円満相続税理士法人 代表税理士
『最高の相続税対策は円満な家族関係を構築すること』がモットー。日本一売れた相続本『ぶっちゃけ相続』シリーズ19万部の著者。YouTubeチャンネル登録者10万人。
こんにちは、円満相続税理士法人の橘です。
結婚をしてからずっと専業主婦であった。
親から遺産をほとんど相続しなかった。
この2つに当てはまる奥様の通帳に、多額(だいたい3000万位から)の預金がある場合には、税務署から、
妻の通帳にあるお金は、実質的には夫のものです!
と、指摘され、相続税を追徴課税されることがあります。
今回の記事では、専業主婦のへそくりと相続税の関係を、これまで30件以上の税務調査に立ち会ってきた私が、徹底的に解説します。
税務調査で恐い想いをしないためにも、是非、お読みくださいませ♪
※動画版もあります。
『へそくり』は誰の財産?
生活費の一部を、奥様がへそくりとして貯めるのは、世の中で一般的に行われています。
へそくりをすること自体は悪いことではありませんが、相続税の申告をする際は、へそくりをどのように扱うか注意が必要です。
結論から言うと、夫が稼いだお金を妻がへそくりとして貯金をしていた場合は、その貯金は、夫の財産として相続税申告をしないと、税務調査で問題になる可能性があります。
私が長い間、コツコツ貯めてきたお金なのに、何で夫の財産になるのよ⁉
理由について、一つずつ解説していきます。
名義財産(名義預金)の考え方
相続税の税務調査で最も問題になるのは、名義財産(めいぎざいさん)と呼ばれるものです。
名義財産とは、名義人として登録されている人物と、本当の所有者である人物が、異なっている財産のことをいいます。
難しくて、よくわかりません…
と、思う方も多いと思いますので、非常に極端な例を使って解説します。
例えば、あたなが道端に停めてあるベンツがどうしても欲しかったとします。
どうしても欲しかったので、あなたはボンネットにマジックペンで自分の名前を書いてしまいました。
さて、あなたの名前が書かれたこのベンツは、あなたの物になりましたでしょうか?
なっていませんよね。
ベンツにはあなたの名前が書かれていますが、本当の所有者はそのまま変わっていません。
ベンツの本当の所有者を変えるためには、ベンツの持ち主に、
そのベンツください!
と交渉して、持ち主が納得し、陸運局で名義変更の手続きをし、贈与税の申告もして、やっとあなたの持ち物になるわけです。
名前だけ変えればいいというわけではないのですね。
このように、その物に書かれている名前の人物(名義人)と、真実の所有者が異なっている財産があり、これを名義財産と呼ぶのです。
先程の例は極端すぎますが、これが家族の間になると、名義財産は簡単に発生します。
本当はご主人が稼いだお金なのですが、それを奥様や子供名義の預金通帳にいれて、
これは妻や子供の財産なんだ!
と主張しても、実は先ほどのベンツと同じように、名前を変えただけでは、本当の所有者は変わらないのです。
真実の所有者は誰なのか?
この判断をする際には、次の3つのポイントが重要です。
その預金の基となるお金をゲットしたのは誰か?
その預金を管理していたのは誰か?
生前贈与が行われていたかどうか?
お金をゲット(稼得)したのは誰?
『預金の真実の所有者は、そのお金をゲット(稼得)した人』と考えるのが、名義預金判定の基本です。
そもそもですが、お金をゲットする方法は、数が限定されています。
まず、第1の方法は、働くことです。
働いてお給料を貰ったり、自分で事業をしている人であれば、売上をあげるということですね。
※『運用でお金を増やす』という方法も、ここにカテゴライズします。
第2の方法は、お金を貰うことです。
これは、生前贈与であったり、相続であったり、他の人からお金を貰うことです。
基本的に、お金をゲットする方法は、以上の2つしかありません。
※宝くじに当たるとか、お金を盗むなどもあるかもしれませんが。
このことを踏まえると、
婚姻後、定職に就いて働いていたわけではない
婚姻時に持参金がなく、かつ、先代から相続した財産もない
上記の2つに該当する専業主婦の奥様がお持ちのへそくりは、元々のお金の出どころは、奥様ではなく、ご主人であると認定されます。
へそくりを管理していたのは誰か?
続いて、第2のポイントは「その預金(へそくり)を管理していたのは誰か?」です。
その預金の真実の所有者は、その預金を管理し、自由に使うことのできる人だと考えます。
これは、単純に自分の通帳の管理しているだけではダメで、そのお金を自分で自由に使おうと思えば、使える状況にあったかどうかがポイントなります。
例えば、夫から
あなたの通帳に1000万円貯めておいたから、困った時がくるまで使っちゃいけないよ
と言って、妻に通帳を渡したとします。
しかし、その通帳を受け取った妻は…
え!1000万?嬉しいわ!
