
こんにちは、税理士の枡塚です!

円満相続税理士法人 税理士
大学在学中に税理士を目指し、25歳で官報合格。大手税理士法人山田&パートナーズに入社し、年間30~40件の相続税申告に携わりました。丸6年間の実務経験を経て退社。地元関西に戻り、円満相続税理士法人に入社しました。現在も相続税申告を中心に業務に励んでいます!
日常の生活において、保安林という言葉を耳にする機会は少ないでしょう。
しかし、相続財産の中に山林が含まれており、その中に保安林があったというケースは少なくありません。
初めて目にする保安林という財産に戸惑い、さらにはどう財産として評価をすべきか、専門家でも悩むものです。
そこで、相続専門の税理士が、保安林の相続税評価額について徹底解説いたします!資料収集先や方法についてもしっかり解説をしていきます。
保安林とは?
農林水産省の外局の一つである林野庁(りんやちょう)では、保安林を次のように定義しています。
保安林とは、水源の涵養(かんよう:養い育てること)、土砂の崩壊その他の災害の防備、生活環境の保全・形成等、特定の公益目的を達成するため、農林水産大臣または都道府県知事によって指定された森林をいいます。その目的は17種類に及びます。
それぞれの目的に沿った森林の機能を確保するため、立木の伐採や土地の形質の変更等が規制されています。
保安林の配備は計画的に推進されており、令和5年度末で全国の森林の約49%が保安林に指定されています。
保安林に指定されると、保安林であることを表示するための看板や標柱が設置されます。

また、目的とする機能が発揮できなくなることのないよう、一定の制限を受けます。
たとえば、原則として、立木の伐採や土地の形質の変更、他用途への転用は禁止されています。
ただ、都道府県知事に事前に許可を受けることにより、保安林の機能に支障がない範囲であれば、それらの実施について許可を受けられます。
保安林のメリット
保安林には、メリットもあります。
固定資産税や不動産取得税、特別土地保有税は課税されません。
また、相続税や贈与税の財産評価においては、3~8割減されます。(後ほど詳しく解説します!)
また、通常の土地と同じように、保安林の管理は土地所有者が行うこととされていますが、
都道府県やボランティアなどに整備の協力をしてもらうことができます。さらに、植林や間伐など森林の整備を行う場合に補助金制度を活用できることもあります。
保安林かどうかを調べる方法
保安林かどうかを調べるには、登記事項証明書か保安林台帳を確認する方法があります。
登記事項証明書
保安林は、登記事項証明書の地目の欄に「保安林」と記載されています。

不動産の登記事項証明書は、法務局で入手が可能です。
ただし、土地の一部のみが保安林に指定されていることもあり、その場合には、登記事項証明書の地目は「山林」のままになっている可能性があります。
そのため、保安林台帳を入手して確認をすることをおすすめしています。
保安林台帳
保安林台帳は、地番ごとに管理されており、保安林の種類や、伐採の方法、伐採の限度などが詳細に記載されています。
保安林台帳は、保安林の所在地を所轄する都道府県の森林事務所や森林保全課などで、自由に閲覧することができます。
閲覧には次のものが必要ですが、都道府県によって必要なものが異なりますので、申請前に必ず、ホームページで確認をしましょう。
・登記情報などの土地の所在地がわかるもの
・公図などの図面
・県に備えつけのある閲覧申請書(HPで入手が可能な場合があります。閲覧申請前に確認しましょう)
一例として、東京都の申請書をご紹介します。

保安林の相続税評価額はどうなるの?
保安林の固定資産税は、地方税法第348条《固定資産税の非課税の範囲》の規定により、非課税とされています。そのため、相続税評価額も0円で良いのでは?と考えてしまいますが、そこまで優遇はしてもらえません。
先ほどご紹介した通り、一般的な山林の3~8割減の評価額となります。
〈算式〉山林の自用地価額-山林の自用地価額×控除割合=保安林である山林の相続税評価額
ここからは、自用地価額や控除割合の算出方法などを見ていきましょう。
倍率地域に所在する保安林
冒頭でもご紹介した通り、保安林は固定資産税が非課税であるため、固定資産税評価額が付されていません。
そのため、市区町村役場に問い合わせをして、周辺の1㎡あたりの山林の固定資産税評価額を比準に、その山林の自用地価額を算出します。
控除割合は区分によって決まっている
控除割合は、当該の保安林の伐採に関する区分に応じて、定められています。
これから登場する言葉は聞いたことのない言葉ばかりで、どのような制限なのか想像もできないものばかりです。

