事業税がかかる場合もありますが、本題からやや外れるため、ここでは詳細を割愛いたします)

所得税がかかる範囲は、日本の「居住者」に該当するか、それとも「非居住者」として扱われるかによって大きく異なります。

整理するとこちらです!

納税義務者となる個人(国税庁)
出典:国税庁 No.2010 納税義務者となる個人
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2010.htm

表だけではわかりづらいと思うので、さらに詳しく解説します。

「居住者」に該当する方が支払う所得税    

「居住者」とは、

日本国内に住所を有している個人

現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人

をいいます。

ちなみに、居所とは、一般に生活の本拠とまでは至らないものの、相当程度継続して居住する場所と言われています。

居住者はさらに、「非永住者」と「非永住者以外の居住者」に分けられます。

非永住者:外国籍を持ち、日本に居住しているものの、滞在年数が一定条件を満たさない人を指します。

一定条件とは、過去10年以内において日本国内に住所または居所を有していた期間の合計が5年を超えることです。

日本国籍を持たず、来日した期間が短い場合などは非永住者に該当するケースがあります。

非永住者の方の日本の所得税の対象は次のとおりです。

国外源泉所得以外の所得

国外源泉所得でも日本国内で支払われ、または国外から日本に送金されたもの

非永住者以外の居住者:全世界の所得について、日本の納税義務を負います。

日本国籍かつ日本在住者の方は非永住者以外の居住者になり、国内外すべての所得に日本の所得税が課されます。

よって、たとえば日本国籍かつ日本在住者の方が、アメリカに投資用不動産を購入し、その不動産から得た不動産収入などの利益には日本の所得税がかかります。

「非居住者」が支払う所得税

非居住者とは、居住者以外の方です。

日本に住所も居所もなく、海外に生活の本拠がある方は非居住者となります。

非居住者は、国内源泉所得(例:日本国内にある不動産収入、日本国内での勤務による給与など)にのみ、日本の所得税の納税義務を負います。

住所の判定

ご覧いただいたように、住所が国内にあるかどうかにより、所得税がかかる範囲が異なるため、住所の判定は慎重に行う必要があります。

住所の判定基準は「生活の本拠地」であり、そこにどれくらい継続して滞在し、社会的・経済的な活動を行っているかが判断材料となります。

住所をめぐって争われた有名な裁判である武富士事件では、これらの判断材料が客観的事実に基づいて検討され判断が下されました。

武富士事件の詳しい解説はこちらの記事をご覧ください。

所得税における住所の判定でも非常に重要な基準と考えられます。

法人で不動産を所有する場合にかかる税金(法人税)

法人で不動産を所有する場合に、その不動産から得られる利益にかかるのが「法人税」です(付随して住民税や事業税等がかかる場合もありますが、本題からやや外れるため、ここでは詳細を割愛いたします)。

法人は、本店または主たる事務所が日本にあるかどうかで「内国法人」か「外国法人」かに区分され、課税範囲が異なります。

内国法人は、国外で発生した所得も含めて全世界の所得が課税対象です。

一方、外国法人は日本国内で発生した所得のみが課税対象です。

内国法人と外国法人の所得の課税対象

例えば、日本で資産管理会社を設立して、アメリカで不動産投資を行う場合、その法人の本店は国内にあるので、アメリカで得た不動産収入などの利益も、日本の法人税法に基づき申告・納税をする必要があります。

【ケース別】海外の投資不動産にかかる税金

ここからは、個人が海外に不動産を有する場合の所得税の範囲などの詳細を、ケース別に解説します。

日本に住所を有する人(「非永住者以外の居住者」に分類される方)がアメリカに不動産を所有する場合

①不動産賃貸収入がある場合

たとえばアメリカに不動産を所有しており、賃貸収入が発生している場合は、不動産所得もしくは事業所得として日本における所得税の対象となります。

不動産所得と事業所得のどちらに該当するかは、社会通念上、事業と称するに至る程度の規模で行われていれば事業所得、そうでなければ不動産所得になります。

【事業と称するに至る程度の規模で行われているかどうかの判断ポイント】

建物の貸付けの場合、アパートやマンションの部屋を10部屋以上持っている

独立家屋の貸付けについては、5棟以上を所有している

なお、外貨で支払われる賃貸収入や、外貨払いの経費は日本円に換算する必要があります。

この際、銀行が提供する為替レートが適用され、具体的には「TTB」(銀行が外貨を買い取る際のレート)や「TTS」(銀行が外貨を売る際のレート)が使用されます。

賃貸収入の換算(TTBの適用)

外貨で受け取った賃貸収入を日本円で計上する際には、TTBレートが用いられるのが一般的です。

具体的には、取引日のTTBレートを適用し、その日の日本円に換算します。

経費の換算(TTSの適用)

外貨建てで支払った経費を日本円で計上する場合には、TTSレートを基準に換算します。こちらも取引日のTTSレートで経費額を日本円に換算します。

海外資産特有の注意点はありますか?

