遺産をどのように分割するかを決めるための裁判所の手続きとして、遺産分割調停と遺産分割審判があります。
遺産分割調停は調停委員という第三者を交えて当事者が話し合いをして、遺産の分割方法を決めます。
一方、遺産分割審判は当事者が話し合いをするのではなく、裁判官の判断によって遺産の分割方法が決まります。
今回は、遺産分割審判がどのような手続きかを解説します。
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- 遺産分割審判とは
- 遺産分割審判の流れ
- 遺産分割審判が確定した場合の効果
- 審判に不服がある場合は即時抗告をする
- まとめ
遺産分割審判とは
遺産分割審判とは、故人の遺産をどのように分割するかについて、裁判官が決定する手続きです。
遺産分割協議や遺産分割調停は、当事者の話し合いによって遺産の分割方法を決めるのに対し、遺産分割調停は当事者の意思に関わらず、裁判官が分割方法を決めるのが特徴です。
遺産分割審判では、基本的には法定相続分(民法が定める相続の割合)に基づいて分割方法が決まりますが、特別受益や寄与分などがある場合はそれらも考慮されます。
遺産分割審判の流れ
遺産分割審判がどのような流れで進んでいくかを解説します。
遺産分割調停から遺産分割審判に移行する
遺産をどのように分割するかについて、相続人同士が話し合いをしてもまとまらない場合、家庭裁判所に申し立てをして遺産分割調停をすることができます。
遺産分割調停とは、公正中立な第三者である調停委員の進行や提案のもとで、当事者全員が納得できるような遺産分割の方法を探る手続きです。
遺産分割調停について詳しく知りたい場合は、こちらの記事をご覧ください。
遺産分割調停が成立するには、当事者全員の同意が必要です。当事者のうち一人で合意しない場合は、遺産分割調停は成立しません。
遺産分割調停が成立しなかった場合、手続きは自動的に遺産分割審判に移行するので、別途遺産分割審判について申し立てをする必要はありません。
つまり遺産分割審判とは、遺産分割調停が成立しなかった場合に行われる手続きなのです。
なお、制度上は遺産分割調停をせずにいきなり遺産分割審判を申し立てることも可能ですが、裁判所の職権により、まず遺産分割調停をするように指定されるのが一般的です。
1ヶ月に1度のペースで審判期日が開かれる
遺産分割審判が始まると、一般に1ヶ月に1度のペースで審判が開かれ、これを審判期日といいます。
審判期日は回数に制限がなく、裁判官が審理が尽くされたと判断するまで続きます。
審判が行われる期間は一般に9ヶ月〜1年程度ですが、当事者の対立が激しい場合など、ケースによっては2年以上かかることもあります。
審判期日になったら裁判所に出頭する
指定された期日になったら当事者が裁判所に出頭し、事実の主張や証拠の提出などを行います。
遺産分割調停では当事者同士が顔を合わせる場面はあまりないのに対し、遺産分割審判においては基本的に当事者が一堂に会して審理をします。
なお、遺産分割審判の手続きの最中でも和解は可能なので、状況によっては裁判官が積極的に和解を勧めてくることもあります。
和解が成立した場合、和解の内容に基づいて遺産を分割することになるので、遺産分割審判はそこで終了します。
審判期日が終了すると審判書が送付される
主張や証拠の提出が十分に尽くされたと裁判官が判断した場合、審判期日が終了し、最終的な審判が下されます。
審判は審判書という書類によって行われるので、審判のために裁判所に行く必要はありません。
審判期日が終了すると、1〜2ヶ月ほどで審判の結果が記された審判書が送付されます。
遺産分割審判の審判書とは
審判書(遺産分割審判書)とは、遺産分割審判の内容が記載された書類です。
遺産分割審判が終了すると、審判でどのようなことが決定されたかが記載された審判書が当事者に送付されます。
審判書には事件番号・事件の当事者・主文・理由の要旨などが記載されています。
記載事項の中で最も重要なのは主文であり、故人の遺産をどのように分割するかが示されています。
たとえば、故人の遺産として不動産と預金がある場合に、「土地は長男が取得し、次男が貯金を取得する」旨が記載されるなどです。
審判書があれば、預金の払い戻しや相続登記などの手続きができるようになりますが、審判書は原本・正本・謄本の3種類があり、手続きによって必要な書類の種類が異なります。
・原本:審判が決まった際に裁判官が押印した書類であり、通常の手続きでは使用しない
・正本:原本に基づいて裁判所書記官などが作成した書類であり、正本と同一の法的効力を有する
・謄本:権限者による認証を受けた原本の複製
通常の手続きは謄本で足りますが、ケースによっては正本が必要になる場合もあります。
