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円満相続税理士法人 税理士
学生時代に税理士試験の受験を始め、在学中に4科目取得し群馬県の会計事務所に就職。売上規模数十億円の企業の法人税、相続税を担当しつつ25歳の時に税理士試験合格。
生産緑地にも、相続税の納税猶予の制度があるけど内容が複雑…
自分で農業が出来ないけど、納税猶予が使えるって本当?
皆さんこんにちは。
大宮円満相続税理士法人、代表税理士の加藤です。
都市部の農地を相続するとき、その評価額は非常に高額になるケースが多いです。
これは都市部の農地が、農地ではなく宅地として評価をすることが基本になるからで、生産緑地も例外ではありません。
「生産緑地については、次のブログをご覧ください。」
「生産緑地の相続税評価については、次のブログをご覧ください。」
相続人が生産緑地を相続した場合、評価額が高くなってしまうため、相続税も高額となり、納税資金の問題などが生じてしまいます。
そこで現実的な選択肢になるのが、
農地等に係る相続税の納税猶予(以下「農地等の納税猶予」)
となります。
一定の要件を満たすと相続した農地について、相続税の一部が猶予(実質繰延べ)され、最終的に免除されるルートもあります。
しかし、この制度については、農地法などの各種法律とも深く関係しており、理解をすることが非常に難しい部分があります。
また、生産緑地ならではの論点もあり、さらに複雑となっています。
そこで今回は、一般の「農地」に対する納税猶予の解説ではなく、生産緑地に論点に絞って、制度の全体像・要件・手続・落とし穴・貸付の選択肢まで、できる限り分かりやすく、細かく解説します。
生産緑地を相続した方、実際に生産緑地をお持ちの方は、ぜひ参考にしてください。
農地等の納税猶予の概要
農地等についての相続税の納税猶予とは、相続によって農地を取得した場合、一定の要件を満たすことで、その農地に対応する相続税の納税が猶予される制度となります。
この制度は、相続税の負担によって農地が手放され、農業経営が継続できなくなることを防ぐ目的で設けられています。
後継者が農業を継続することを条件に、対象となる農地の評価額のうち一定部分に対応する相続税の納税が猶予され、将来的に要件を満たしたまま一定期間が経過すると、その税額が免除される仕組みです。
そのため、農業を廃止したり、農地を譲渡・転用した場合には、猶予されていた税額の一部または全部と利子税を納税する必要が生じる場合があります。
次から、それらの要件の詳細を解説していきます。

農地等の納税猶予の要件
ここからは、相続した農地が生産緑地であった場合に限定して、納税猶予について解説していきます。
農地等の相続税の納税猶予の要件は大きく
①農地の要件
②被相続人(亡くなった方)の要件
③相続人(後継者)の要件
の3つがありますので、この順序で適用要件を見ていきましょう。
①農地の要件
納税猶予の対象となる農地の要件となりますが、細かい論点はあるものの、以下のフロチャートで判定することができます。

上記フロチャートの通り、生産緑地であれば、農地等の相続税の納税猶予における「農地の要件」を満たすことになります。
また、生産緑地に指定されてから30年が経過した場合であっても、特定生産緑地として指定されているものも「農地の要件」を満たすことになります。
そのため生産緑地は基本的に、どこに所在している農地であっても納税猶予の「農地の要件」は満たす、と考えて良いかと思います。
~農地等とは?~
納税猶予の対象となる「農地等」とは、生産緑地が存在する市街化区域においては
・農地
・採草放牧地
のことを指します。
したがって、農作業場や畜舎などの敷地については、農地でも採草放牧地でも無いため、納税猶予の対象にはなりません。
~農地の判定~
農地については、現に耕作されている土地のほか、耕作されていない土地であっても、その現状が耕作し得る状態にあって、通常であれば耕作されていると認められる土地も含まれます。
逆に、家庭菜園などについては、実際に耕作されていたとしても、納税猶予の対象にはなりません。
また、農地であるか否かについては「現況」で判断をする必要があります。
登記上や固定資産税の地目が「田畑」であったとしても、現況が田畑で無い場合(上に建物が建っていたり、耕作が不可能なほど荒れている等)には対象外となるので注意しましょう。
②被相続人の要件
次は、被相続人(お亡くなりになった方)の要件です。
農地等の納税猶予については、亡くなった方が誰でも適用できる制度では無いので、ここも注意してみていきましょう。
~被相続人の要件~
生産緑地に相続税の納税猶予の適用を受けるには、被相続人が、次の「いずれか」の要件を満たしている必要があります。
・死亡の日まで農業を営んでいた
・死亡の日まで認定都市農地貸付、農園用地貸付を行っていた
・死亡の日まで営農困難時貸付を行っていた
・生前に贈与税の納税猶予を適用して農地等を一括贈与していた
・生前に一定要件を満たす経営移譲をしていた
※「特定貸付」は市街化区域外農地等に限定された制度なので、生産緑地には使用できません。
農地等の納税猶予の適用を受ける場合には、基本的に被相続人が死亡の日まで農業を営んでいる必要があります。
したがって、生前に農業を廃止していて、農地が荒れている場合などは適用が難しいこととなります。
しかしながら、被相続人が高齢になるにつれて、農業をしたくても出来ない、という状況も考えられます。
そのため、被相続人本人ではない人が農業を営んでいても納税猶予が適用できるような措置もあります。
特に生産緑地固有の制度として、
・認定都市農地貸付
・農園用地貸付
はぜひ覚えておきたいポイントなので後述します。
なお、被相続人が農業を辞めて、後継者が農業経営をしていた場合はどうでしょうか?
