【この記事の執筆者】
相続税の研究を愛する相続専門の税理士。23歳で税理士試験に合格し、国内最大手の税理士法人で6年間の修行を積んだのちに独立。円満相続税理士法人の代表を務める。
こんにちは。相続税専門の税理士の橘です。
遺言書を残すなら、必ず知っておかなければいけないルールがあります。そのルールの名前は、遺留分(いりゅうぶん)です。
現在、遺産相続をめぐる争いのほとんどは、この遺留分に纏わる争いと言っても過言ではありません。
遺留分という考え方を知らないまま、遺言書を作ったり、生前贈与を始めてしまうのは非常に危険です。後々に残された家族が泥沼の争いに突入してしまう可能性が非常に高くなります‼
今回は、この遺留分という制度を、イラストを使いながらわかりやすく解説していきたいと思います。
人が亡くなった場合には、その人の遺産は相続人が相続します。(誰が相続人になるかわからない人はこちらの記事を読んでください→相続人はだれ?)
相続人が複数いる場合には、誰がどの遺産をどれくらい相続するのかを決めなければいけませんが、遺産の分け方にはルールが存在します。
そのルールは、遺言書がある場合と、遺言書がない場合とで大きく異なります。まず、遺言書がある場合には、原則として、その遺言書の通りに遺産を分けていくことになります。
一方で、遺言書がない場合には、相続人全員での話し合いによって、遺産の分け方を決めていきます。
この話し合いのことを、遺産分割協議(いさんぶんかつきょうぎ)といいます。もし遺産分割協議に折り合いがつかない場合には、折り合いがつくまで永久に話し合わなければいけません。
話し合いでは決着がつかない場合には、家庭裁判所で裁判を行い、最終的に分け方を決めていきます。
では、ここで話は少し横道にそれますが、遺言書にまつわるちょっとした○×クイズを出します。
【問題】
とあるお父さんが遺言書を残してお亡くなりになりました。
残された家族全員で遺言書を見てみると、家族全員で同じことを感じました。
「お父さん。せっかく遺言書を残してくれたのはありがたいんだけど・・・。これ、もうちょっと違う分け方に変えることはできないかしら!」
ここで問題です。
相続人全員が同意した場合、遺言書に書かれた分け方を変更することができる。〇か×か
正解は・・・・
〇です。
相続人全員が同意をした場合、遺言書の内容は変更することが可能です。
これは別の記事で紹介しましたが、遺産の分け方次第で相続税は何千万と変わることがあります。亡くなった人のお気持ちだけで遺言書を作成してしまうと、残された家族に非常に重い相続税が課税されてしまうことがあるので、事前に相続税の観点からもチェックを入れていただくことをお勧めします。
↓財産の分け方についての記事はこちら
※夫婦間の相続は最低でも1億6千万円まで相続税がかからない配偶者の税額軽減とは
ここで重要な点は、相続人全員が同意をすれば内容を変更できるということは、裏を返すと、一人でも「私は遺言書の通りに遺産を分けたい」という人がいる場合には、遺言書の内容が優先されるということです。
やはり遺言書の効力って大きいですよね(遺言書について詳しく知りたい人は↓の記事をご覧くださいませ)。
遺言書には大きく2種類あります。自筆証書遺言と公正証書遺言です。自筆証書は簡単に作れますが、実際に相続が発生してから効力が無効になってしまうトラブルが非常によく起こっています。公正証書遺言は、作るのにお金と手間がかかります。その分、いざ相続が起きた時には非常に強い効力が発揮されます。その辺りを徹底解説しました!
それではここからが本題です。遺留分について、事例を使って解説していきたいと思います。
例えば、ここに夫、妻、子供2人のご家族がいたとします。
この度、夫に相続が発生してしまいました。
悲しみに暮れる中、ご主人の遺品を整理していると、金庫の中から遺言書がでてきました。
家族全員で、その遺言書を開けてみると、中にはとんでもない内容が書かれていました。
遺言書の中身には、なんと「私の遺産は全て愛人に残します」と書いてありました!
こういった遺言書があった場合、ご主人の財産は全て愛人のもとに渡ってしまうでしょうか?
