円満相続税理士法人 パートナー税理士
相続税申告200件以上、相続不動産の売却でお困りの方を含め3,000人以上のお客様を担当してきた相続専門の税理士。大手税理士事務所で勤めてきた経験と資格の大原にて相続税法の非常勤講師を務めた経験から、金融機関やお客様向けセミナーでは分かりやすさに定評がある。
相続が起きるとまず「準確定申告」が必要と聞きました。私は申告が必要でしょうか。準確定申告は不要が多いと聞きました。
準確定申告とは「亡くなった方の確定申告」の事を言います。準確定申告が不要な場合の代表例は、「亡くなった方の年金収入が400万円以下でかつ他の所得が20万円以下の場合」です。よって多くの方が準確定申告は不要かと思いますが、人によっては申告をした方がお得になるケースもあります。
準確定申告は不要でも、あえて申告した方が良いのですか?
おっしゃるとおり、準確定申告は不要でも申告をすると税金が返ってくるという方もいます。
なるほど。そうなると申告するかますます悩ましいですね。
相続人は亡くなったことを知った日の翌日から4カ月以内までに申告と納税を行う必要があります。数ある相続手続きの中でも準確定申告は期限が短く気付かずに過ぎてしまい、延滞税や加算税などのペナルティをとられてしまうということも多くあります。
悩んでいる暇はないということですね!?どうしたらいいでしょう・・・
ご安心ください。私はこれまで準確定申告のお悩みに多く答えてまいりました。この記事では準確定申告が不要かご自身がどのケースに当てはまるのかをご説明いたします。また準確定申告が必要な場合の手続きの流れや必要書類、期限についても詳しく解説していきますね。
準確定申告が不要かどうか
準確定申告とは「亡くなった方の確定申告」を指します。
相続人は亡くなったことを知った日の翌日から4カ月以内の期限までに申告と納税を行う必要があります。提出先は亡くなった方の住所を管轄する税務署です。
ここで
確定申告って3月15日までにすればいいんじゃないの?
と思われる方もいるかもしれません。
確かに一般的な所得税の確定申告は、1月1日から12月31日までの1年分を計算し翌年の3月15日までにすることになっています。
ですが年の途中で亡くなってしまった場合は、1月1日から亡くなる日までの分を計算し、亡くなってから4カ月以内に申告しなければいけないのです。
亡くなったことを知った日の翌日から4カ月以内とは、7月1日に亡くなってしまった場合には11月1日ですので、イメージとして「亡くなった日の4か月後の同じ日」と考えていただければ支障ありません。
また、例えば本来の申告期限である3月15日までにせずに、令和4年3月1日に亡くなってしまった場合はどうなるでしょうか。
この場合、令和3年度と令和4年度(1月1日~3月1日)の確定申告2つを7月1日までに行う必要があります。
「亡くなった人の確定申告が必要」さらに「期限はたった4カ月しかない」と焦ってしまう方も多いかと思います。
ですがご安心ください。実は準確定申告は不要もしくは申告したとしても税金が返ってくるケースが多いです。それぞれどういった場合が当てはまるのか順番に見ていきましょう。
準確定申告が不要な人
準確定申告が不要ということは「亡くなった方は今まで確定申告不要だった」と言い換えることもでき、これまで確定申告をしてこなかった方の相続人は不要と考えていただいて構いません。
こちらでは準確定申告が不要となる3つのケースをご説明していきます。
年金収入が400万円以下でかつ他の所得が20万円以下の場合
実務上最も多いのがこちらで、「生前に得ていた収入は年金だけだった」というケースです。
年金受給者で、公的年金が400万円以下でかつ他の所得が20万円以下の場合は準確定申告は不要となります。
年金収入以外に故人が所有していた駐車場の賃料等があったとしても、「収入」-「経費(固定資産税等)」が対象期間内(1/1-亡くなった日、以下同じ)に20万円を超えなければ申告は不要です。
給与収入が一か所からのみでありかつ他の所得が20万円以下の場合
1つの勤め先からのみお給料をもらっていてかつ他の所得が対象期間内に20万円以下であれば準確定申告は不要です。
ただし、自分の会社から2,000万円以上の給料収入をとっている場合などは、申告が必要となります。
相続放棄をした場合