遺産分割審判が確定した場合の効果
遺産分割審判が確定した場合に、どのような効果があるかを解説します。
審判の内容通りに手続きをする
遺産分割審判が確定すると、審判で決められた内容の通りに遺産を分割したり、手続きをしたりしなければなりません。
たとえば、審判で長男が相続するとされた遺産は長男が相続しますし、次男が相続するとされたものは次男が相続します。
また、審判によって支払いや競売などが命じられた場合は、その内容に従って手続きが必要です。
審判は裁判の判決と同様の効力があるので、審判の内容に従わない相続人に対しては、強制執行ができます。
たとえば、審判によって支払いを命じられた相続人が支払いをしない場合は、強制執行によって財産を差し押さえることが可能です。
預貯金の払い戻しが可能になる
遺産分割審判が確定すると、故人名義の預貯金の払い戻しが可能になります。
故人が亡くなって相続が発生した場合、故人名義の預貯金の払い戻しを受けるには、原則として遺産分割が完了している必要があります。
遺産分割が完了していない場合も、故人名義の預貯金の払い戻しは可能ですが、上限額など一定の制限があります。
遺産分割審判が確定した場合は、金融機関に審判書を提出することで、制限なしで故人名義の預貯金の払い戻しを受けられるようになります。
単独で相続登記ができる
審判書に登記手続条項がある場合、単独で相続登記ができるようになります。
相続登記とは、故人が所有していた不動産の登記の名義を、不動産を取得した相続人の名義に変更する手続きです。
たとえば、故人が生前に居住していた土地と建物を長男が相続したので、それらの登記の名義を故人から長男に変更するなどです。
遺産分割が完了していない場合、故人の遺産である不動産は、法的には相続人が共有している状態にあります。
不動産の登記名義が故人のままである場合、その不動産を相続した相続人は、審判書があれば単独で名義変更の手続きができます。
しかし、不動産の登記名義が複数の相続人になっている場合は、原則としてそれらの相続人全員で登記の手続きをしなければなりません。
例外として、審判書に登記手続条項(登記の手続きをするように命じる文言)が記載されている場合は、単独で名義変更が可能です。
たとえば、長男と次男の共有名義になっている不動産について、「次男は長男に対して所有権移転登記の手続きをせよ」という趣旨の登記手続条項があるとしましょう。
登記手続条項で命じられている相続人は、条項の通りに登記の手続きをする意思があると見なされるので、長男は単独で相続登記の手続きができるようになります。
審判に不服がある場合は即時抗告をする
審判官が下した審判の内容に不服がある場合、即時抗告が可能です。
即時抗告の概要と期限
即時抗告とは、審判の内容に不服がある場合に、上級の裁判所(高等裁判所)に申し立てをして審理をしてもらう手続きです。民事裁判における控訴のようなものと言えるでしょう。
たとえば、遺産分割審判では寄与分(特別な功績を相続分に上乗せすること)が認められなかったので、寄与分を認めてほしい相続人が即時抗告をするなどです。
即時抗告をすると、遺産分割審判をした裁判官ではなく、上級の高等裁判所の裁判官によって再度審理されるので、審判では認められなかった内容が認められる可能性があります。
即時抗告には期限があるので、決められた期限内に即時抗告をしなければなりません。
遺産分割審判における即時抗告の期限は、審判の告知(審判書を受領すること)があってから2週間以内です。
即時抗告の手続きの流れ
即時抗告が受理されると、高等裁判所の裁判官によって、審判が妥当であったかが審理されます。
審理は基本的に家庭裁判所から送られた書面資料に基づいて行われますが、場合によっては当事者への質問などが行われることもあります。
即時抗告の審理が終わると、決定または棄却決定が行われます。
決定とは、家庭裁判所が行った審理を取り消して、高等裁判所が新しい内容を決定することです。
たとえば、家庭裁判所の審判では寄与分が認められなかったところ、決定によって寄与分が認められるなどです。
棄却決定とは、即時抗告を棄却することであり、家庭裁判所による審判に問題はなかったと判断された場合に行われます。
まとめ
遺産分割審判とは、故人の遺産をどのように分割するかを裁判官が決定する手続きです。
遺産分割調停が成立しなかった場合、自動的に遺産分割審判の手続きに移行します。
当事者の話し合いではなく、裁判官の判断によって遺産の分割方法が決まるのが特徴です。
遺産分割調停が成立して審理書が送付されると、故人の口座の払い戻しや相続登記などの手続きが可能になります。
遺産分割調停の内容に納得できない場合は即時抗告をして、上級の裁判所に判断してもらう方法があります。