不動産を時価よりも低い金額で売却すると贈与税が発生すると聞いたのですが。

不動産に限らず、何かを売却するときの値段が低すぎると、贈与税の問題が生じる可能性があります。

相続税の評価額は時価よりも低いと聞いたことがあります。
例えば、相続税の評価額で土地などの売却をしたときは、やはり贈与税が発生してしまうのでしょうか?

その判断は非常に難しいのですが、全く同じ論点で裁判となった判例があります。
今回は「相続税評価額による売却は贈与税が生じるか?」について、判例をもとに解説していきますね!

皆さんこんにちは。

円満相続税理士法人、税理士の加藤です。

親族間での売買などの場合、時価よりも低い金額で売買をするケースがあるかと思います。

そこで相続税法では、時価より「著しく低い価額」による売買について、贈与税を課税するという規定を設けています。

~相続税法第7条~

著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合においては、当該財産の譲渡があつた時において、当該財産の譲渡を受けた者が、当該対価と当該譲渡があつた時における当該財産の時価との差額に相当する金額を当該財産を譲渡した者から贈与により取得したものとみなす。

それではこの売買価格を、「相続税の評価額」にした場合、上記の規定を適用されてしまうのでしょうか?

今回は、相続税の評価額で不動産の譲渡をしたところ、税務署から値段が低すぎるとして指摘された判例(東京地方裁判所平成18年(行ウ)第562号贈与税決定処分取消等請求事件)を紹介します。

親族間での不動産売買を検討している方や、売却価格をいくらにすればよいか悩んでいる方は、この判例が非常に大切になりますので、ぜひ最後まで読んでいただければと思います。

結論

まず初めに、この判例の結論をお伝えしていきます。

~判例の結論~

・「時価」と「相続税評価額」は同一視できない

・「相続税評価額」は「時価」のおおむね80%程度になるように設定されている(路線価評価の場合)

・「相続税評価額」にて売買をすることは、経済合理性があるものとは言えない

「相続税評価額」は「時価」よりも低い価額ではあるが、「著しく」低い価額とは言えない

→つまり、贈与税は生じない

・例外として「相続税評価額」が「時価」の80%よりも低くなっており、それが明らかな場合には、著しく低い価額として贈与税が生じる

つまり、相続税評価額による譲渡は贈与税の対象にならない、ということでしょうか?

基本的にはそうなのですが、それはあくまでも「相続税評価額」が「時価」の80%程度である場合に限った話です。
相続税評価額による売買が絶対に安全というわけではないので注意が必要ですね。

事例の概要

それではここからは、今回の事例について見ていきましょう。

登場人物

今回の事例の登場人物は

・父A

・母B

・子C

の三人です。

土地の売却

父Aは自分が所有する土地を、母Bと子Cに売却しました。

(正確には土地の持分を売却しています。)

父Aはこの時の売却代金を、「相続税評価額」とし、金額は次の通りです。

・母Bに対する売却・・・売却代金:約8,900万円

・子Cに対する売却・・・売却代金:約3,670万円

税務署からの指摘

上記の売却について、税務署は次のように指摘をします。

「相続税評価額」は時価よりも低い。
よって、時価との差額について贈与税を課税します。

今回売却された土地の「時価」は、判決で次のようになっています。

・母Bに対する売却・・・時価:約1億1,410万円

・子Cに対する売却・・・時価:約4,710万円

確かに、実際の売却代金は、時価よりも低いということになりますね!

判決のまとめ

ここからは実際の判決内容を見ていきましょう。
なお、最終的に裁判所は、相続税評価額は「著しく低い価額」とは言えないと判断しています。

「相続税評価額」は「時価」と言えるか

母Bと子Cは、「相続税評価額」こそが「時価」である、と主張しましたが、裁判所は次のように判断します。

「相続税評価額」は「時価」と同一視は出来ない。

~以下判決文より抜粋~

相続税評価額は、画一的な評価方法によって評価された価額であるという点で合理性が認められることから、それが客観的交換価値を超えない限りにおいて、課税実務上、~~~時価に相当するものとして通用するにすぎない。

すなわち、~~~相続税評価額を課税実務上時価に相当するものとして使用することを許容していると解されるが、現実には、相続税評価額と時価すなわち客観的交換価値との間に開差が存在することは否定することができないのであり、これをあえて同じものとみなす必要はないしそのようにすべきでもないのである。

つまり裁判所は、「相続税評価額」による売却は、「時価」よりも低い価額での売却である、と判断したわけです。

「著しく低い価額」に該当するか?

