【この記事の執筆者】
相続税の研究を愛する相続専門の税理士。23歳で税理士試験に合格し、国内最大手の税理士法人で6年間の修行を積んだのちに独立。円満相続税理士法人の代表を務める。
こんにちは。相続税専門税理士の橘です。
会社経営者または医療法人の理事長の皆様!
法人で生命保険に加入していますか?
おそらく、多くの経営者の方が「YES!」と答えるのではないでしょうか?
保険に加入する際に、保険の営業マンから「法人で保険に加入すると法人税の節税になってお得ですよ~」と言われたことのある方がたくさんいらっしゃると思います。
しかし・・・
残念なことに・・・・
法人保険で節税というのは、まったくの嘘なのです。
法人税は全く減りません。
「法人保険で節税」というのは、世の中でまかり通っている嘘です!
今回、この記事を世の中に出すことによって、日本中の生命保険会社を敵に回すことになるかもしれません。
ですが、それでもいいです!
これ以上、不必要な生命保険に加入して、会社の本業の業績を落とす経営者を見たくありません。節税目的で保険に入るお金があるなら、従業員の賃金上げてください!!
まず、そもそもですが、「法人で保険に加入すると法人税の節税になる」とは、どのような仕組みなのでしょうか?
この仕組みを理解していただくには、法人税の計算の仕組みを理解していただく必要があります。
法人税の計算は、非常に簡単です!
会社の利益×法人税率=法人税
この算式で終了です。
まず、会社の利益とは、会社の1年間の売上などの収入から、1年間の給料や家賃などの経費を引いた金額です。
この会社の利益に、法人税率をかけたものが法人税です。
現在の法人税の税率は次の通りです。
ざっくりいうと、800万円までの利益には23%くらい、800万を超えた利益については、33%くらいの税率で法人税を計算します。資本金が1億円を超えている法人の場合には、一律29%くらいの税率で法人税を計算します。
まどろっこしいので、会社の利益の30%くらいが法人税と覚えておいてください。
会社の利益に対して法人税が課税されるのであれば、もし、会社に利益がなかった場合にはどうなるでしょう?
会社に利益がなければ、法人税は発生しません。利益ゼロなので、法人税もゼロです。
法人税の計算の仕組みは簡単ですよね?
では、皆さんが社長だったとして、「今期は利益がたくさんでたなぁ。嬉しいことではあるけれども、合法的に法人税の負担を少なくしたいなぁ~」と思ったとします。
どうすれば、合法的に法人税の負担を少なくすることができるでしょうか?
会社の利益に法人税が課税されるのであれば、会社の利益を小さくできれば、支払う法人税もその分減るのです。
会社の利益を少なくするには、2つアプローチがあります。
一つは、収入(売上)を少なくすること!
売上が少なくなれば、その分の利益が減ります。
ただ、実際は売り上げがあるにも関わらず、それを隠してしまうのは、違法行為である脱税です。よく「所得隠しで逮捕!!」というニュースが流れていますが、これは意図的に収入を隠して、法人税を少なく見せかけようとした結果なのです。
会社の利益を少なくするための2つ目のアプローチは、経費を多く計上することです。つまり経費になるものを、たくさん計上していきましょう、というアプローチです。
経費がたくさん計上できれば、その分、会社の利益は少なくなります。結果として法人税も少なくするので、経営者はハッピー!というわけです。
そして、その経費に何を使うのかというと、ここででてくるのが、法人で契約する生命保険なのです。
法人が支払う保険料は、その全額が経費になる全損(ぜんそん)というタイプと、半分が経費になる半損(はんそん)というタイプと、経費にならないタイプの3種類が存在します。
全損と半損の保険は、保険料が経費になるので、その分、会社の利益を少なくする効果があり、結果として法人税を減らす効果があると、思われています。
例えば、1億円の利益をだした会社であれば、本来3000万円の法人税がかかるのに、1000万円の保険料を払えば、会社の利益は9000万になるので、2700万の法人税で済むことになります。300万も法人税が減りました!!
わぁ!300万も法人税減った!お得!!
