故人が遺言をしなかった場合、相続人が遺産分割協議をして、遺産をどのように分割するかを決める必要があります。
遺産分割協議が成立するには相続人全員の同意が必要なので、遺産をめぐって相続人の間に争いが生じた場合は、遺産を分割することができません。
そんな時は、家庭裁判所に申し立てをして遺産分割調停をすれば、公正中立な第三者の介入によって、遺産分割を円滑に進められる可能性があります。 そこで今回は、遺産分割調停がどのような手続きかや、必要書類や手続きの流れなどを解説します。
円満相続税理士法人 代表税理士
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- 遺産分割調停とは
- 遺産分割調停は調停委員会が仲裁役になる
- 遺産分割調停を活用できるケース
- 遺産分割調停のメリット
- 遺産分割調停のデメリット
- 遺産分割調停の申立人と相手方
- 遺産分割調停の費用と必要書類
- 遺産分割調停の手続きの流れ
- まとめ
遺産分割調停とは
故人の遺産について遺言がある場合、原則として遺言の内容に従って遺産を分割します。
遺言がない場合は、相続人が遺産分割協議をして、遺産をどう分割するかを決めます。
ところが、遺産分割協議が成立するには相続人全員の同意が必要なので、相続人のうち1人でも反対すれば、遺産分割協議は成立しません。
遺産分割調停とは、遺産分割協議が成立しない場合に家庭裁判所に申し立てをして、相続人同士で話し合いの場を持つ手続きです。
遺産分割調停は調停委員会が仲裁役になる
遺産分割調停の特徴は、家事審判官(家庭裁判所の裁判官が務めます)と調停委員2名によって組織される調停委員会が、当事者の仲裁役になることです。
調停委員は民間から選出された非常勤の職員で、紛争の解決に有効な専門知識や社会経験を有する人(地域の弁護士など)が選ばれます。
調停委員会は中立的な立場に基づいて当事者双方の言い分を聞き、必要に応じて調整をしたり、解決策を提案したりなどして、争いを円満に解決することを目指します。
遺産分割調停を活用できるケース
遺産分割調停を活用できるのは、遺産分割協議をしても話し合いがまとまらない場合です。
具体的には、以下のようなケースで遺産分割協議を活用できます。
・相続人同士の対立が激しすぎて、遺産分割協議を繰り返してもまとまらない場合
・自分の主張を絶対に曲げず、他人の意見を聞き入れない相続人がいる場合
・いくら連絡をしても遺産分割協議に参加しない相続人がいる場合
遺産分割協議が成立するには、相続人全員が合意しなければなりません。
相続人同士が対立して互いに譲らない場合や、他の相続人が合意しても1人だけ強固に反対する相続人がいる場合などは、相続人全員の合意が取れないので、遺産分割協議は成立しません。
また、遺産分割協議に参加しない相続人がいる場合は、そもそもその相続人の同意を得られないので、同じく遺産分割協議が成立しません。
上記のような場合には遺産分割調停を申し立てることで、事態を改善できる可能性があります。
遺産分割調停のメリット
遺産分割調停を利用する場合に、どのようなメリットがあるかを解説します。
他人に秘密が漏れない
遺産分割調停のメリットは、遺産分割をめぐって相続人同士にどのような争いかあるかなど、他人に知られたくない事柄を秘密にできることです。
裁判は公開の法廷で行われるので、遺産分割をめぐってどのような争いがあるかなど、ある程度のことを他人に知られてしまう可能性があります。
遺産分割調停が行われるのは公開の法定ではなく、プライバシーに配慮された密室の部屋なので、他人に秘密が漏れずに手続きができるのがメリットです。
中立公正な第三者がいる
遺産分割調停のメリットは、当事者以外に中立公正な第三者がいることです。
当事者同士で話し合いをすると、どうしても感情的になってしまいがちです。特に、当事者同士の仲が悪い場合は、顔を合わせる度に喧嘩になることも少なくありません。
