皆さんこんにちは。

円満相続税理士法人、税理士の加藤です。

今回は、不動産を鑑定士に評価してもらい相続税の申告をしたら、それが税務署に否認された判例を紹介します。

不動産は評価額が高くなることが多く、相続税額にも大きな影響を与えるものとなります。

ちょっとしたミスで大きな損失を被ることもありますので、不動産の評価方法で迷っている方がいれば是非参考にしてください!

(今回解説する裁判は「東京地裁H31年1月18日棄却・確定 税資第269号-5順号13228」となります。)

判例の概要

まず初めに、この裁判のポイントと結論を解説してしまいます。

(時間の無い方はここだけでも読んでみてください!)

この裁判のポイントはズバリ、

不動産の評価額に、路線価評価などではなく鑑定評価を採用して良いのか?

ということになります。


納税者側は当初、不動産の評価額を「不動産鑑定士に依頼して算定した鑑定評価額」としました。

鑑定評価の方が相続税が少なくなるので、そちらを採用したという形ですね。

ただ、それを税務署が認めなかったことから、裁判にまでなってしまいます。

そして判決は、納税者の敗訴となっております。

つまり裁判所は、鑑定評価による相続税申告は認めず、評価通達に則した評価方法(路線価評価などです。)でなければダメだよ、と判断したわけですね!


~納税者と税務署の主張~

不動産は鑑定士に評価してもらった評価額でも良いでしょう?

不動産は評価通達で定める評価方法によって計算してください。鑑定評価は認めません。

~判決~

不動産は原則として、評価通達により評価するべき。よって納税者の主張は認めません。


判決文を読むと、特別の事情があれば評価通達による評価ではない方法を採用しても良いという余地は残っていますが、基本的には認められないと考えておいた方がよさそうです。

鑑定評価額が評価通達の評価額を下回る場合には、鑑定評価額を採用することに合理的な意味が無ければ、この判決のような結果になってしまうかもしれないので注意してください。

争点① 時価とは何か

ここからは、実際の裁判の内容を見ていきましょう。

1つ目の争点は「時価」とは何か、ということです。

相続税法の財産の評価額は、原則的にその相続発生日の「時価」で評価をするという決まりがあります(相続税法22条)。

今回の裁判は、この時価の解釈を納税者と税務署が争ったわけです。

税務署の主張

特別の事情が無い限りは、不動産は評価通達によって評価すべきであり、その評価額が時価である。

税務署としては、よほどのことが無い限りは評価通達以外の評価方法はダメだよ、と言っているわけですね!

そもそも通達とは税務署内部の行為指針のようなものですが、納税者においても原則はこれを準拠すべきであるとも主張しています。

納税者の主張

そこで納税者は反論をします。

評価通達はあくまでも通達であって法ではないため、国民はそれに拘束されることは無い。
鑑定評価額は正当な基準に基づいて算出されているため、この評価額こそが時価である。

通達は必ずしも守らなくちゃいけないものじゃないし、鑑定評価も時価だよね、と言っているわけですね。

相続税法22条において時価は次のように規定されています。

「現況に応じ不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価格」

この文言を読めば、確かに鑑定評価でも時価と捉えるのも間違いとは言い切れないかもしれません。

裁判所の判断

そこで裁判所は、この事案における時価の取扱いについて、最終的に次のように判断しています。

評価通達による評価方法は合理性があり、それをもとに算出された評価額は特別の事情が無い限りは時価を上回るものではない。

つまり相続税の計算においては、基本的には評価通達による評価方法が時価なんだよ、と判断したわけです。

~以下原文より抜粋~


また裁判所は他にも次のようなことを言っています。

納税者は、時価評価においては個々の土地に特有の事情を全て考慮すべきと言うが、それは、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減、租税負担の実質的な公平の観点から採用できない。

要するに、一つ一つの不動産について毎回異なる評価方法を採用していたら、納税手続き自体が出来なくなる。

そうならないために評価通達という一定のルールを設けているのだから、それを順守するべきである、と言うことです。

~以下原文より抜粋~

以上のことから、時価の取扱いについては納税者の主張は全て裁判所に却下されました。


この判決から、裁判所は基本的には鑑定評価を認めることはせず、評価通達を重要視することが分かりますね!

