故人が亡くなって相続が開始した場合、遺言によって特定の人だけが遺産を相続することがあります。

故人の配偶者や子などの遺族にとっては、本来もらえたはずの遺産をもらえない事態になってしまいます。

そのような事態を回避するために、配偶者や子などの一定の法定相続人には、遺産の最低限の取り分として遺留分という権利が認められているのです。

そこで今回は、遺留分の制度の概要や計算方法などを解説します。

目次
  1. 遺留分とは
  2. 遺留分が認められる相続人の範囲
  3. 遺留分は遺言よりも優先される
  4. 遺留分の計算方法
    • 総体的遺留分の計算方法
    • 個別的遺留分の計算方法
  5. 遺留分の計算の具体例
  6. 相続廃除や相続欠格が生じた場合の遺留分
    • 代襲相続が生じた場合は遺留分が認められる
  7. 相続放棄をした場合は遺留分もなくなる
  8. 遺留分は放棄できる
    • 相続開始前に遺留分を放棄する方法
    • 相続開始後に遺留分を放棄する方法
  9. まとめ

遺留分とは

遺留分とは、一定の相続人に対して法律で認められている、遺産の最低限の取り分のことです。

民法が定める相続の割合を法定相続分といいますが、遺言によって、法定相続分以外の割合を指定することもできます。

たとえば、遺言をすることで、特定の相続人に遺産の全てを相続させることも可能です。

しかし、遺言によって故人が遺産を自由に処分できるとすると、遺産を相続できると見込んでいた遺族にとっては不利益になります。

たとえば、特定の人だけが全ての遺産を相続することになった場合、故人の配偶者や子などの遺族が、遺産を相続できなくなってしまいます。

そもそも、遺産は単に故人が遺した財産というだけではなく、遺族の生活を保障するためのものでもあります。

また、故人が生前に財産を蓄えることができたのは、家族が協力したおかげでもあるのです。

そこで、遺産が遺族の生活保障としての意義を有することや、故人に貢献した家族の役割などを考えて、一定の相続人に対して遺産の最低限の取り分を保障することにしたのが、遺留分の制度です。

遺留分を侵害された場合、侵害した相手に対して金銭を支払うように請求でき、これを遺留分侵害額請求といいます。

遺留分侵害額請求の方法について詳しく知りたい場合は、こちらの記事をご覧ください。

遺留分が認められる相続人の範囲

遺留分は民法の規定に基づいて、一定の法定相続人(民法が定める相続人)に対して認められています。

遺留分が認められている法定相続人は、以下のとおりです。

・故人の配偶者(夫や妻)

故人の配偶者である夫や妻は、遺留分権利者にあたります。

・故人の直系尊属(父母や祖父母)

故人の父や母は遺留分権利者にあたります。

父や母がすでに亡くなっており、祖父母が健在で代襲相続が発生した場合は、祖父母が遺留分権利者になります。

・故人の直系卑属(子や孫)