このときは、「被相続人が死亡の日まで農業を営んでいた」とは言えないので、原則的には納税猶予の適用が出来ないこととなります。
ただし被相続人が過去に相当の期間農業を営んでいて、次のような事情があり経営移譲しているときは、例外的に納税猶予の適用を受けることができます。
・被相続人が老齢又は病弱のため,生前において,その者と住居及び生計を一にする親族並びにその者が行っていた耕作又は養畜の事業に従事していたその他の二親等内の親族に農業経営を移譲していたこと。
・被相続人が特例付加年金又は経営移譲年金の支給を受けるため,相続開始の日前に,その者の親族に農業経営を移譲していたこと。
実際に被相続人が農業を営んでいたか否かについては、農業委員会が証明することとなります。
したがって、農業委員会の証明を得られれば要件を満たす、と考えても良いでしょう!
③相続人の要件
農地の要件、被相続人の要件と来て、最後が相続人の要件となります。
~相続人の要件~
生産緑地に相続税の納税猶予の適用を受けるには、被相続人の相続人であり、かつ、次の「いずれか」の要件を満たしている必要があります。
・相続税の申告期限までに農業経営を開始し、その後も引き続き農業経営を行うと認められる者
・相続税の申告期限までに、認定都市農地貸付もしくは農園用地貸付を行った者
・被相続人の生前に農地等の一括贈与の特例を受けた受贈者で、特例付加年金又は経営移譲年金の支給を受けるため、その受贈者の推定相続人に農業経営を移譲した、その受贈者
・被相続人の相続税の申告書の提出期限前に、その申告書を提出しないで死亡した者から、農地等を相続した相続人で、2次相続の相続税申告期限までに農業経営を開始し、その後も引き続き農業経営を行うと認められる者
農地等の相続税の納税猶予の適用を受ける場合、その後継者は被相続人の「相続人」である必要があります。
したがって、相続人でない人や、相続を放棄した人については、適用が受けられないので注意しましょう。
また、上記の要件に該当することについて、農業委員会で証明を受けることも必要になります。
被相続人の要件でもそうでしたが、基本的に農業委員会で証明を受けることができれば、納税猶予の適用要件を満たす、ということになります。
~〈参考例〉農地等の相続税の納税猶予に関する適格者証明書~
埼玉県さいたま市農業委員会

納税猶予額の計算方法
ここからは、実際の納税猶予額の計算方法について見ていきましょう。
農地等の納税猶予額を計算する大まかな流れは、次のようになります。
~納税猶予額の計算方法~
① 通常の計算で相続税を算出する
② 対象農地の評価額を農業投資価格として相続税を算出する
③ ①と②の差額が納税猶予額となる
農業投資価格とは?