渡ってしまったら困りますよね。
残された家族(特に奥様)は生活できなくなってしまいます。
そうなのです。こういったシチュエーションででてくるのが、遺留分なのです。
遺留分は一言でいうと、残された家族の生活を保障するために、最低限の金額は相続できる権利のことをいいます。
ここでのポイントは、あくまで遺留分は権利であるということです。もし、遺言書に「あなたに遺産はまったくあげません」と書かれていたとしても、当の本人が、「それでも構わないですよ」ということであれば、問題ありません。あくまで権利ですので、権利を行使するかどうかは本人の自由です。
しかし、「遺産がもらえないなんて困る!」という場合には、愛人に対して「遺留分までの遺産は返せ!」と言えば、愛人はその人たちに対して、遺産を返さなければいけないことになります。
続いて、遺留分は実際にどれくらいの金額が保障されているの解説していきます。
まずは、下の図をご覧ください。
今、ここに書いてある割合は、遺留分の割合ではありません。
法定相続分という割合を書いていきました。この法定相続分という割合は、遺産の分け方の目安として法律で定めているもので、「この通り分けなくてはいけませんよ」という割合ではありません。あくまで目安として設けられたものです。※詳しくは知りたい方はこちらの記事をご覧ください→法定相続分とはなんぞや?
では、遺留分はどのくらいかというと答えは次の通りです
ずばり法定相続分の半分です!
つまり、こちらの奥様は4分の1、子供達はそれぞれ8分の1ずつということになります。
相続が発生し、遺言書の中身を見てみたら、「私、4分の1もないじゃない!!!」「俺たち、8分の1もないぞ!!」(この状態のことを遺留分が侵害されているといいます)ということになれば、愛人に対して、その金額に達するまでの遺産を取り返すことができるというわけです。
実際にこのようなケースが発生した場合には、間に弁護士を入れることが一般的です。そしてその弁護士が話をまとめながら、遺留分に達するまでの遺産の受け渡しなどを行います。
また、この遺留分という最低保障されている権利には、有効期限が存在します。遺留分が侵害されていることを知った日から1年です。1年を過ぎてしまうと有効期限を過ぎてしまうため、遺留分の減殺請求ができなくなってしまうので、早めに手続きをするようにしましょう。
※法定相続人が父母だけの場合等には法定相続分の3分の1が遺留分の割合となります。
先ほどの事例では、「愛人に全ての遺産を渡しますよ」という非常に極端な事例を紹介しましたが、実際には、兄弟姉妹の間で遺留分の侵害が発生するケースが最も多いです。
例えば、不動産は全て長男、残りの遺産は長女に相続させようと遺言書を作った場合には、遺産の中に不動産が占める割合が大きければ、簡単に長女の遺留分を侵害してしまいます。
また、会社オーナーにおいても同じ問題が発生します。会社の株式は後継者である長男に、残り遺産は長女に残そうとすると、その会社の株式の評価額が大きければ、長女の遺留分を簡単に侵害してしまうのです。
また、これは見落としがちな論点ですが、遺留分の割合は相続が発生する順番によって変化します。
例えば、父が先に亡くなり、母が後に亡くなった場合。父が亡くなった時の子供の遺留分は8分の1ですよね。
しかし、母が先に亡くなり、父が後に亡くなった場合には、父が亡くなった時の子供の遺留分は4分の1になります。
遺留分の金額が2倍も変わるのです。
平均余命から考えると男性から先に亡くなる可能性が高いのですが、こればかりは誰にもわからないことです。遺留分の対策をするのであれば、あらゆる可能性を考えて対策をしなければいけないのです。
また、相続が発生する前に、どうしても遺産を相続させたくない相続人の遺留分を減らす方法が存在します。ご興味ある方は、どうぞ⇩
遺留分の減らし方
遺留分を合法的に減らす方法をご紹介します。実行の際は弁護士等に相談してくださいませ♪
遺留分の割合については、もうご理解いただけたかと思いますが、そもそも遺留分の計算をする時の、遺産の金額の考え方に注意が必要です。
この遺産の金額は、相続が発生した時の時価とされています。
ここで注意をしなければいけないのが、不動産の時価の考え方です。相続税を計算する際に使う不動産の評価額は、相続税評価額というものを採用します。一方で、遺留分を計算する際に使う不動産の評価額は、実際の売買価格を基準とします。
別の記事で詳しく解説しましたが、不動産の相続税評価額は、実際に売買される価格よりも低くつけられています。実際に1億円で売買されているような土地であれば、相続税評価額は8000万円前後になります。
相続税評価額は実際の売買価格の80%前後になるように設定されているのです。※詳しくはこちらの記事をご覧ください→土地の相続税評価額の計算方法
遺留分を計算する際には、相続税評価額ではなく、実際の売買価格を基準としますので、相続税評価額ベースでは遺留分を侵害していないくても、実際の売買価格ベースにすると遺留分を侵害しているケースもありますので、この点については特に要注意です!