中古不動産から生じた損失は損益通算の対象から外されます!

2021(令和3)年度の税制改正によって、国外の中古不動産を利用した損益通算の制限が導入されました。

この改正では、国外にある中古不動産の減価償却費を利用して日本国内の所得と損益通算することが原則不可となりました。

【背景】
アメリカでは、不動産市場の特性として、建物価値が日本に比べて下がりにくいという特徴があります。

日本では建物の価値が経年劣化に伴い急激に減少する一方で、アメリカでは建物のメンテナンスや市場の動向によって建物価値が維持または上昇することが多いのです。

このため、アメリカの中古不動産は減価償却費を計上しやすく、税務上の損失を大きく見せることが可能でした。

改正前は、国外の中古不動産(特にアメリカの不動産)を購入し、その建物部分の価値に基づいて減価償却費を計上し、日本国内の所得(給与所得や事業所得など)と損益通算を行う節税手法が可能でした。

これにより、高額所得者が日本国内の所得税を大幅に軽減するケースが相次ぎました。

【改正内容】
2021年(令和3)年以降、個人が国外中古建物から不動産所得を得ている場合で、国外不動産所得の損失がある場合には、減価償却費に相当する損失部分は損益通算において生じなかったものとみなされるようになりました。

これにより、損失を日本国内の他の所得(給与所得など)と損益通算することが制限されました。
なお、生じなかったとみなされる減価償却費部分は、売却時に取得費から控除される減価償却累計額からは差し引かれ、その金額だけ譲渡所得は圧縮されることになります。

【影響】
この改正により、国外の中古不動産を活用した節税スキームは困難になりました。

②不動産を売却した場合

アメリカの不動産を売却した場合、日本の所得税は「譲渡所得」として課税されます。

不動産所得であっても事業所得であっても同様です。

譲渡所得は、譲渡による収入から取得費や譲渡費用を差し引いた金額に基づいて計算されます。

なお、建物の取得費は上述の減価償却費を差し引いた後の価額になります。

それまでに大きな減価償却費を計上している場合、譲渡時における取得費は小さくなり、それだけ譲渡益が大きくなります。

なお、所有期間に応じて譲渡所得税率は異なります。

所有期間に応じた譲渡所得税率

譲渡所得の計算方法について詳しくは、こちらのブログをご参照ください。

③日米租税条約による影響

日本と米国の間には日米租税条約が締結されています。

日米租税条約では、不動産所得や不動産譲渡所得は、不動産が所在する国(アメリカ)で課税されます(日米租税条約6条1項、13条1項)。

他方、日本の居住者は、原則として国内で生じた所得および国外で生じた所得のいずれについても、日本で課税されます。

したがって、日本でも米国でも課税されることになります。

そこで、アメリカで課税された所得税を、日本で外国税額控除をすることにより、国際的な二重課税を回避することができます。

④相続対策も必要?

個人名義でアメリカに不動産を所有している場合、何も対策をしていないまま相続が生じると、プロベート手続きが必要になります。

プロベートとは、裁判所が監督する遺産相続手続きの一環で、故人の遺産(不動産や金融資産など)の分配や遺言書の執行が行われるプロセスを指します。

主に英語圏(特にアメリカなど)の相続制度において用いられる言葉です。

プロベート手続きにかかった資産の相続は、時間や費用、複雑さの点で相続人が大変苦労することになります。

プロベートを回避するためには、信託(トラスト)の活用などが有効です。

諸外国特有の事情を事前に知り、海外資産の相続手続きについて検討してくことが大切です。

日本に住所を有さない人(「非居住者」に分類される方)がアメリカに不動産を所有する場合

非居住者に課税されるのは日本国内で発生した「国内源泉所得」であり、海外で発生した収入(国外源泉所得)については原則として課税対象外となります。

したがって、以下のような国内源泉所得のみが日本の所得税の課税対象です。

日本国内の不動産から得られる賃貸収入

日本国内の不動産を売却した際の譲渡所得

一方、海外に所在する不動産から得た収入は国外源泉所得となるため、日本の所得税の課税範囲外です。

投資不動産の所在国での税務申告や納税義務が生じます。

おわりに

海外不動産投資を行ううえでの税金のポイントは、以下のとおりです。

居住者・非居住者の区分を理解し、自分の課税範囲を把握する。

海外で得た所得の日本での税務処理や外国税額控除の仕組みを知る。

相続時のプロベート対策も事前に検討する。

海外不動産投資における税金のルールは、一見複雑に感じるかもしれません。

しかし、ルールを正しく理解し、課題に対応する準備を整えることで、安心して投資に取り組むことが可能です。

税制改正や国際的な税務ルールの変化にも目を向けながら、トラブルを未然に防ぐための知識をしっかり押さえておきましょう。

また、実際に投資を進める際には、税理士に相談することで、より精度の高い計画を立てることができます。

この記事が少しでも役立てば幸いです!

最後までお読みいただきありがとうございました。

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