明日、エルメスのバッグを買って、ハワイ旅行の手配をするわね
と言ったとします。
ここで、夫が
おいおい!このお金は、将来、困った時に使って欲しいんだ。バッグを買うためのお金じゃない!通帳は、没収だー!
と言ったとします。
もし、このような状況下だったとしたら、通帳の管理や保管を妻に任せていたとしても、実際に通帳を支配していたのは夫、ということになります。
本当の意味で妻に預金をプレゼントするのであれば、妻が
バック買いたい!
と言った場合、それを止めることはできません。
なぜなら渡した1000万円は妻のものです。
妻が自由に使えないのであれば、それはプレゼントをしたとは認められないのです。
と、このように、単純に通帳と印鑑とキャッシュカードを渡せばOKというわけでもないのです。
見えない力によって、自由に使うことができない状況にあったとすれば、それは、もともとの所有者の支配下にあるということになります。
このようなことを調べるために、税務調査では、よく…
奥様。奥様のこの通帳に入っているお金は、全然使った形跡がありませんね。使わなかったのには、何か理由があるのですか?
という質問をしてきます。
ここで、
あぁ。この通帳は、主人から『使うな』って言われていたので…
などと言ってしまうと、通帳の管理は実質的には夫が行っていたと認定される可能性が非常に高くなります。
生前贈与が適正に行われていた?
最後のポイントは、「生前贈与が適切に行われていたかどうか」です。
たとえ、夫が稼いだお金であったとしても、それを妻に生前贈与をしたのであれば、そのお金は妻のものになります。
ここでのポイントは、夫が生活費として渡したお金の一部を、妻がへそくりとして貯めていた場合、夫から妻への生前贈与になるのか?ということです。
この点について、過去の裁判例では次のように言っています。
夫婦間において、家庭生活を妻に委任し、その費用を妻に渡すことや一定の預貯金の管理運用を妻に任せることはあり得ることであるが、その事実をもって、任された妻の財産になるわけではない
つまり、生活費として渡したお金は、妻に対する生前贈与とは認められない、ということになります。
民法上、「生前贈与は、財産をあげる人が『あげますよ』、財産を貰う人が『もらいますよ』という意思表示をして、初めて成立する契約」と定義しています。
このことから、生活費として渡しただけだと、贈与契約が成立しているとは言えないのですね。
『生活費の残りは全部あげる』は贈与契約?
生活費として渡したお金の残りは、妻にやる。好きに使ってよいぞ
と夫が言ったとします。これであれば、妻に対する贈与になりそうですね。
しかし、残念ながら、このような渡し方でも生前贈与と認められないという別の裁判例があるのです(東京地裁昭和59年7月12日判決)。その判決では、次のように言っています。
妻に生活費として渡した預貯金があり、余った分は自由に使ってよいと言われたとしても、渡された生活費の法的性質は、夫婦共同生活の基金であって、妻名義の預金にしても、その性質は失われない。そのため、余った分は使ってよいと言われたとしても、この発言が直ちに贈与契約を意味するものではない。
「生活費の残りは妻にあげる」という発言は、生前贈与には該当しないという判決です。
このように、夫が稼いだ収入を生活費として妻に渡し、そのお金で妻がへそくりを貯めている場合には、夫から妻への生前贈与と認められる可能性は低いのです。
へそくり名義預金の解消方法
私達の事務所には、非常に多くの方から
私はずっと専業主婦だったのですが、主人の給料から少しずつ貯めたお金が3000万くらいあります。これは相続税の調査の時、問題になりますでしょうか?
という相談が寄せられます。
私の肌感覚になりますが、専業主婦だった奥様(親からほとんど遺産を相続していない)の通帳に3000万以上の預金がある場合には、へそくり名義預金を指摘される危険があります。
ただ、今現在、そのような状況であったとしても、適正な処理をすれば問題にはなりません。
相続発生前であれば預金を戻す
ご主人がご健在であれば、へそくり貯金は、ご主人の口座に戻すことも可能です。
ただ、これを実際にやろうとすると、銀行の人から、
それは妻から夫への贈与と言われて、贈与税がかかりますよ?
と言われます。
しかし、もし税務署からそのような指摘を受けたとしても、ことの経緯をしっかり説明すれば、贈与税が課税されることはありません。
もともと夫の預金だったものを、夫の口座に戻すだけですので。
ただ、税務署にきちんとした説明をするために、相続に強い税理士監修のもとでやっていただくのが無難かもしれません。
相続発生後であれば配偶者控除
へそくり名義預金がある状態で、相続が発生した場合には、税務署から指摘される前に、自ら相続税の計算にへそくりを含めれば、OKです。
でも、それだと相続税がとても高くなっちゃうじゃないですか!