相手の提案自体には問題がなくとも、相手の言うとおりにしたくないために、提案に合意しないケースもあるのです。
遺産分割調停においては、どちらの当事者にも肩入れしない中立公正な調停委員会がいるので、当事者同士だけではこじれがちなケースでも、スムーズにまとまりやすくなります。
相手に直接提案された場合は納得できない場合でも、第三者の調停委員によって提案されれば、当事者が納得して合意が成立することもあるのです。
遺産分割調停のデメリット
遺産分割調停にどのようなデメリットがあるかを解説します。
遺産分割調停は時間がかかりがち
遺産分割調停のデメリットは、手続きが終わるまでに時間がかかりがちなことです。
調停は一般に1ヶ月に1回のペースで行われますが、話し合いがまとまるまでに通常4〜5回ほど行われるので、調停の結果がでるまでに少なくとも半年程度は覚悟する必要があります。
完全に納得できるとは限らない
遺産分割調停のデメリットは、提案される内容に完全に納得できるとは限らないことです。
遺産分割調停は裁判で白黒をはっきりさせるのとは異なり、当事者全員が納得できるような解決を図るための手続きです。
言い換えると、当事者全員が合意できるように、一人一人がどこかで妥協する必要があるので、完全に納得できる内容を得るのは難しいということです。
遺産分割調停の申立人と相手方
遺産分割調停を申し立てる人を、申立人といいます。
遺産分割調停の申立人になれる人は以下の通りですが、共同相続人のうち何人かが申立人になるのが一般的です。
・共同相続人
遺産分割が成立していないために、故人の遺産を共有している状態にある複数の相続人のことです。
・包括受遺者
対象となる遺産を特定せずに、包括的な遺贈を受けた人のことです。
・相続分譲受人
相続人から相続分を譲り受けた人のことです。相続人に準ずる地位にあるので、調停の申立人になることができます。
遺産分割調停を成立させるには相続人全員が当事者になる必要があるので、申立人にならなかった他の相続人は、全員が調停の相手方になります。
たとえば、相続人として長男・次男・長女の3人がおり、長男が申立人になった場合は、次男と長女が相手方になります。
遺産分割調停の費用と必要書類
遺産分割調停の申し立てに必要な費用や書類について解説します。
遺産分割調停の費用
遺産分割調停の費用は、被相続人1人あたり1200円分の収入印紙と、連絡用の郵便切手代がかかります。
収入印紙は、遺産分割調停の申立書の右上の指定欄に貼付します。
・遺産分割調停の申立書と添付書類
遺産分割調停を申し立てるには、所定の申立書に必要事項を記載したうえで、当事者や遺産などの目録とともに提出します。
・遺産分割調停申立書
遺産分割調停の申し立ての申請用紙です。
申立人の記名押印・故人の氏名や死亡年月日・申し立ての趣旨・申し立ての理由などを記入します。
・当事者目録
調停の申立人と相手方の情報を記入する用紙です。
申立人や相手方の住所・氏名・生年月日・故人との間柄などを記入します。
・土地遺産目録
故人の遺産のうち土地についての情報を記入する用紙です。
土地の所在・地番・地目・地積などを記入します。
・建物遺産目録
故人の遺産のうち建物についての情報を記入する用紙です。
建物の所在・家屋番号・種類・構造・床面積などを記入します。
・現金、預貯金、株式等遺産目録
故人の遺産のうち預貯金や株式など、不動産以外の遺産の情報を記入する用紙です。
遺産の品目・単位・金額(数量)などを記入します。
申し立てが受理されると、申し立ての内容を知らせるために、各目録のコピーが調停の相手方に送付されます。
遺産分割調停の必要書類
遺産分割調停を申し立てるには、申立書や添付書類以外にも、戸籍謄本などの書類が必要です。
一般的な必要書類として、以下のものがあります。