「相続税評価額」が「時価」よりも「著しく低い価額」と言えるのかについて、裁判所は次のように判断をしています。

「相続税評価額」は「時価」の80%程度となるように設定されている。
この80%という割合は、「著しく」低い割合とは言えない。

「相続税評価額」は「時価」よりも低いことは否定していませんが、「著しく」という部分には該当しない、ということですね。

しかしながら裁判所は次のようにも説明しています。

何らかの理由で「相続税評価額」が「時価」の80%よりも低くなっているときは、「著しく」に該当する可能性が出てくる。

「相続税評価額」はおおむね「時価の」80%程度になるように設定されていますが、実はここの不動産によって、この割合は変わってきます。

分かりやすい例とすれば、都心のタワーマンションなどは、評価額が購入価額(時価)の半分以下になるケースもあるのです。

(この乖離があまりに大きいので、令和6年以降は評価方法が見直されることとなりました。その論点については、次の記事で詳しく解説していますので、併せてご確認ください。)

裁判所は、80%の割合は「著しく」には該当しないが、もしそれ以下の割合になっていたら該当することもあるよ、と含みを持たせた判断をしたわけです。

つまり、相続税の評価額で売却すれば必ず大丈夫、というわけではないので注意してください。

~以下判決文より抜粋~

相続税評価額と同水準の価額かそれ以上の価額を対価として土地の譲渡が行われた場合は、原則として「著しく低い価額」の対価による譲渡ということはできず、例外として、何らかの事情により当該土地の相続税評価額が時価の80パーセントよりも低くなっており、それが明らかであると認められる場合に限って、「著しく低い価額」の対価による譲渡になり得ると解すべきである。

もっとも、その例外の場合でも、さらに、当該対価と時価との開差が著しいか否かを個別に検討する必要があることはいうまでもない。

今回の事例の場合

今回の事例では、相続税の評価額と時価は次のような金額となっていました。

●相続税の評価額

・母Bに対する売却・・・売却代金:約8,900万円

・子Cに対する売却・・・売却代金:約3,670万円

●時価

・母Bに対する売却・・・時価:約1億1,410万円

・子Cに対する売却・・・時価:約4,710万円

これを割合にすると、

この事例の相続税の評価額は、時価の約78%

と言えます。

よって裁判所は、

「相続税評価額」は「時価」のおおむね80%なので、今回は「著しく低い価額」に該当しない。

と結論付けました。

~以下判決文より抜粋~

 本件各売買の代金額は、B購入持分の代金額が8902万6560円、C購入持分の代金額が3677万1840円である。~~~これらの金額は、~~~いずれも、時価の約78パーセントであり、相続税評価額とは完全に一致する。

なお、本件土地の平成15年当時の路線価は、同年12月25日当時における更地価格の時価の約81パーセントであった。

以上を前提に判断すると、本件各売買が行われた平成15年12月25日当時、本件土地の路線価は更地価格の時価の約81パーセントだったのであるから、本件土地は、地価公示価格と同水準の価格の80パーセントという一般的な路線価決定の基準に合致していた。

同じ時点における本件土地の相続税評価額も、時価の約78パーセントだったのであり、路線価と更地価格の時価との比率におおむね一致している。

~~~

そうすると、本件土地については、相続税評価額が時価の80パーセントの水準よりも低いことが明らかであるといえるような特別の事情は認められないから、相続税評価額と同程度の価額かそれ以上の価額の対価によって譲渡が行われた場合、相続税法7条にいう「著しく低い価額」の対価とはいえないということができる。

なお裁判所は、対象の不動産が第三者に賃貸されている場合などは、時価と相続税の評価額のいずれからも、借地権や借家権を控除して比較するとも判断しています。

まとめ

今回は、相続税の評価額による不動産の売却について、実際の判例をもとに解説してきました。

この判例では納税者の主張が認められましたが、相続税の評価額による売却のすべてが認められたわけではありません。

実際問題として、「相続税の評価額」が「時価」の80%程度になっているのか否かを計算するのも、かなり難しい手続きになるかと思います。

何か一つ間違えてしまうと、思いがけない税金が発生してしまう恐れがあるので、不動産の売却を検討しているときは、ぜひ相続税や贈与税に詳しい税理士へ相談することをお勧めします。

弊社では相続税、贈与税はもちろん、不動産についても徹底した調査のもとで評価を行っていきますので、何かご不安なことや、ご相談事項がありましたら、お気軽にご相談ください!

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