円満相続税理士法人 税理士
学生時代に税理士試験の受験を始め、在学中に4科目取得し群馬県の会計事務所に就職。売上規模数十億円の企業の法人税、相続税を担当しつつ25歳の時に税理士試験合格。
自宅が線路沿いで、電車が通るたびに騒音に悩まされているのですが、相続税の評価額に反映することってできますか?
一定の要件を満たせば、騒音による減額は可能ですよ!
一定の要件ですか?
規定では大まかなことしか記載していないので、今回は具体的な判断ポイントを、事例を参考にして紹介しますね!
皆さんこんにちは。
円満相続税理士法人、税理士の加藤です。
今回は騒音問題がある土地について、相続税の評価額を減額できるか否かが争われた事例を紹介します。
裁決の原文は下記のページをご覧ください。
騒音のある土地については、「利用価値が著しく低下している宅地の評価」という取り扱いで、評価額を10%減額できるのですが、実は複雑な要件があります。
上記減額の詳細は、次の記事をご覧ください。
この要件は、規定には大まかな事しか記載されておらず、具体例はありません。
騒音問題がある土地をご相続した方、実務でこの減額を適用できるか判断に迷っている方は、今回の事例の判断ポイントを、ぜひ参考にしてみてください。
簡単なポイント解説
まずは、今回の事例から考えられる、騒音による減額が認められるポイントをまとめてみます。
お忙しい方は、ここだけでも読んでみてください。
~騒音による減額の判断ポイント~
①路線価に騒音による減額が反映されていないか?
〈確認方法〉
・税務署への確認
・騒音がある土地の路線価と、そうでない近隣の路線価との比較
②実際の騒音レベルが、一例として下記の基準値を超えているか?
〈確認方法〉
・「騒音に係る環境基準」
・「在来鉄道の新設または大規模改良に際しての騒音対策の指針について」
・「新幹線鉄道騒音に係る環境基準について」
③その騒音により、取引金額が減額しているか?
〈確認方法〉
・近隣の土地の売買実績との比較
・固定資産税評価額に、騒音による減額が反映されているか
今回の事例では、上記のポイントの他にも、「騒音の測定方法」や「自治体の騒音調査」等も要素に入れて、最終的に減額が認められました。
事例の争点
それではここからは、事例の内容に入っていきましょう。
今回の争点はシンプルで、相続人Aが相続により取得した「線路沿いにある土地」について、騒音による減額が認められるか否か、というものです。
そこで、Aと税務署は、次のような点で主張をしていきます。
騒音が生じていたか
●相続人Aの主張
実際に騒音を測定したら、79.5~85デシベルもあった。
これは基準値である55デシベルを超えている。
●税務署の主張
その測定は、1時間程度しか調査しておらず、測定方法も不明であるため参考とならない。
騒音により取引価格が下落しているか
●相続人Aの主張
地元の不動産業者は10~15%価値が下がるといっている。
●税務署の主張
Aの主張は具体性が無いため採用できない。
固定資産税評価額にて減額されていることについて
●相続人Aの主張
固定資産税評価額では騒音による減額がされている。
相続税評価額で減額されないのはおかしい。
●税務署の主張
固定資産税評価額が減額されているからといって、相続税評価額が減額できるとは限らない。
国税不服審判所の判断
相続人Aと税務署の主張は、どちらも言っていることは正しいような気がしますね…
確かに、この論点は税理士でも判断に悩むような難しいところがあります。
国税不服審判所はこの難問についてどのように判断をしたのか、紹介していきますね!
騒音が生じていたか
現地の状況等を踏まえると、騒音は生じて「いた」といえる。
審判所は対象地について、以下のポイントを根拠として、騒音が生じていたと判断しました。
~審判所の判断要素~
①相続人Aが行った測定は、一定の信用性があること。
(測定機器がJIS規格に準拠していたことや、測定日の気象状況、測定場所から判断)
②測定の結果である61.8~85デシベルは、
「在来鉄道騒音指」の基準値(60デシベル)
「新幹線騒音基準」の基準値(70デシベル)
を上回っていること。
③都道府県が行った調査による近隣地の騒音レベルも、②の基準値を超えていること。
④審判所が行った現地調査の際も、会話が聞こえづらくなる程度の騒音であったこと。
⑤一日の列車本数は400本以上であり、継続的に騒音が生じていたものと認められるこ
上記の判断を考慮すると、実務で騒音を証明するときは、
・感覚ではなく、測定器を用いた調査をしているか
・騒音についての公的な基準値を超えているか
・自治体などが騒音調査を行っているか
・その騒音が継続的に生じているか
などを調べると良いかと思います。
~以下原文より抜粋~
請求人が行った本件測定~~~については、~~~日本工業規格のJIS C 1509-2に準拠したものであったこと
~~~
測定方法は、在来鉄道騒音指針及び騒音測定マニュアルで示された標準的な測定方法~~~に完全には準拠するものではないものの、不合理な測定方法とまではいえず、その測定結果には一定の信用性を認めること
~~~
g県の騒音実態調査におけるa市h町での測定結果において、等価騒音レベル(昼間が67デシベル、夜間が61デシベル)は、在来鉄道騒音指針における指針値(昼間が60デシベル、夜間が55デシベル)をいずれも上回っており、ピーク騒音レベル(84デシベル)も、新幹線騒音基準の基準値(70デシベル)を上回っていること
~~~
当審判所の現地調査においても、列車通過時には普通の会話が聞こえづらくなる程度の騒音があったこと
~~~
日の列車本数は400本以上で、運行時間帯は午前5時頃から深夜零時過ぎにまで及び、時間帯によっては5分弱間隔の頻度で列車が通過することからすると、
~~~
列車走行による騒音は、長時間にわたり、相当の頻度で発生していることが認められる。
騒音によって取引価格は下落しているか?
騒音が生じていたことは審判所が認めてくれましたが、その影響で価値が下落していることは、どのように判断されたのでしょうか?
価値の下落について、審判所は次のように判断しています。
固定資産税評価額が下がっているということは、騒音が取引価格に影響を与えると言える。
よって、取引価格は騒音により下落している。
対象となった土地は、固定資産税評価額が騒音により減額されていました。
ここで審判所は、
「固定資産税評価額は時価を決定する合理的な基準」
として、騒音が取引価格に影響を与えていると判断をしました。
~以下原文より抜粋~
固定資産評価基準は、~~~適正な時価~~~を決定する際の客観的かつ合理的な基準であると認められるところ、このような固定資産評価基準における所要の補正の趣旨~~~に照らせば、~~~
本件土地は、~~~その地積全体について、~~~鉄道騒音によりその取引金額が影響を受けていると認めるのが相当である。
まとめ
上記の事例について、最終的に審判所は、
①相続税の路線価に、騒音による減額が考慮されていないこと
②騒音は日常的に生じていたと認められること
③騒音により取引価格は下落していること
と判断し、評価額を減額することを認めました。
今回の事例で、「利用価値が著しく低下している宅地の評価」を適用するためには、しっかりとした準備をする必要がある、ということが実感できるかと思います。
間違った判断で適用をしてしまうと、税務調査の対象になってしまう可能性が出てきてしまい、適用できるにもかかわらず漏れてしまうと、本来支払うべき税額以上の負担が生じてしまいます。
このような判断が迷うお土地を相続するときは、ぜひ相続税を専門としている税理士事務所にご相談をしていただければと思います。
弊社では、不動産に関して税理士が徹底した調査を行い、減額要素を漏らすことが無いようにしておりますので、お気軽にお問い合わせくださいませ!