と、思ってる経営者さんが多いのですが・・・・
世の中、そんなにうまくいきません。
実は、これ、全然お得になってないんですよ‼
保険料を支払った時に経費として扱われる保険は、確かに保険料を支払った時の法人税を減らす効果があります。
しかし問題は、その保険が満期になったり、被保険者が亡くなったりして、保険金が会社に支給される時に起こります。
保険料が経費になるタイプの生命保険は、保険金が支給された時に、その保険金は収入とカウントされます。つまり、受取る保険金には多額の法人税が課税されるのです。
先ほどの1000万の保険料を支払って300万円の法人税を減らした法人は、保険金が1000万返ってきた時に、その1000万は法人の収入とカウントされるため、300万円の法人税が課税されるのです。
保険料を支払う時の法人税は確かに減りますが、保険金を受け取る時には、過去に減らした分の法人税がまとめて課税されます。
つまり、法人税は減っていないのです。支払うタイミングを将来に先送りしただけです。
こういった現象のことを、「課税の繰延(かぜいのくりのべ)」いいます。「節税」というのは、支払う税金を本当に減らすことを言います。
法人保険には、本当の意味での節税効果はありません。あくまで課税の繰延です。これを「節税」という表現で会社経営者に勧めるのは、間違っていると思います。
この話をすると、「今、法人税は年々、税率を下げていますよね。課税の繰延であっても、将来の低い法人税率で法人税を支払った方が、トータルで払う法人税は減るのでは?」という突っ込みがくると思います。
それは、一理あります。
確かに将来的に法人税率が低くなった時に、法人税を支払った方が得です。
ですが、その効果は数パーセントの話です。
確かに数パーセントでも大切です。お金は大切ですから。
しかし私が伝えたいのは、もし経営者に対して法人税の節税になるということで営業をするのなら、この数パーセントの効果の話で営業をしないと嘘になるということです。
保険料が経費になるから節税になるというアプローチは、絶対的な嘘だということを強調しておきます。
百戦錬磨の敏腕経営者でも騙されてしまうのは、「保険金と退職金を相殺すれば節税になる」という話です。
実は、これも嘘なのです。
これは、数字のマジックです。
その種明かしをしていきましょう。
まず、先ほど、「保険料を支払った時に経費となる保険は、保険料を支払っている間の法人税は減りますが、保険金が支払われた時に収入としてカウントされるため、これまで減らした分の法人税を支払わなければいけません」とお伝えしました。
それであれば、「保険金が支払われるタイミングを、役員の退職のタイミングと合わせておいて、保険金と同額の役員退職金を支給すれば、プラスとマイナスで法人税が課税されないでしょ」という営業トークです。
聞いた感じは、もっともらしい感じがしますね!
この理論が本当にお得なのかどうか検証しましょう。
例えば、次のような会社があったとします。
【会社】
・毎年1億円の利益をだしている
・6年後に経営者が退職する予定である
・退職金は5000万円の予定である
そして、その経営者が次の生命保険を検討しています。
【検討している生命保険】
・毎年の支払い保険料1000万円(全て経費になるタイプ)
・払込期間5年(払込総額は5000万円)
・6年目に満期になり支払われる保険金は5000万円
わかりやすくするために、5000万払って5000万戻ってくる生命保険だと思ってください。
役員が退職する6年後に、保険金も支払われます。
うまく退職金と保険金を相殺できれば節税できるように見えますよね。
まずは、生命保険に加入していない場合を検討していきます。
毎年の利益は1億円ですので、支払う法人税は3000万円です。ただ、6年目だけは、5000万円の退職金を支払うので、利益も5000万円になります。そのため、この年の法人税は1500万となります。
1年目から6年目に支払った法人税を合計すると、3000万×5年=1億5千万円に1500万円を足した、1億6500万となります。
次に、生命保険に加入した場合を検討していきましょう
生命保険に加入したことにより、毎年の利益が1000万円減り、9000万円となるため毎年支払う法人税は2700万円になります。
6年目には、保険金が支給されますので、5000万円の収入がアップします。ただ、このタイミングで役員退職金5000万を支給するので、結果として会社の利益は1億円になります。1億円に対する法人税は3000万円です。
1年目から6年目に支払った法人税を合計すると、2700万×5年=1億3500万円に、3000万円を足した、1億6500万円となります。
「あれ??合計で支払っている法人税、同じ金額になった????」
そうなんです。これこそが数字のマジックのからくりです。
「保険金と退職金を相殺すれば、法人税がかからない」と言いますが、6年目の動きをよーく考えると、本来、保険金がなければ、退職金で減るはずだった法人税が減らなかったのです。つまり6年目には法人税が増加したのと同じなのです。
保険金と退職金を強引に紐づけていますが、本来、保険金がでようがでまいが、退職する時は退職するわけであって、保険金と退職金は全く関係ないのです。