・故人の出生から死亡までの全ての戸籍謄本(除籍、改製原戸籍などの場合あり)
故人の相続人として誰がいるか(判明していない隠し子などがいないか)を把握するために、出生から死亡までの全ての戸籍謄本が必要です。
・相続人全員の戸籍謄本
相続人の身分関係を把握するために、相続人全員の戸籍謄本が必要です。
・相続人全員の住民票または戸籍の附票
相続人全員の住所地や家族関係を把握するための書類です。
・遺産に関する証明書
預貯金や不動産など、どのような遺産があるかを客観的に把握するための書類です。
不動産登記事項証明書・固定資産評価証明書・残高証明書・有価証券の写しなどがあります。
その他、相続の内容によっては、死亡した相続人の出生から死亡までの戸籍謄本など、上記以外の書類が必要になる場合があります。
遺産分割調停の手続きの流れ
遺産分割調停の手続きがどのような流れで進んでいくかを解説します。
申し立てが受理されたら調停期日に出頭する
遺産分割調停の申し立ては、相手方のうち1人の住所地を管轄する家庭裁判所か、当事者が合意して定めた家庭裁判所に行います。
申し立てが受理されたら、当事者は指定された調停期日に裁判所に出頭します。
調停は調停委員会(裁判官1名と調停委員2名で構成され、調停委員は通常は男女のペアです)によって行われますが、裁判官は多忙のため調停に参加しない場合もあるので、通常は調停委員によって進行します。
調停は調停室という部屋で行われ、調停委員が当事者それぞれの意見や主張を聞いて争点を整理します。
遺産分割調停における主な争点は以下のとおりです。
・誰が相続人なのか、相続人の範囲を確定する
・どのような遺産があるか、遺産の範囲を確定する
・遺産の価値を評価する
・遺産分割に影響のある、特別受益や寄与分を確定する
・遺産の分割方法を確定する
解決に至るまで期日が繰り返される
調停は一回だけで終わることはほとんどなく、解決に至るまで複数回の期日が行われます。期日のペースは一般に1ヶ月に1度です。
期日の中で提案された内容に当事者全員が納得して合意すれば、その時点で調停の期日は終了します。
期日を重ねることで当事者が合意に至ることを目指しますが、当事者の欠席が続いたり、平行線の話し合いが続いたりなど、調停による解決が困難であると調停委員会が判断した場合は、途中で不成立とされることもあります。
遺産分割調停が成立した場合
調停で提案された内容に当事者の全員が合意した場合は、遺産分割調停が成立します。
遺産分割調停が成立すると、当事者の合意の内容を証明する書類である調停調書が作成されます。
調停成立後は、当事者は調停調書の内容に従って必要な手続きを済ませなければなりません。
遺産分割が成立していない場合は、遺産である預貯金の解約や不動産の名義変更などができませんが、調停調書があれば解約や名義変更が可能になります。
また、調停調書は裁判の確定判決と同様の効力があるので、調停調書の内容に従わない相続人がいる場合は強制執行が可能です。
遺産分割調停が成立しなかった場合
当事者が合意に至らず、遺産分割調停が成立しなかった場合は、自動的に遺産分割審判の手続きに移行します。
遺産分割審判では、裁判官が一切の事情を考慮して、遺産分割の方法を決定します。
遺産分割審判について詳しく知りたい場合は、こちらの記事をご覧ください。
まとめ
相続人による遺産分割協議が成立しない場合は、家庭裁判所に申し立てをして、遺産分割調停をする方法があります。
遺産分割調停は公正中立な調停委員のもとで当事者が話し合いをして、妥当な遺産分割の方法を探る手続きです。
遺産分割調停が成立した場合は、裁判の確定判決と同様の効力があるので、従わない相続人がいる場合は強制執行も可能です。
遺産分割調停が成立しなかった場合は、自動的に審判に移行するので、紛争を早期に解決するためには、なるべく調停の段階で合意を成立させることが重要です。