お話した通り、準確定申告は相続人がしなければなりません。相続放棄をして相続人でなくなれば、準確定申告も不要となります。
準確定申告が不要でも、した方がお得になる人
冒頭で中には申告をすると税金が還付される(返ってくる)こともありお得ですよとお話しました。こちらでは申告をした方がお得になる人を解説します。
還付は、給料や年金、株式等からの配当から天引きされた税金よりも本来払うべき税金が少なくなる場合に起こります。
医療費控除やふるさと納税などを行う方の多くがあてはまります。また配偶者控除や扶養控除等の一定の控除を受ける場合も該当します。
確定申告をして税金を返してもらう手続きの事を「還付申告」といいます。還付申告は通常の確定申告書を使い、作成の手順も同じですが、還付金の振込口座を記載するのを忘れないようしましょう。
ただし、還付される税金がそこまで大きくない場合もありますので、費用対効果を考えて申告するかどうかを検討されるといいかと思います。
なお還付申告の期限は4か月以内ではなく、亡くなった年の翌年5年間であればいつでもいいので、ゆっくりと準備出来ます。また受け取った還付金は、相続税の課税対象となりますので、申告漏れにはお気を付けください。
準確定申告が必要な人
準確定申告が必要となる方で、私が実務で最も見てきたのは賃貸不動産をお持ちの方の場合です。賃貸不動産などをお持ちで不動産所得が20万円を超えた場合は、準確定申告が必要です。
※不動産所得とは、不動産収入から固定資産税や修繕費、減価償却費などの費用を差し引いた後の金額を指します。
また亡くなった年度は、1月1日~亡くなった日までの所得となります(以下すべての所得にあてはまります)ので、例えば1月など年度初めで亡くなった場合には、所得が少なく申告不要の可能性もあります。
まず賃貸不動産をお持ちの場合を見てきましたが、準確定申告が必要になる場合をまとめると以下のようになります。
準確定申告が必要な場合
賃貸不動産などをお持ちで不動産所得が20万円を超えた場合
自営業を営んでいて事業所得が20万円を超えた場合
※事業所得とは、売上から経費等を差し引いた後の金額です
不動産を売却して譲渡所得が20万円を超えた場
※譲渡所得とは、収入から取得費等を差し引いた後の金額です
生命保険などの満期金や一時金を70万円を超えて受け取っていた場合
有価証券を売却して20万円を超えたもうけが出た場合
※特定口座で源泉徴収されている場合は除かれます
2か所以上の会社からお給料をもらっていた場合
公的年金等の年金収入が400万円を超えた場合
会社からの給料収入が2,000万円を超えた場合
給与所得、公的年金等による雑所得、退職所得以外の所得が20万円を超えた場合など
注意点として、これらにあてはまっても、納める税金が無い場合は申告は必要ありません。
準確定申告の手続きの流れ
準確定申告が不要かどうかを見てきましたので、ここからは準確定申告の基本的な手続きの流れを解説していきます。
準確定申告といっても、基本的な流れは普通の確定申告と同様ですのでそこまで身構える必要はありません。大きく次の3ステップです。
①必要書類を集める
②申告書を作成する
③税務署へ提出して納税する
いかがでしょうか。流れはシンプルかと思います。
それでは普通の確定申告と異なる点などにも触れながらこれら順番に見ていきたいと思います。
必要資料を集める
計算に必要な資料で代表的なもの3つをご紹介します。
亡くなった方の源泉徴収票(給料や年金がある場合)
給料がある場合は勤め先の経理の方に、年金収入がある場合は日本年金機構に問い合わせて取得します。
1月1日から2月の最初支給月までの間に亡くなった場合には、その年度の源泉徴収票は発行されません。
亡くなった方の控除を証明する書類
生命保険料控除、社会保険料控除、地震保険料控除、小規模企業共済等掛金控除、寄付金控除の計算などで使用する書類です。
これらの支払いがあり、手許に資料がない場合はそれぞれ支払先に問い合わせて取得する必要があります。
亡くなった方の医療費の領収書
1月1日から亡くなった日までに使った医療費がある場合には、10万円を超えた分から医療費控除を受けることができます。
亡くなった方の医療費だけでなく、生計を一にする配偶者や親族のために支払った医療費も対象となります。
この場合の配偶者や親族の所得要件はありません。