農業投資価格とは、農地等が恒久的に農業の用に供される土地として自由な取引がされるとした場合に、通常成立すると認められる価格で、毎年国税庁から発表されます。
参考として、令和7年における埼玉県の農業投資価格は、次のようになっています。

上記の「10アール」という単位が分かりづらいですが、
1アール=100㎡
となりますので、10アールは1,000㎡ということになります。
田んぼの場合、表の評価額は10アールあたり840「千円」となりますが、より分かりやすく言えば、
1㎡あたり840円
と、かなり低い評価額となります。
例えば路線価が1㎡あたり150,000円の田んぼ(面積1,000㎡)があった場合、通常の評価額は150,000円×1,000㎡=1億5千万円となります。
これを農業投資価格で計算すると、840円×1,000㎡=84万円となります。
本来であれば1億5千万円で評価する田んぼが、84万円での評価になるので、相続税に与えるインパクトは非常に大きいことが分かります。
特に生産緑地の場合には、相続税評価額が高額になりやすいので、農地等の納税猶予のメリットは決して無視できないものとなるでしょう。
納税猶予額の具体例
〇前提
・相続人
長男(納税猶予適用者)、次男
・財産
対象農地1億円、その他の財産2億円
・対象農地の農業投資価格→100万円
・遺産分割
長男→対象農地+その他の財産5千万円
次男→その他の財産1億5千万円

まず、通常の相続税を算出します。
財産合計額は3億円となり、それに対する相続税は「6,920万円(A)」となります。
次に、対象農地を農業投資価格100万円として、相続税を算出します。
財産合計額は2億100万円となり、それに対する相続税は「3,370万円(B)」となります。
この時点で納税猶予額が以下のように計算できます。
〈納税猶予額〉
6,920万円(A)―3,370万円(B)=3,550万円(C)
また、長男と次男、各々の納税額は次のように計算します。
〈長男の納税額〉
①:3,370万円(B)×5,100万円/2億100万円=8,425,000円
(※)
5,100万円→対象農地を農業投資価格とした場合の長男が相続した財産額
2億100万円→対象農地を農業投資価格とした場合の財産合計額
相続税額の案分は小数点第2位未満調整をしている(以下同じ)
②:3,550万円(C)
③:①+②=43,925,000円(長男の相続税額)
④:③―3,550万円(納税猶予額)=8,425,000円(長男の納税額)
〈次男の納税額〉
①:3,370万円(B)×1億5千万円/2億100万円=25,275,000円
(※)
1億5千万円→次男が相続した財産額
ちなみに、農地等の納税猶予を適用すると、適用していない相続人(具体例では次男)の相続税の負担も、間接的に下がるという効果があります。
(仮に長男が農地等の納税猶予を適用していなかった場合、次男の相続税は3,460万円になります。)
納税猶予が免除となる場合
農地等の納税猶予については、その名の通り、あくまでも納税が「猶予」されているだけとなります。
しかしながら、次のような事情がある場合には、納税猶予額が「免除」されます。
~生産緑地の納税猶予額が免除される場合~
・農業相続人が死亡した場合
・農業相続人が対象農地の全部を後継者に一括贈与した場合
一点、三大都市圏特定市以外の市街化区域内農地等については、上記の他に
・相続税申告書の提出期限の翌日から20年経過した場合
についても、納税猶予額が免除されます。
ただしここで注意が必要で、生産緑地については「20年で免除」という方法は認められていないため、終身営農(農業相続人が亡くなるまで)が基本となります。
納税猶予期限の確定
農地等の納税猶予により納税が猶予されていた場合であっても、次のようなときは、その猶予額の一部または全部(+利子税)を納税する必要が生じます。
このことを「納税猶予期限の確定」と言います。
~猶予期限の確定事由~
〇猶予額の全部が確定する場合
・対象農地の合計面積の「20%」を超える面積を、譲渡、貸付、転用、耕作放棄等した場合
・農業相続人が農業経営を廃止した場合
・3年ごとの継続届出書を提出しなかった場合
・農業相続人が担保の変更命令等に応じなかった場合
〇猶予額の一部が確定する場合
・対象農地の合計面積の「20%」以下の面積を、譲渡、貸付、転用、耕作放棄等した場合
・収用交換等により譲渡した場合
・生産緑地について買取の申出があった場合
・農用地区域内の農地等について、農地中間管理機構への譲渡、利用権設定等促進事業に基づき譲渡した場合(生産緑地には関係が無い)
・準農地を、相続税の申告期限後10年以内に開発して農地又は採草放牧地にしなかった場合(生産緑地には関係が無い)
なお、納税猶予額が確定した場合には、その該当日から2か月以内に相続税及び利子税を納税する必要があります。
生産緑地の営農困難時貸付
農業相続人が農業経営を廃止した場合、猶予期限が確定し、相続税と利子税を納税する必要があります。
ただし、農業相続人が障害や疾病(※)によって、農業を継続することが困難になる場合も考えられます。
このような時(営農困難時)に、その対象農地を第三者に貸し出すことにより、納税猶予を継続することが出来る制度が「営農困難時貸付」です。
※営農が困難な状態
・精神障害1級
・身体障害1級もしくは2級
・介護認定の要介護度5
・その他一定の事由
一定の事由については、次の資料の5ページを参考ください。
市街化区域「外」の農地等の場合、営農困難時貸付を行う前に「特定貸付」という制度を活用することができます。