確かに、相続税は少し高くなりますが、へそくり名義預金を妻が相続すれば、相続税の配偶者控除によってほとんど課税されません。
夫婦間の相続については、最低でも1億6000万まで課税しない、配偶者控除という制度があります。
なるほど、名義預金を含めて、配偶者が相続する財産が1億6000万以下であれば、相続税の負担はないってことですね。
はい、その通りです!
ただ、厳密にいうと、名義預金を含めて相続税を計算することによって、家族全体の相続税額が増加するため、子供が支払う相続税も少しだけ増加します。
へそくりの所有者を争った裁判
この裁判例は、平成19年10月4日に国税不服審判所で行われたものです。
※国税不服審判所とは、税務署の判断に納得のいかない納税者が、裁判をする前に、納得のいかないことを訴える場所です。ここでされた判決は、判決といわずに裁決といいます。
事件の概要
亡くなった人はAさん、相続人は妻と子の二人です。
相続税の税務調査が行われ、へそくりとして貯めていた妻の郵便貯金が、すべてAさんの財産であるとものとして、相続税が追徴課税されました。
相続人は、この内容に納得がいかず、国税不服審判所に訴えたのです。
税務署側の主張
妻名義の郵便貯金は、次の理由から、実質的には故人の財産なので、相続税を追徴課税します!
妻に収入が無かった
妻は、結婚時に持参金もなく、親から相続した財産もない。そして、結婚後も定職に就いて働いていなかったことから、妻が自分でお金を捻出することはできなかったはず。
そのことから、妻の貯金の基となったお金は、夫が稼いだお金から形成されたと考えられます。
故人が書いたメモ
夫婦の郵便貯金の金額や詳細が、全て手書きされているメモが見つかりました。この字は、故人が生前中に残した日記帳の筆跡と一致しています。
そのことから、このメモを書いたのは故人(夫)であると考えられ、故人は自分の通帳だけでなく、妻の通帳も管理していた可能性が高いと言えます。
同じ日に手続きしている
故人と妻の口座は、まったく同じ日に様々な手続きがされています。これは、故人が妻の通帳も一緒に管理しており、同じ日に2つの口座の手続きを行っていたからだと考えられます。
贈与税申告をしたことがない
妻は贈与税の申告をしたことはありません。
納税者(妻)の主張
これは、次の理由から、間違いなく私の財産であって、相続財産じゃないわ!!
へそくりで貯金
私は、確かに定職に就いて働いてなかったけど、私の郵便貯金は、主人の了解を得たうえで、生活費をやりくりして、残ったお金をへそくりして作ったのよ!
メモは一緒に書いたのよ!
郵便貯金の詳細が書かれているメモは、ペイオフ対策として、主人と私の二人で一緒に書いたのよ!
別々に管理していたわよ
主人の預金の解約日と、私の解約日は、異なっているわ。このことからも別々に管理していたことは明白よ!
『あげる』ことは了承していた
贈与税の申告はしてないけど、主人の了承を得てへそくりしていたのだから、主人は私にお金をあげることを了承していたわよ!
裁決!へそくりは名義預金
妻の郵便貯金は、名義は妻であるものの、実質的な所有者は夫であり、夫の相続財産として、相続税を追徴課税する!
裁決のポイント
妻は、夫との婚姻時において、持参金や両親からの相続財産はなく、結婚後も、生活費に充てるために内職をしたことはあったが、定職に就いたことはなかった。
郵便貯金メモの筆跡と、日記帳の筆跡は同一であることから、このメモは夫が単独で作成したものである。このメモと、妻の貯金の動きは、ほとんど一致していることから、妻の貯金は夫が管理していたと認められる。
妻は贈与税申告書を提出したことは一度もなく、生前贈与を受けていたという認識はなかったと認められる。
以上のことから、
妻名義の郵便貯金は、名義は妻であるものの、実質的な所有者は夫であり、夫の相続財産として、相続税を追徴課税する!
※原文を読みたい方はこちら
まとめ
専業主婦には財産を持たせないなんてひどいじゃない!
と思う方もいらっしゃると思います。
もし、生前中から『妻にも、財産を持たせたい』とお考えであれば、面倒かもしれませんが、夫婦の間でも贈与契約書を交わして、妻の口座に振り込んであげることをおススメします。
また、年間110万円を超える贈与であれば、贈与税申告をすることが大事です。
奥様のへそくりについて心配のある方は、いつでもご相談してくださいね。
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