今まで、私も非常に多くの経営者と話をしてきました。その中でも、「あぁこの方は凄く税務のことも財務のことも勉強されているなぁー」と感じる方もたくさんいましたが、そういった人でも、このマジックには引っかかります。
「法人税の支払いを将来に先送りすることによって、会社の資金繰りを良くする効果もあります」
この話は、半分本当で半分嘘です。
私自身が税理士法人を経営する身になって初めて気づきましたが、法人保険が資金繰りをよくするという話は、本質的には間違えていますが、経営者の気持ち的には、資金繰りを良くする効果があります。
具体的に解説していきます。
例えば、1年間の利益が1億円、そして1億円のキャッシュを持っている会社があったとします。
この会社が、このまま何もしないで法人税を支払った場合、法人税は3000万円となりますので、手許には7000万円のキャッシュが残ります。
では、この会社がもし、支払保険料1000万円の保険に加入したとします。
そうすると、会社の利益は9000万円となりますので支払う法人税は2700万円です。先ほどのケースよりも300万円も法人税が減りました。
しかし、忘れてはいけないのは、保険会社に1000万円のキャッシュを支払っている事実です。
会社は、2700万の法人税と、1000万の保険料を支払うので、手許には6300万円のキャッシュしか残らないことになります。
保険に加入しなかった場合には7000万の自由に使えるお金が残るのに対し、保険に加入した場合には6300万円のキャッシュしか残らないです。
生命保険に加入した方が、会社の中にある預金残高は減ってしまうのです。つまり、本質的には会社が使えるお金は減少することになるので、資金繰りは悪化すると言っていいでしょう。
一方で、先ほど、経営者の気持ち的には資金繰りを良くする効果があるとお話したのは、どのような意味かというと・・・
会社の経営者は、常に万が一のことに備えてプールしておきたいお金を持っている、ということがポイントになります。
例えば、ある経営者の会社が1億円の利益をだして、1億円のキャッシュを手に入れたのですが、そのうち2000万円は、万が一のことに備えて、プールしておきたいと考えたとします。
そうすると、設備投資に充てたり、人件費に充てたりすることを考えるのは8000万円ということになります。そこから法人税3000万円を支払うと、自由に使えるお金は5000万円ということになります。
もし、この経営者が、先ほどのプールした2000万円を生命保険の保険料に充てたとします。どうせプールするなら定期預金ではなく、生命保険にしておこうという発想です。
保険料2000万円は保険会社に支払いますが、無くなってしまうわけではありません。万が一の時には解約できますし、長い年月をかければ2000万より増えて戻ってきます。
そして、その2000万円が経費になるとしたら、支払う法人税は2400万円になります。そうすると、自由に使えるお金は、1億円-2000万(保険料)-2400万(税金)=5600万になります。
先ほどは5000万でしたので、600万円ほど自由に使えるお金が増えたことになります。
万が一のためにお金をプールしようと思った時に、定期預金にいれておけば、当たり前ですが法人税を減らす効果はありません。
一方で、生命保険という形でプールすれば、支払う年の法人税を減らす効果を得ることができます。プールしておきたいお金がある経営者にとっては、気持ち的に資金繰りを良くする効果があると言っていいかもしれませんね。
ただ、生命保険は短期間で解約すると、支払った保険料からかなり目減りしてしまったり、そもそも支払った保険料の80%くらいしか返してくれない保険もたくさんあるので、資金繰りを良くする目的なのに、本当にお金が減ったら本末転倒です。
生命保険を否定するような書きぶりになってしまいましたが、私は法人で生命保険に加入することは良いことだと思っています。
私は生命保険のプロではありませんが、法人で保険に加入することには大きく2つの効果があると思っています。
一つは、「安心」です。
私自身も税理士法人を経営する身ですので、最近よく考えます。
「もし、自分が交通事故で突然死んでしまったら・・・」
一緒に働いてくれている仲間の生活や、仕事を任せてくださっているお客様に、私がいなくなっても迷惑がかからないかなと。
私達は税理士法人なので、そこまで大きな設備投資もいりませんし、銀行からの借り入れなどもありません。
しかし、設備投資がたくさん必要な業種(飲食店や、歯医者など)では、多額の借金があると思います。そのような中で経営者が死んでしまったら、残された人たちは非常に苦労することになります。
そのような時に、生命保険に加入しておけば、保険金のおかけで事業を継続させることもできるでしょうし、お客様にも迷惑をかけずに、新しい体制が築けると思います。
「もしも、自分に何かあったら大変だ・・・」という不安を抱えて毎日を過ごすよりも、「もしも、自分に何かあったら会社に何億円か入るから大丈夫かぁ」という安心のもと毎日を過ごした方が気持ちいいですし、仕事もはかどりますよね!