争点② 特別の事情があるか

さて次に争点となったのは、鑑定評価を採用すべき特別の事情があったか否かです。

争点①でも書いた通り、相続税の時価は特別の事情が無い場合には、評価通達による評価方法で計算をするとの判断になります。

そこで納税者は、評価通達を採用できない「特別の事情」があるんだと主張しました。

納税者の主張

路線価の基礎となっている公示価格が、実際の地価の下落を反映できていないので、路線価評価では正確な評価を行うことが出来ない。

納税者は、不動産会社が公表している地価の動向資料をもとにして、公示価格が正確に地価を反映していないと主張しました。

実際の地価は○%も下落しているのに、公示価格は×%しか下落していないので、路線価で評価をすると評価額は実際よりも高くなってしまうのだ、ということです。

また

実際の周辺の取引価格からみても、公示価格は高すぎる。

とも主張しました。


主張をまとめると、公示価格が間違っているんだから、それを基礎としている路線価も正確なものではないので、鑑定評価を採用する特別な事情があるんだ、ということですね。

裁判所の判断

納税者の主張に対して、裁判所は次のような判断をします。

不動産会社が公表している地価の資料は、注意書きで「必ずしも正確な数値とは限らない」という記載があるため、採用は出来ない。

まず、不動産会社が公表した資料については注意書きがあり、そこには

「調査がその会社独自のものであり数値が必ず正確なものとは限らない」

という記載がありました。

そのため裁判所は、その資料をそのまま採用することは出来ないと判断したようですね。

~以下原文より抜粋~


周辺の取引価格と公示価格の差については、個々の土地の事情を加味していないため、これだけをもって公示価格が高すぎるとは言えない。

実際の周辺の取引価格と比較して公示価格が高いという主張に対しては以下の理由により認められていません。

●実際売買されている土地と公示価格の対象地の個々の事情を反映させていないこと

●公示価格算定までの過程は多くの事情を勘案して計算していること

●納税者が主張する、取引価格を基に計算した評価額は、公示価格の計算ほど事情を勘案していないこと


上記以外にも色々な理由がありますが、結果として裁判所は、公示価格が間違っているという納税者の主張をすべて却下しています。

不動産会社の資料や、周辺の売買実績は参考になるかもしれませんが、裁判で必ず採用されるとは限らないことに注意ですね!

争点③ 評価通達の評価額と鑑定評価額に大きな乖離がある

今回の不動産については、納税者が提出した鑑定評価額と、評価通達による評価額との間に大きな乖離がありました。

その乖離について、納税者がどのように主張し、裁判所がどのように判断したのかも見ていきましょう。

納税者の主張

評価通達による評価額は、鑑定評価に比べると数十パーセントも高い。このことからも評価通達による評価方法は採用できない。

まず前提として、評価通達による評価額と鑑定評価額には差があることが普通です。

そのため少しの差程度であれば評価通達がいけないとは言えないのですが、今回の不動産は評価額が数十パーセントも乖離しているので、鑑定評価を採用するのだと言うのが納税者の主張ですね。

裁判所の判断

仮に鑑定評価が正しいものであったとしても、評価通達による評価額を下回っているという理由のみでそれを採用することは出来ない。

上記の納税者の主張に対しても裁判所は却下をします。

つまり、評価額が低いからという理由だけでは鑑定評価を採用することは出来ない、と言うことです。

ここで重要なのは、鑑定評価そのものに不備が無く客観的な評価であったとしても、その評価額が低いからという理由だけでは採用できないと判断している点です。

すなわち、鑑定評価による評価額は、その方法が正しいものであったとしても、それ以外の事情がなければ採用は難しいと言うことですね。

~以下原文より抜粋~


この裁判で重要視されたのは、鑑定評価額の正確さではなく、鑑定評価額を採用することの妥当性ということですね!

まとめ

今回は不動産鑑定評価を採用した申告がが否認された判例を紹介しました。

不動産の評価額はかなり複雑で、この判例とは逆に、評価通達による評価額が否認され、鑑定評価が採用された判例もあります。

個人的にはこの判例の場合、鑑定評価額が評価通達の評価額よりも低い金額であったために否認された面もあるかと思います。

したがって、鑑定評価を使って節税をしようと考えるのはリスクがあると認識しておきましょう。

また、鑑定評価額を採用する以外にも不動産を活用した対策はありますので、次の記事を参考にしていただければと思います!

(判決文等については、便宜上筆者が修正、省略している箇所がありますのでご了承ください。)

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