故人の子は遺留分権利者にあたります。

子がすでに亡くなっており、その子である孫に代襲相続が発生した場合は、孫が遺留分権利者になります。

たとえば、故人が亡くなって相続人として故人の妻・長男・次男がいる場合、それぞれ遺留分権利者にあたるので、一定の遺留分が認められます。

注意点として、遺留分は全ての法定相続人に認められているわけではありません。

故人の兄弟姉妹(兄弟姉妹が亡くなっている場合は甥や姪)は法定相続人ですが、遺留分は認められていません。

たとえば、故人が亡くなって相続人として故人の配偶者と姉がいる場合、配偶者には遺留分が認められますが、姉には遺留分は認められないのです。

遺留分は遺言よりも優先される

遺留分は遺言よりも優先されるので、特定の相続人が全ての遺産を相続するという遺言があったとしても、遺留分を主張して取り分を確保することができます。

たとえば、故人が亡くなって相続人として長男と次男がいる場合に、「長男に全ての遺産を相続させる」という遺言があったとしましょう。

遺言の内容に従うと、長男が全ての遺産を相続するので、次男は遺産を相続できないはずです。

しかし、次男には遺留分があり、遺言による相続分の指定よりも優先されるので、次男は侵害された遺留分を支払うように請求できるのです。

遺留分の計算方法

遺留分の金額を計算するには、まず「総体的遺留分」を計算し、次に「個別的遺留分」を計算するという2段階の方法で行います。

総体的遺留分の計算方法

総体的遺留分とは、全体としてどのくらいの遺留分があるかを示すものです。

総体的遺留分の割合は法定相続人の種類によって異なり、以下のいずれかになります。

①直系尊属(父母や祖父母)のみが法定相続人の場合:相続財産(相続の対象となる財産)の1/3

②直系尊属以外の法定相続人が含まれる場合:相続財産の1/2

たとえば、相続財産の総額が600万円で法定相続人が父・祖父の場合、総体的遺留分は200万円です。

相続財産の総額が600万円で、法定相続人が配偶者・父の場合、総体的遺留分は300万円になります。

個別的遺留分の計算方法

個別的遺留分とは、各法定相続人がそれぞれどのくらいの遺留分を有するかを示すものです。

個別的遺留分は、総体的遺留分に各相続人の法定相続分を掛け算して計算します。

たとえば、総体的遺留分が300万円で、相続人Aの法定相続分が2/3・相続人Bの法定相続分が1/3の場合、相続人Aの個別的遺留分は200万円・相続人Bの法定相続分は100万円です。

法定相続分の割合は、法定相続人の種類の組み合わせによって異なります。代表的なパターンは以下の通りです。

・配偶者と直系卑属(子や孫):配偶者1/2・直系卑属1/2

・配偶者と直系尊属(父母や祖父母):配偶者2/3・直系尊属1/3

・配偶者と兄弟姉妹:配偶者3/4・兄弟姉妹1/4(ただし兄弟姉妹は遺留分なし)

同種の法定相続人が複数いる場合は、割合を頭数で割ってそれぞれの法定相続分を計算します。

たとえば、法定相続人として配偶者・子A・子Bがいる場合、それぞれの法定相続分は配偶者1/2・子A1/4・子B1/4です。

遺留分の計算の具体例

遺留分の計算の具体例として、以下のケースで考えてみましょう。

・遺族は(故人の)配偶者・長男・次男・父・兄の5人

・相続財産の総額は4000万円

・「長男に全ての遺産を相続させる」という遺言に基づいて相続が行われた

誰が法定相続人かを確定する

まず、誰が法定相続人にあたるかを確定します。

配偶者がいる場合、配偶者は必ず法定相続人になります。

配偶者以外の法定相続人には以下のような順位があり、順位が上の人が優先して法定相続人になります。順位が上の人がいる場合は、下の人は相続人になりません。

1位:直系卑属(子や孫)

2位:直系尊属(父母や祖父母)

3位:兄弟姉妹

本ケースでは配偶者がいるので、まず配偶者が法定相続人になります。

配偶者以外の遺族として長男・次男・父・兄がいますが、長男と次男は1位・父は2位・兄は3位なので、1位である長男と次男が法定相続人にあたります。

下の順位である父と兄は法定相続人にはなりません。

結果、本ケースの法定相続人は配偶者・長男・次男の3人となります。

総体的遺留分を計算する

次に、総体的遺留分を計算します。

総体的遺留分の割合は、直系尊属のみが法定相続人の場合は1/3で、それ以外の法定相続人が含まれる場合は相続財産の1/2です。

本ケースの法定相続人は配偶者・長男・次男であり、直系尊属以外の人が含まれるので、総体的遺留分の割合は相続財産の1/2です。

相続財産の総額は4000万円なので、総体的遺留分(1/2)は2000万円になります。

個別的遺留分を計算する

最後に、相続人それぞれの個別的遺留分を計算します。

個別的遺留分を計算するには、総体的遺留分と各法定相続人の法定相続分を掛け算します。

法定相続分の割合は法定相続人の組み合わせによって異なり、本ケースの配偶者・長男・次男の場合は、配偶者1/2・長男1/4・次男1/4です。

総体的遺留分2000万円に、各法定相続人の法定相続分を掛け算すると、それぞれの個別的遺留分は以下のようになります。

配偶者:1000万円(2000万円 × 1/2)