そういった安心感を保険会社から買うのです。
もう一つの効果は、「確実な資産運用」です。
生命保険の良い所は、受取保険金や解約返戻金の金額を保証してくれている点です。保険会社が倒産しない限り、必ず約束した金額は支払ってくれます。
保険会社に支払った保険料よりも、最終的に増やして戻してくれる生命保険もたくさん存在します。(短い期間で解約すると、目減りしてしまいますが)
将来に支払う退職金の原資や設備投資の原資として、定期預金で寝かしておくよりは、法人保険で確実に運用していくために保険を活用するのは非常に良い判断だと思います。
このように、法人で加入する保険には、「安心」という効果と「確実な資産運用」という効果の2種類があるのです。
こういった効果を狙って法人で保険に加入することは良いことだと思います。
もし確実な資産運用の効果を期待して生命保険を検討しているのであれば、絶対に気を付けなければいけないポイントがあります。それは、保険会社が持ってくる保険の提案書の見方です。
解約返戻金の推移を示す表には、「単純返戻率」と「実質返戻率」という2つの欄がありますが、必ず単純返戻率だけで判断してください。
「実質返戻率」は実質でも何でもありません。法人税の減額効果を織り込んだ数値と謳っていますが、法人税は減っていないので、あの表記は嘘です。(景品表示法に違反しているんじゃないかと思ってます)
資産運用の一環として法人保険を検討している経営者は「単純返戻率」だけで判断しないといけません。
例えば解約返戻金のピークが単純返戻率80%くらいの保険だと、「1億円払っても8000万しか返さない保険」ということになります。
法人税を減らす効果はまったくありませんので、言ってしまえば、保険会社に2000万プレゼントしたようなものです。
一方で、単純返戻率が120%ですとか、200%になるような生命保険であれば、「1億円払ったら、1億2千万円や2億円に増やして返してくれる保険」ということになります!これはGOODですよね♪
「そんな保険、あるの?!」と思う経営者の方もいると思いますが、まだまだ日本にもこういった保険ありますよね。ただ、ドル建てですとか、外貨の商品がほとんどだと思いますが。
とにもかくにも、「法人税の節税効果まで加味して」とか「実質返戻率を見てください」という営業マンの言うことを信じてはいけません。そういう営業マンには、このブログ記事をプリントアウトして渡してあげてください。
法人で加入する生命保険に、法人税を少なくする効果はありません。
法人税を支払うタイミングを後ろに伸ばす効果があるだけです。
資金繰りを良くする効果は、気持ち的にはあります。定期預金でプールしておくよりは、生命保険でプールしておいた方が、法人税の支払いを後回しにできる分、資金繰りはよくなります。
法人保険は、本来の効果である「安心」と「確実な資産運用」という側面から検討し、「節税」という側面は違う方法で検討していきましょう。
最後になりますが、私たちのメールマガジンかLINE@に登録していただいた方には、税務調査のマル秘話や、贈与契約などの豪華プレゼントを進呈中です(*^-^*)無料ですので、是非、ご登録をお願いします♪
最後までお読みいただきありがとうございました♪
生命保険は、法定相続人の人数×500万まで相続税が非課税になります。そんなことは知っているよ!という人、多いと思いますが、生命保険の受取人を誰にするかによって、非常に得する場合と損する場合があるのは知っていますか?一番得をするのは子供、二番目は配偶者、孫を受取人にする生命保険は最悪です
リビングニーズ特約とは、余命6ヶ月の宣告を受けた人が、生命保険金(死亡保険金)を前払いで3000万円まで受け取ることができる制度です。とても素晴らしい制度ですが、相続税の観点からは注意して頂きたいことがあります。保険営業マンも必見の内容です!
2019年6月22日更新
「非上場株式の相続税評価額は、配当還元方式・純資産価額方式・類似業種比準価額方式の3つから計算します」って!専門用語が多すぎて訳わからん!!という方に朗報です。イラストをたくさん使いながら、日本一わかりやすく株式の評価を解説しました♪これでわからなければ諦めてください!
私(橘)の人生初書籍となる「ぶっちゃけ相続」をダイヤモンド社さんより出版しました。ブログやYouTubeで話していない内容も満載です♪本書の解説動画も無料公開中!
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