円満相続税理士法人 税理士
学生時代に税理士試験の受験を始め、在学中に4科目取得し群馬県の会計事務所に就職。売上規模数十億円の企業の法人税、相続税を担当しつつ25歳の時に税理士試験合格。
過去に贈与したつもりのお金が、税務調査で贈与が成立していないと指摘されると聞いたのですが・・・
確かに、税務調査では過去の贈与が成立しているか否かを確認される場合があります。
今回は、贈与契約書も作成しておらず、贈与税の申告もしていなかった贈与が、裁判所に認められた判例を紹介しますので、ぜひ参考にしてください!
皆さんこんにちは。
円満相続税理士法人、税理士の加藤です。
税務調査でよく指摘されることの一つに、過去の生前贈与があります。
過去に贈与した財産については、一定の場合(※)を除いて相続税の対象とはなりません。
※生前贈与加算の対象となる贈与や、精算課税制度を適用した場合など
しかし税務調査では調査官から
これは贈与が成立したことにはならないので、相続税の財産として計上してください。
と指摘されることがあります。
この論点は、実務上で税理士でも判断に悩むほど難しい部分があります。
そこで今回は、贈与契約書が無く、贈与税の申告もしていない生前贈与が、成立しているか否かが論点となった判例を解説していきます
皆さんの中で、生前贈与の対策を検討されている方や、過去の生前贈与の取り扱いに悩んでいる方がいる場合には、ぜひ参考にしていただければと思います!
簡単なポイント解説
最初に、今回の判例から考えられる判断ポイントを、簡単にお伝えします。
今回の判例は、納税者は生前贈与が成立していたと主張し、税務署は贈与は無かったと主張していました。
そして裁判所は最終的に、納税者の主張を認めて、生前贈与が成立していたと判断しました。
【生前贈与と判断されたポイント】
・贈与者は、渡したお金について返還請求をしていない
・受贈者は、返還できるほどの資金を持っていない
・受贈者は借金を抱えており、贈与者はそれを救うためにお金を渡した
この贈与は、
・贈与税の申告が無い
・贈与契約書が作成されていない
という問題があったのですが、これらのことが無くとも贈与は成立する、と裁判所は判断しました。
判例の概要
今回ご紹介する判例は、
〈静岡地方裁判所平成12年(行ウ)第16号相続税決定処分等取消請求事件〉
となります。
まずは、この裁判の概要を説明します。
登場人物
この裁判の登場人物は次の通りです。
被相続人:父A
相続人:子B、子C、子D
父Aから子への贈与
父Aは生前、子供たちに対して、それぞれ次のようにお金を渡しています。
・子Bに10億円
・子Cに2億円
・子Dに20億円
ものすごい金額ですね・・・
贈与の理由
なぜ父Aは子供たちに、このような多額の贈与を行ったのでしょうか?
父Aはグループ企業のトップという地位でした。
そして子供たちもそのグループ会社の取締役などになっています。
子B、C、Dは、それぞれグループ会社からお金を借りて、株式投資をしていました。
しかし、取締役が会社から多額の借り入れをすることが、金融機関などの信用問題が生じてしまいます。
そこで父Aは、子供たちに会社から借りているお金を返済させるため、上記のような多額の贈与を行ったのです。
グループ全体の信用のために、子供たちに対して贈与をしたのですね!
税務署の主張
税務署は上記の資金提供について、次のように指摘します。
・贈与契約書が無い
・贈与税の申告をしていない
・子供たちは借金を自分たちで返せる能力があった
・金額が大きすぎる
上記のことから、この資金提供は贈与ではない。
裁判所の判断
この問題について、裁判所は次のように判断しました。
普通に考えれば、このお金の流れは贈与と考えるのが自然である。
税務署は、贈与ではないという証拠を提示できていない。
よって今回の資金提供は、過去に贈与があったものする。
【以下判決文より抜粋(一部筆者加工)】
●グループのトップの地位にあったAは、同グループの金融機関に対する信用を維持するため~~~子に対し本件~~~の交付を行ったこと、
●子に対する金員交付の趣旨は明確ではなかったが、~~~Aから子に対して交付した金員の返還請求はなく、子も金員交付の事実に関しAから贈与されたものと考えていたと推認されること、
●子が株取引をして借金を抱えるようになったことについては、Aの指示が影響していて同人にも責任の一端があったことが背景にあること
の各事実を認めることができ、上記金員の交付は、~~高額であるものの、父から子に対する金員の交付であって、Aは、生前、子に対し、交付した金員の返還を請求せず、また、子には、Aから返還を請求されたところで、上記金員のような高額な金員を返済するだけの資力はなかったことが認められる。
~~~
以上の事実関係に照らせば、Aは、自らが築き上げてきた~~~グループの信用維持を図り、実子~~~の急場を救うため、子に対し、その借入金の返済資金として、上記金員を贈与し、子もこれを承諾していたと認めるのが自然かつ相当
~~~
被告(税務署)は
●贈与契約書等の作成がないこと、
●高額な金員の贈与をしたことがないこと、
●子にその借入金を返済する資力があったこと
などをるる主張するが、いずれも上記金員の交付が贈与ではなく立替金の交付であることを根拠付ける事実としては薄弱
~~~
贈与税の申告の有無と贈与の有無とは直ちに結びつくものではない
~~~
以上によれば、本件~~~交付はAから子に対する生前贈与と評価され、この贈与は本件相続開始日前3年以内の贈与ではないから、本件相続税の課税対象財産とはならず、甲に本件相続税の納税義務はないといえる。
実務への反映
今回の判例は、過去の生前贈与を考える上で非常に参考になるかと思います。
私見として、贈与を主張する大きな要素は、次のようなものかと考えます。
①贈与と主張する根拠
(判例の場合は、グループの信用維持と子供の救済)
②実際に返還があったり、返還請求をしているか
(贈与で無いのであれば、過去に返還や、返還を催促するようなアクションがあるはず。)
③受け取った側の資金力
(返済の目途が全く立たない資金力の人には、お金を貸さない→つまり贈与をしたと考える。)
④お金を渡すときの経緯
(判例の場合は、お金を渡す目的は曖昧であったが、状況を鑑みて贈与と認定されている。)
なお、今回は贈与契約書の作成や贈与税の申告をしていなくとも、贈与が成立していたと判断されましたが、贈与を検討している場合には、この二点は必ず行っておくべきだと思います。
特に、贈与税の申告については「必ずやらなければならない手続き」となりますので、忘れないように注意しましょう。
まとめ
今回は、生前贈与の成立について論点となった判例をご紹介しました。
この判例では生前贈与が認められましたが、この論点は税理士でも判断に悩むほど難しいものがあります。
皆さんの中で、もしご不安になるような贈与がある場合には、ぜひ一度税理士にご相談いただければと思います。
弊社では、生前贈与や相続税に特化した専門の税理士が対応いたしますので、ぜひお気軽にご連絡ください!