不当利得返還請求

故人の預金は相続財産なので、遺言や遺産分割協議によって誰が相続するかを決めるのが通常です。

しかし、故人の世話をしていた相続人などが、故人の預金を勝手に引き出して使い込みをしてしまう場合があります。

使い込みをされると、他の相続人にとっては、自分が相続するはずのお金が減ってしまう可能性が高いです。

使い込みをされたお金をなんとかして取り返したい

と思うことでしょう。

そこで今回は、故人の預金などを使い込みされた場合の対処法として、不当利得返還請求という方法をご紹介します。

不当利得返還請求とは

不当利得返還請求とは、不当利得を得た者に対して、その不当利得を返還するように請求することです(民法703条)。

不当利得返還請求をする権利のことを、不当利得返還請求権といいます。

不当利得とは、法律上受け取る権利がないにもかかわらず、他人の財産や労務によって受けた利益のことです。

たとえば、被相続人の許可がないにもかかわらず、被相続人の子が被相続人の預貯金100万円を勝手に引き出して、自分の買い物に使ってしまったとしましょう。

預貯金を引き出して自分のために使っていいという許可を得ていないので、被相続人の子には、100万円を受け取るべき法的な権利がありません。

また、被相続人の預貯金から引き出した100万円は、被相続人の子にとっては他人(被相続人)の財産なので、他人の財産によって利益を受けているといえます。

法律上受け取る権利がないにもかかわらず、他人の財務によって利益を受けていることから、被相続人の財産の使い込みは一般に不当利得にあたります。

財産の使い込みが不当利得にあたる場合は、使い込みをした人に対して不当利得返還請求をすることで、使い込みをした金銭を返還するように請求できるのです。

不当利得返還請求の対象になる行為

相続に関連する行為のうち、一般に不当利得返還請求ができる可能性が高いものとして、以下の行為があります。

故人の預金を生前に使い込む

故人の生存中に預金を勝手に使い込んでいたケースです。

本人の判断能力が十分であれば、本人名義の預金を他人が使い込むのは簡単ではありません。

しかし、認知症などによって本人の判断能力が低下した場合に、本人の子などが預金を管理するケースは少なくないのです。

本人のためにきちんと管理していれば問題はありませんが、買い物の資金が足りなかったり、借金を返済したりなどの理由で、預金を勝手に使い込んでしまう場合があります。

故人の預金を死後に使い込む

故人が亡くなった後に、相続人などが故人の名義の預金を使い込んでしまうケースです。

たとえば、故人と同居していた相続人が故人の預金通帳を勝手に使用し、預金を引き出して自分のために消費してしまうなどです。

故人の預金は相続財産(相続の対象となる財産)なので、相続人が遺言によって指定していない場合は、遺産分割協議によって誰が相続するかを決める必要があります。

遺言や遺産分割協議によって預金をきちんと相続していないにもかかわらず、通帳が手元にあるのをいいことに、相続人の1人が預金を勝手に使い込んでしまう場合があるのです。