また医療費控除は実際に支払った場合のみ対象となりますので、相続後に相続人が支払った医療費は亡くなった方の医療費控除の対象にはなりません。
一方で相続後の医療費は、生計を一にしていた相続人の確定申告で医療費控除が使え、更に亡くなった方の相続税の計算上債務控除として差し引くことができます。
ただし差額ベッド代など医療費控除の対象とならないものもありますので、ここも国税庁のHPを参照しながら進めましょう。
なお相続税の計算上控除できる債務控除の額には差額ベッド代が含まれていたとしても大丈夫です。
必要資料リスト
亡くなった方の源泉徴収票(給料や年金がある場合)
亡くなった方の保険料控除を証明する書類
亡くなった方の生前に支払った医療費の領収書
亡くなった方の所得の状況に応じてまた別の資料(事業所得がある場合は亡くなった方の収入の状況が分かる通帳、不動産所得がある場合は賃貸契約書や通帳、譲渡所得がある場合は不動産売買契約書や仲介手数料の領収書など)が追加で必要となりますので、国税庁のHPで確認しましょう。
国税庁HP(必要書類) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tebiki2017/b/04/4_01.htm
申告書を作成する
必要書類が揃ったらいよいよその資料を基に申告書作成をしていきます。最低限作成すべき書類2点をご紹介します。
確定申告書(第一表、第二表)
集めた資料を基に、それぞれの所得ごとに計算し、作成していきます。
国税庁のHPからダウンロードもしくは最寄りの税務署で申告書の用紙を取得し、手書きで申告書を作成することも可能ですが、おススメは国税庁の「確定申告書作成コーナー」での作成です。
質問された内容に答えるだけで感覚的に申告書が作成できるという優れものです。こちらで作成したものをプリントアウトすることで、提出書類を作成することができます。
ただし普通の確定申告と同じ様式で印刷されますので、準確定申告であることが分かるように第一表に「準確定」と、第二表に「準」の文字をタイトル部分に手書きで加える必要があります。
なお配偶者控除や扶養控除などの判定は、亡くなった日時点で行います。
また控除額の月割計算は行いませんので、年の中途で亡くなった場合も丸々控除を受けられます。
ただし判定を行う合計所得金額は、1年分の金額を見積もって行うのでその部分は通常通りです。
所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表
付表は相続人等が連署で記載するものとなり、準確定申告の場合だけ特別に必要な書類です。他にも次のような事項を記載していきます。
亡くなった方の氏名、住所、死亡年月日、納税額
相続人各人の住所、氏名、続柄、マイナンバー、相続分、相続財産の価額、納税額
なお、他の相続人にマイナンバーを知られたくないなどの理由で連署したくない場合は、内容を他の相続人に通知すれば、別々で提出することもできます。
作成すべき書類
確定申告書(第一表、第二表)
所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表
不動産所得や事業所得がある場合は、上記に加え決算書なども必要です。なお所得税が還付になり、相続人のうちの1人が還付金をまとめて受け取る場合には、委任状の作成も必要となります。国税庁のHPにフォーマットがあるのでそちらを使用しましょう。
国税庁HP(委任状) https://www.nta.go.jp/about/organization/tokyo/topics/shinkoku/ininjyo.htm
税務署に提出して納税する
必要書類が揃い、計算も終わったらあとは税務署へ提出して納税を済ませるのみです。
基本上記で解説したものがほとんどですが、再度必要書類の漏れなどがないか国税庁のHPなどで確認しましょう。マイナンバーを記載する場合は、マイナンバーカードや本人確認書類の写しが必要となります。
納税については、まず税務署で納付書を入手し、各人ごとの納税額を記入します。
そして出来上がった納付書を税務署か最寄りの金融機関などに持っていけば納税が完了します。これをもって準確定申告のすべての手続きが終わりです。
その他の手続きや注意点
準確定申告自体は上記手続きで完了しますが、人によっては他の手続きや注意点が出てくる場合がありますのでそれらについて解説していきます!