長男:500万円(2000万円 × 1/4)

次男;500万円(2000万円 × 1/4)

本ケースでは相続財産の4000万円全てを長男が相続しているので、遺留分として配偶者は1000万円・次男は500万円を長男に請求できます。

相続廃除や相続欠格が生じた場合の遺留分

相続廃除とは、相続人が故人の虐待や重大な侮辱などをした場合に家庭裁判所に請求することで、その相続人を相続から廃除する制度です。

相続欠格とは、詐欺や脅迫によって遺言を妨害するなど、相続人が一定の行為をした場合に、相続から廃除される制度です。

相続廃除や相続欠格が生じた相続人は、遺留分が認められません。

遺留分は相続権があることを前提とする制度なので、相続廃除や相続欠格によって相続権を喪失した場合は、遺留分も認められなくなるからです。

たとえば、長男が故人を脅迫し、自分に有利な遺言をさせようとして相続欠格になったとしましょう。

故人の子である長男は本来は遺留分権利者ですが、相続欠格によって相続権を喪失したことで、遺留分の権利もなくなってしまうのです。

代襲相続が生じた場合は遺留分が認められる

例外として、相続廃除や相続欠格が生じたとしても、その子などが代襲相続する場合は遺留分が認められます。代襲相続する人には落ち度がないからです。

たとえば、故人の子が相続欠格によって廃除された後に事故で亡くなり、孫が代襲相続する場合は、孫には遺留分が認められます。

相続放棄をした場合は遺留分もなくなる

相続人が相続放棄をした場合は、遺留分もなくなります。

相続放棄とは、何らかの理由で故人の遺産を相続したくない場合に手続きをすることで、遺産を相続せずにすむ制度です。

相続放棄をした場合、はじめから相続人ではなかったものとして法的に扱われます。

遺留分は相続人に付与される権利なので、相続放棄によって相続人ではなくなった場合は、遺留分もなくなります。

なお、相続放棄をした場合はそもそも代襲相続が発生しないので、代襲相続者が遺留分を取得することもありません。

遺留分は放棄できる

法定相続人が遺留分はいらないと判断する場合は、遺留分を放棄することができます。

遺留分を放棄する方法は、遺留分を放棄するタイミングが相続開始の前か後かで異なります。

相続開始前に遺留分を放棄する方法

相続開始前に遺留分を放棄するには、家庭裁判所の許可を得なければなりません。

家庭裁判所の許可が必要な理由は、相続開始前に遺留分を自由に放棄できるとすると、故人が法定相続人を脅迫して遺留分を放棄させる可能性があるからです。

遺留分を放棄するのに家庭裁判所の許可を要件とすることで、不当な干渉による放棄を防ぐ趣旨です。

相続開始後に遺留分を放棄する方法

相続開始後に遺留分を放棄する場合、家庭裁判所の許可は不要です。

遺留分を放棄したい場合は、他の相続人に遺留分を放棄する旨を伝えるだけで足ります。

相続開始後はすでに故人が亡くなっており、故人の強要による遺留分の放棄のおそれがないので、家庭裁判所の許可は不要とされています。

まとめ

故人の配偶者や子など一定の法定相続人には、遺産の最低限の取り分として遺留分が認められています。

遺留分が認められるのは法定相続人のうち配偶者・直系尊属・直系卑属であり、兄弟姉妹には遺留分は認められません。

遺留分を計算するには、まず全体としての総体的遺留分の割合を計算した後、法定相続人ごとの個別的遺留分を計算します。

遺留分を放棄することもできますが、相続開始前に放棄する場合は、家庭裁判所の許可が必要なので注意しましょう。

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