特定貸付で第三者に農地を貸し付けた場合でも、納税猶予は継続することが可能です。
ただ、生産緑地は市街化区域「内」に存在する農地であるため、この特定貸付の制度を利用することができません。
したがって、もし障害・疾病等が生じた場合には、この営農困難時貸付を検討する必要があるのです。
また、この場合の農地を貸し付ける法的な根拠は農地法となります。
農業経営基盤強化促進法による貸付は市街化区域「外」の農地が対象となるので、生産緑地については基本的に農地法による貸付に限定されます。
農園用地貸付と認定都市農地貸付
これまで説明してきた通り、農地等の納税猶予を適用するためには、一定の場合を除いて、農地所有者が農業を行い続ける必要がありました。
しかしながら、
「父は農業をしていたけれど、相続人の自分には分からない。」
「農地を相続したけれど、遠方に住んでいて農業できない。」
という状況も考えられます。
このような時、生産緑地に「のみ」認められている特例的な措置があります。
それが「農園用地貸付」と「認定都市農地貸付」です。
この2つの貸付制度を活用すると、実際に自分では農業をしていない場合でも、農地等の納税猶予の適用が出来るようになります。
農園用地貸付
農園用地貸付を簡単に言うと、
「自身の農地を市民農園として貸し出す」
というものです。
市民は農地所有者から農地を借りて、そこで農業を行うこととなります。
この場合、通常であれば農地所有者が農業を行っていないため、農地等の納税猶予を適用することは出来ないのですが、一定の要件を満たした場合には、生産緑地に限り適用が可能となります。
要件は主に
・貸し付ける農地の要件
・貸し付ける方法
の2種類があります。
~貸付農地の要件~
次のすべての要件を満たしている必要があります。
①:各利用者への貸付面積が10アール(1,000㎡)未満であること
②:市民農園の利用者が複数人であること
③:利用者への貸付期間が5年以内であること
④:利用者が営利目的で農地を借りないこと
~貸付方法の要件~
次のいずれかの方法によって貸し出す必要があります。
①:農地所有者自らが市民に貸し出す
②:農地所有者が、地方公共団体や農業協同組合に農地を貸し付け、その地方公共団体や農業協同組合が市民に貸し出す
③:農地所有者が、農業委員会の承認を受けた一般企業やNPO法人に農地を貸し付け、その企業が市民に貸し出す
ここで①と②の貸付方法を「特定農地貸付(※)」といい、③の貸付方法を「特定都市農地貸付」と言い、その2つの貸付方法を総称して「農園用地貸付」と呼びます。
(※)正確には特定農地貸付の一部
農園用地貸付を行う事により、農業を実際に行う人は市民の方々になるため、農地所有者が農業をしなくても良いことになります。
認定都市農地貸付
認定都市農地貸付は、自身の所有する農地を、他の都市農業者へ貸し付ける方法です。
農園用地貸付との違いは、借りる人が市民ではなく、実際に農業をしている人という部分です。
認定都市農地貸付を行う場合には、借主が事業計画などを作成し、市区町村の認定を受ける必要があります。
また、農地の借主は個人のみでなく、法人であっても、認定都市農地貸付を行う事ができます。
通常の農地の貸借は、農地法によって手続きが行われます。
しかし、農地法による貸借の場合、耕作放棄などの一定の事由が無い限り、貸主は契約更新を拒否することが出来ないなど、借主の権利が非常に強くなってしまいます。
このため農地を貸すことに一定の壁があったのですが、認定都市農地貸付の場合には、あらかじめ契約期間を設定することになりますので、その期間が経過すれば農地は必ず戻ってくることになります。
そのため、従来の農地法よりも、安心して農地を貸し付けることが可能となっているのです。
まとめ
生産緑地は評価額が高額になりやすく、相続税の負担も大きくなってしまいます。
こうした事情を解決できる制度が、農地等の相続税の納税猶予です。
要件を満たせば、農業投資価格を超える部分に対応する相続税の納付が猶予され、将来的に免除される可能性もあります。
ただし、生産緑地の場合は
・相続人が営農できるか?
・貸付けの特例を使うか?
・宅地転用をして活用した方がよいか?
といった点で、一般の農地より判断が複雑になります。
「生産緑地だから、とりあえず使っておく」
「相続税の話だけ考えればいい」
と考えるのは危険です。
生産緑地の相続対策では、
・相続税の納税猶予
・固定資産税
・将来の土地の使い方
をセットで考えることが不可欠です。
相続が発生してから検討するのではなく、できれば生前の段階で制度の使いどころを整理しておくことで、選択肢は大きく広がります。
生産緑地の相続で迷ったときは、「今、この土地は何ができて、将来どうしたいのか」を軸に、専門家と一緒に制度を当てはめて考えることをおすすめします。
当事務所では、相続税を専門とする税理士として、生産緑地の相続税評価の試算から、納税猶予・将来設計まで含めたご相談を承っていますので、お気軽にお問い合わせください。
最後までご覧いただき誠にありがとうございました!
※本記事は一般的な制度解説であり、個別事情(農地の区分、自治体の指定状況、相続人の営農実態、貸付けスキーム、申告書類、期限管理等)により結論が変わります。
実際の適用可否は、国税庁・自治体・農業委員会の確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。
また、制度は改正されることがありますのでご注意ください(本記事は2026年1月時点の公開情報をもとに整理しています)。