青色承認申請書の提出
亡くなった方から賃貸不動産や事業を引き継ぐ場合は相続人側で「青色承認申請書」の提出をお勧めします。
こちらを1枚出しておくだけで、相続人が確定申告をする際に青色申告特別控除(10万円・55万円・65万円)などの「青色申告の特典」を受けられます。
ただし亡くなった年度から相続人が青色の特典を受けようと思った場合には、提出期限がありますので注意してください。
青色申告承認申請書の提出期限
(1)原則(亡くなった方が白色申告をしていた場合)
青色申告をしようとする年の3月15日まで
その年の1月16日以降に新たに事業を開始する場合には、その事業開始の日から2か月以内
(2)相続の特例(亡くなった方が青色申告をしていた場合)
相続開始が1月1日から8月31日:相続開始から4か月以内
相続開始が9月1日から10月31日:その年12月31日まで
相続開始が11月1日から12月31日:その年の翌年2月15日まで
万が一これらの期限を過ぎてしまったとしても、(1)原則にあるように青色申告しようとする年の3月15日までに提出すれば、亡くなった年の翌年度からは青色の特典を受けることができます。
消費税の準確定申告
亡くなった方が賃貸不動産業や事業をやっており、なおかつ亡くなった年の前々年における課税売上高が1,000万円を超える場合などには、消費税についても準確定申告をする必要があります。
課税売上高とは、事業をやっている場合には基本的にすべての売上が該当しますが、賃貸不動産の場合は居住用以外のテナント貸しをしていることによる収入などがそれに当たります。基本的に申告期限や手続きの流れは上記と同様です。
相続人についても新たに事業を始める場合には、2年後から消費税の確定申告が必要になる場合がありますが、最初の2年間は消費税免除となることが多いです。
住宅ローン控除
亡くなった方が受けていた「住宅ローン控除」は、例えそこに住んでいたとしても相続人が引き継ぐことはできませんので要注意です。
相続する住宅ローンは、住宅を購入するためのローンではないので認められないのです。亡くなった方の準確定申告では適用できます。
実家を売却する際は特例を検討
相続人が実家を売却した際には、自宅売却の3000万円の控除を受けることはできません。
亡くなった方から引き継いだ実家を将来的に売却する予定なのであれば「生前に売却」することで特例を受けることができます。この話について以前別の記事でまとめていますので、併せてご確認ください。
ただし、昭和56年5月31日以前に建築された旧耐震基準の実家の場合は、その他の細かい要件をクリアできれば相続後に売却しても「空き家特例」の3000万円控除を使える可能性はありますので、こちらも視野に入れて検討して頂くといいかもしれません。
その他注意すべきこと
代表的なものをお話してきましたが、確定申告には他にも気を付けなければならないポイントや知れば得する話もありますので以下の記事もご覧ください。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
準確定申告か不要かどうか
準確定申告が必要な場合の手続きの流れ
その他の手続きや注意点
について詳しく解説させていただきました。
準確定申告にお困りの方の一助になれば幸いです。
もしご自身で計算しても分からない場合には、弊社の相続専門税理士がご相談させていただきますので、是非ともお気軽にお問い合わせ頂ければ幸いです。