例えば子供のいない夫婦がいたとします。もしこの夫が亡くなってしまった場合、相続人は誰になるでしょうか?
答えは、妻と、夫の姉や甥、姪が相続人となります。
もし遺言書がない場合には、この奥様とご主人の兄弟姉妹との間で遺産の取り分について話し合いをしなければいけません。
想像してみてください。
今この記事を読んでいるあなたの奥様ないし旦那様と、あなたの兄弟姉妹たちが話し合いをする姿を。
なかなか大変そうじゃないですか?
実際、このケースは凄く大変なんですよ。そもそもあまり付き合いがないケースがほとんどですから。特に甥や姪の代までいくと、ほぼ面識がない場合もあります。
このような事態を避けるために、このご主人が「私の遺産は全て妻に残します」という遺言書を残しておけばどうでしょうか?
姉や甥、姪からすれば「俺たちも相続人なんだから、遺留分くれー」と言いたくなるかもしれません。
しかし、ここでちょっと考えてほしいのです。
そもそも遺留分と言う制度は、どのような趣旨で創られたものでしょうか?
遺留分という制度は、亡くなった人の家族が、今後の生活に困らないようにするために、必要最低限の金額は相続できるようにするために創られた制度です。
それを踏まえて、もう一度考えていただきたいのですが、もし、このご主人の遺産が、姉や甥姪に渡らないと、この姉や甥姪は生活に困りますでしょうか?
困らないですよね。
なぜなら、一般的に、ある程度の年齢になれば、兄弟姉妹は別々の生活をはじめます。すでにそれぞれの生活の基盤ができているはずなのです。そのことから、兄弟姉妹の間で遺産が相続できなくても、その人たちは今後の生活に困らないと考えられています。
そのような趣旨から、兄弟姉妹(甥姪も)には遺留分がありません!
つまり最低保障されていないのです。
「兄弟姉妹には遺留分がない」ということは、相続対策をする上で非常に重要なポイントです。
子供のいない夫婦が「私の財産は全て妻(または夫)に残します」という遺言書を残した場合、兄弟姉妹たちは「私たちも相続人なのだから、少しは財産よこせー」とは言えないのです。遺留分ないですから。
つまり、遺留分を気にせず好きな遺言書を残すことができるのです。
これがもし遺言書がなかった場合には、相続人全員で話し合わないと遺産をわけることはできません。預金口座の名義変更すらままならなくなります。
子供のいない人にとっては、遺言書があるかないかで、残された人の労力は何百倍も変わりますので、今この記事を読んでいるあなたがそうでなくても、周りに子供のいない夫婦がいれば、是非ともこの記事をシェアしてあげてください。
争いを防ぐために遺言書を作るのですが、残念なことに、遺留分を侵害している遺言書を作ってしまえば、それが原因で争いに発展します。
また、遺留分は2019年7月に民法改正により、遺留分の精算は全て金銭で行うことが原則とされ、両者の合意があれば現物による精算もOKという形になりました。精算方法がシンプルにすることで争いを減らすことが目的だったのですが、この改正によって税金の取扱いは余計に複雑になってしまいました。改正の内容と税金の問題について解説しましたので、是非こちらの記事もご覧ください♪最後までお読みいただきありがとうございました(^^♪
遺留分の減らし方
遺留分を合法的に減らす方法をご紹介します。実行の際は弁護士等に相談してくださいませ♪
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