ご安心ください。制限の詳細についても、詳しく解説していきますので、控除割合と合わせてご確認ください。

伐採の区分を確認するには、都道府県の森林事務所や森林保全課に行きましょう。
土地の利用または立木の伐採について制限を受けている山林にかかわる根拠法令である《森林法その他の法令の範囲等》のどの区分に該当するのかを確認をします。
都道府県によっては、保安林台帳に記載されている場合もあります。
なお、《森林法その他の法令の範囲等》は、国税庁HPの財産評価基準書(路線価図や倍率表を確認できるページです)の『3.参考』内の『伐採制限等を受けている山林の評価』から確認をすることが可能です。
※一部抜粋

保安林の相続税評価額に関する
既に倍率等に伐採制限等が考慮されている場合
採用する評価倍率が、伐採制限等に応じた減価を既に考慮したものである場合には、二重減価となることから、当然、控除割合による減価を行うことはできませんので、注意が必要です。
周辺の山林の評価倍率と比較して、検討しましょう。
控除割合を個別に検討する必要がある場合
《森林その他の法令の範囲等》の中には、「個別」と記載されているものがあります。
この場合には、その地区内の山林を評価すべき事案が発生した都度、都道府県条例等で規定する伐採制限を個別に確認して、その伐採制限の内容に応じて控除割合を決定していくことになります。
伐採制限が重複する場合
法令による地区の指定等が重複する場合には、伐採制限が異なることがあります。
その場合には、最も厳しい伐採制限に基づく控除割合を採用します。
保安林の指定の解除や売却について
保安林に指定されると、その先ずっと規制を受けながら所有するのかと心配される方も多いのではないでしょうか?結論から申し上げると、個人的な理由で保安林の指定解除が認められることはありませんが、売買に制限はありません。詳細は以下の通りです。
解除できる理由は限られている
保安林は、制度の趣旨からして森林以外の用途への転用を抑制すべきものであり、解除に当たっては、極力森林の機能を維持していくため、解除する場合の理由は、次の2つのみに限られています。
指定の理由が消滅したとき
例えば、次のような場合です。
・自然災害等が実際に発生し、保安林が破壊されてしまった場合で、森林への復旧が困難であると認められるとき
・代替施設が設置されたとき
・制限を解除しても、安全性が確保できたとき
公益上の理由が発生したとき
例えば、次のような場合が該当します。
・国や地方公共団体が実施する公共事業用地となるとき
国等以外の事業者であっても、公共性の高い事業用地に該当することとなった場合には、解除が認められます。
ただし、公益上の理由に該当する場合であっても、態様、規模等から見て国土の保全に支障があると認められる場合は、原則として解除することはできません。
つまり、『保安林として管理していくのが難しい』といった個人的な理由では解除は認められていないということです。
売却に制限はない
解除が簡単ではないのであれば、売却はできるのかな…?
保安林であっても土地の売買に制限はありません。ただし、他の用途に転用することが難しいため、現実的には購入を希望する人が少ない状況です。
また、所有者が変わった場合には、森林法に基づき、『森林の土地の所有者届出』を提出する必要があります。
新たに所有者となった者が、所有者となった日から90日以内に保安林が所在している市町村長に届出を行います。
この届出をしない、または虚偽の届出をした場合には、10万円以下の過料が科されることがあります。

なお、この届出は保安林のみならず、森林の所有者が変わった場合に提出が必要なものです。
もちろん、所有者が変わった要因には、“相続・贈与”も含まれています。
また、令和6年4月1日から運用が開始された相続登記の義務化とは別の制度です。相続登記をしたからといって、この届出が不要になるわけではありませんので、ご注意ください。
さいごに
以上、保安林の評価について、解説させて頂きました。
一般的な財産ではありませんが、日本の森林面積は約2,502万ヘクタール、国土の67%が森林です。そのうち、約49%が保安林に指定されているわけですから、意外と該当するケースは多いかもしれません。
一方で、売却や活用が難しいため、少しでも相続税評価額を減額したいと考える方は多いでしょう。
円満相続税理士法人では、特殊な不動産の評価も日々研究し続けています。
不動産の評価について少しでも不安をお持ちの方は是非、ご相談ください。