賃料収入を勝手に受け取る

故人が生前にアパートや駐車場などの賃貸物件を保有していた場合、賃貸に出していればそこから賃料が発生します。

故人が亡くなって相続が発生すると、アパートや駐車場などの賃貸物件を誰が相続するかを決めなければなりません。

ところが、相続人の1人が賃借人から賃料を勝手に受け取って、自分のものにしてしまうケースがあるのです。

相続人の1人が故人の賃貸物件から生じる賃料を勝手に自分のものにした場合、一般に不当利得返還請求の対象になります。

注意点として、上記に該当すれば必ず不当利得返還請求が認められるわけではありません。

不当利得返還請求が認められるかは、それぞれのケースの詳しい状況や、不当利得を立証するような証拠があるかなど、様々な要素が絡んできます。

いずれにせよ、上記に該当する場合は不当利得返還請求できる可能性があるので、法律の専門家に詳しく相談するのがおすすめです。

不当利得返還請求できる範囲

故人の財産の使い込みがあったとしても、使い込まれた金額の全額に対して不当利得返還請求できるとは限りません。

不当利得返還請求できるのは、自分の法定相続分が侵害された限度に限られるからです。

法定相続分とは、民法が規定する相続分の割合です。

たとえば、被相続人である夫が亡くなって、妻と子が相続人になるケースの場合、妻と子の法定相続分はそれぞれ1/2ずつです。

仮に被相続人の財産が1000万円であるとすると、相続人である妻と子の法定相続分は、それぞれ500万円ずつになります。

上記のケースにおいて、子が被相続人の1000万円の預貯金を勝手に引き出して、使い込みをしたとします。

妻が子に対して不当利得返還請求をする場合、使い込みをした1000万円全額を返還請求できるわけではありません。

不当利得返還請求できるのは、妻の法定相続分である500万円が限度になります。

不当利得返還請求をするための証拠

不当利得返還請求をするには、請求が正当であることを立証できるような証拠があることが重要です。

裁判を起こして不当利得返還請求をする場合は、証拠の存在は特に重要になります。

相手が使い込みをしたことをいくら主張したとしても、使い込みがあったことを客観的に証明できるような証拠がなければ、裁判官は使い込みの事実を認定できないからです。

民事裁判においては、「相手が使い込みをした」という事実については、不当利得返還請求をする側が立証しなければなりません

不当利得返還請求をされた相手(使い込みをした側)は、「自分が使い込みをしていない」ことを立証する必要はないのです。

また、裁判ではなく相手と直接交渉したり、遺産分割協議の中で不当利得を主張したりする場合も、不当利得を証明する証拠があることが重要です。

具体的な証拠がなければ、

使い込みなどしていない。使い込みをしたというならきちんと証拠を出せ

と突っぱねられてしまう可能性が高いからです。

不当利得を立証するのに一般に役立つ証拠としては、以下のものがあります。

預金通帳・取引明細書

引き出された金額や日時などを証明するものです。

銀行の取引履歴・払戻請求書

預金が引き出されたことや、払戻しの際に誰が手続きをしたかなどの証拠になります。

故人の医療記録・介護記録

故人の判断能力(重度の認知症であったなど)の証拠になります。

引き出した預金で支払った領収書

引き出された金額と領収書の金額が異なる場合、差額を着服した可能性が伺えます。

不当利得返還請求は時効がある

不当利得返還請求権には時効があるため、時効を過ぎると原則として請求ができなくなってしまいます。

時効を過ぎるとせっかくの権利が行使できなくなってしまうので、いつ時効が到来するかを把握することは非常に重要です。

不当利得返還請求権の時効は、以下のうちどちらか早いほうが適用されます(2020年4月1日以降に発生した請求権について)。

権利を行使できることを知ったときから5年

権利を行使できるときから10年

遺産の使い込みに対して不当利得返還請求をする場合、上記の規定は以下のように読み替えることができます。

遺産の使い込みがあったことを知ったときから5年

遺産の使い込みがあったときから10年

上記について、それぞれのパターンを見ていきましょう。

遺産の使い込みがあったことを知った時から5年経過

たとえば、2010年4月に遺産の使い込みが行われたとすると、遺産の使い込みがあったときから10年が経過するのは、2020年4月です。

もし、遺産の使い込みがあったことを知ったのが2014年4月の場合、遺産の使い込みがあったことを知ったときから5年が経過するのは、2019年4月です。

2020年4月と2019年4月を比べると、2019年4月の方が早いです。

よってこのパターンにおいては、遺産の使い込みがあったことを知ってから5年が経過した場合に、不当利得返還請求権の時効が到来します。

遺産の使い込みがあったときから10年が経過

先程と同様に、2010年4月に遺産の使い込みが行われたとすると、遺産の使い込みがあったときから10年が経過するのは、2020年4月になります。

もし、遺産の使い込みがあったことを知ったのが2016年4月の場合、遺産の使い込みがあったことを知ったときから5年が経過するのは、2021年4月の時点です。

2020年4月と2021年4月を比べると、2020年4月の方が早いです。

よってこのパターンでは、遺産の使い込みがあったときから10年が経過した場合に、不当利得返還請求権の時効が到来します。

時効が経過してしまうと、原則として(相手が時効を援用しない場合を除いて)不当利得返還請求ができなくなってしまうので、時効が到来する前に必ず請求しましょう。

不当利得返還請求をする方法

遺産の使い込みなど不当利得に該当する行為をした相手に対しては、不当利得返還請求をして返還を求めることができます。

返還請求というと、裁判を起こして法廷で返還請求することをイメージするかもしれません。

たしかに、相手が請求に応じない場合は最終的に裁判を起こして不当利得返還請求をする場合もあります。

しかし、相手が請求に応じるのであれば、請求する方法は必ずしも裁判だけではありません。

相手と直接交渉して、不当利得を返還するように請求することも可能です。相手が請求に応じるのであれば、裁判を起こす費用や負担がかからないメリットがあります。

ただし、相手が交渉に応じるとは限りませんし、被相続人のために使っただけなど、様々な言い訳をされる可能性があるので、使い込みを証明できる確かな証拠を集めることが重要です。

相手が交渉に応じない場合は、裁判所に訴訟を提起して、民事裁判として不当利得返還請求を行う方法を検討しましょう。

裁判を起こす場合は、弁護士に依頼する費用も生じるので、不当利得返還請求が裁判所に認められる可能性も含めて、まずは専門家に相談するのがおすすめです。

まとめ

故人のお金を使い込まれた場合は、不当利得返還請求をする方法があります。

不当利得返還請求が認められると、自分の法定相続分に相当する金額の限度で、相手に金銭を返還することを請求できます。

不当利得返還請求をするには、相手が使い込みをした事実を客観的に証明できるような証拠を集めることが重要です。

不当利得返還請求をするには裁判を起こすだけでなく、相手が請求に応じるのであれば、直接交渉して請求する方法もあります。

不当利得返還請求には時効があり、相手が時効を援用すると請求できなくなってしまうので、必ず時効が経過する前に請求するようにしましょう。

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