
こんにちは!円満相続税理士法人の湯本です。

円満相続税理士法人 税理士 大学在学中から税理士を目指し25歳で官報合格。 法人税務を経て現在は円満相続税理士法人にて、 相続・事業承継のプロとして、 申告・税務相談・執筆・セミナー講師など 幅広く活動中! 詳しいプロフィールはこちら
皆さんが普段、何気なく結んでいる不動産の賃貸借契約ですが、その法律上の取り扱いについて、しっかりと整理できている方は少ないのではないでしょうか?
そこでこの記事では、民法によって規定されている不動産の賃貸借契約と、民法の特例法「借地借家法」との違いについて、民法と借地借家法ではどのような違いがあるのかを、詳しく解説していきます。
税金というより民法(法律)のお話になりますが、税法は民法の考え方を基礎にしているので、民法を深く理解することで、税金の理解もより深まりますよ!
民法上の賃貸借契約
不動産の賃貸借契約は、基本的に「民法」によって規定されています。
民法では、すべての人が差別なく、平等に権利義務の主体となることができるとされています。そのため、賃貸借契約も「貸主」と「借主」が対等な立場で結ばれることが前提です。
しかし現実には、「借主」は“人の物を使わせてもらっている”という立場にあり、どうしても「貸主」よりも弱い立場に置かれがちです。
そこで、民法の特別法として「借地借家法」が制定され、借主の立場をより強く保護する仕組みが設けられています。

賃貸借契約の定義
まず、「賃貸借契約」とは何かを民法の条文から見てみましょう。
民法第601条
賃貸借は、当事者の一方がある物の使用および収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対して賃料を支払い、契約が終了したときに物を返還することを約することによって、その効力を生じる。
簡単に言えば、「ある物を貸して使わせ、代わりに賃料を受け取る契約」のことです。
この考え方は不動産に限らず、車や家具など、あらゆる“物の貸し借り”にも適用される、基本的なルールです。
賃借権の対抗力【土地編】
まずは、賃貸借契約について理解する上で重要なポイントとなる、「対抗力」について紹介します。
法律のお話は堅苦しいので、クイズ形式で解説しますね!
Q:
地主Aが所有する土地をBが借りて、そこに家を建てて住んでいました。
その後、Aがその土地をCに売却し、Cが新しい所有者となりました。
このとき、CはBに対して「自分の土地だから出て行ってほしい」と言えるでしょうか?

A:
答えは、「Bが登記をしていれば、Cは言えません!」
ちょっと難しかったかもしれませんが、「登記」が大事なポイントです。
具体的には、以下のいずれかを満たしている場合、CはBに退去を求めることができません。
Bが土地の賃借権について登記している
Bがその土地上の建物を自分の名義で登記している
このように、「登記」を通じて自分の権利を第三者に主張できる状態になることを、法律上では「対抗力がある」と言います。
実務上は②による場合がほとんどですね!
賃借権の対抗力【建物編】
次は、「建物」を借りているケースを見てみましょう。
Q:
大家Aが所有する建物を、借家人Bが賃借して住んでいました。
その後、Aがこの建物をCに売却し、Cが新しい所有者(大家)となりました。
このとき、CはBに対して「私の建物なんだから、出て行ってください」と言えるでしょうか?

A:
答えは、(基本的には)言えません!
具体的には、以下のいずれかの条件を満たしていれば、CはBに「出て行ってほしい」と主張することはできません。
Bが建物の賃借権について登記している
BがAから建物の引渡しを受けて、実際に住んでいる
つまり、建物の賃貸借については、登記がなくても「引渡し」を受けて実際に住んでいれば、対抗力が認められるというのが民法の考え方です。
現実には②の場合が多く、賃借人が住んでいるだけでも、対抗力が生じるという点が土地とは異なる大きな特徴です。
賃貸借契約が終了する4つの主な理由
民法上の賃貸借契約は、一定の事由が発生することで終了します。
主に以下の4つのケースが、契約終了の代表的なパターンです。
期間の満了(50年が限度)
民法では、賃貸借契約の期間は最長50年と定められています。
たとえ契約書で50年を超える期間が定められていたとしても、その場合は自動的に50年に短縮されることになります。
なお、後述する借地借家法では、50年を超える期間の契約も認められています。
解約の申入れ(期間の定めがない契約の場合)
契約期間を定めずに賃貸借をしている場合、どちらかの当事者から「そろそろ契約を終了させたい」という申し入れ(=解約の申入れ)をすることで、契約を終了させることができます。
この「解約の申入れ」があった場合、解約の申入れから以下の期間が経過することで契約が終了します。
土地の場合…1年後
建物の場合…3か月後
契約の解除
契約の解除によっても賃貸借契約は終了します。解除には次の2種類があります。
債務不履行による解除:賃料の滞納、無断転貸などが該当します。
合意解除:貸主と借主が話し合って、合意のうえで契約を終了するケースです。
賃借物の全部滅失
契約の対象となっている物件が、たとえば自然災害などで完全に滅失してしまった場合も、契約は当然に終了します。
このようなケースでは、物の使用や収益が不可能になるため、契約関係が維持できなくなるのです。
借地借家法上の賃貸借契約
「借地借家法」は、民法の特別法として位置づけられており、該当する場面では民法よりも優先して適用される法律です。
借地借家法が適用されるためには大きく2つの条件があり、次のようなケースに適用される法律です。
建物を所有する目的で土地を賃貸借する場合(=借地)
⇒たとえば、月極駐車場や資材置き場のように建物所有が目的でない場合は、借地借家法の適用外です。
建物自体を賃貸借する場合(=借家)
⇒賃料の授受がある「賃貸借契約」であることが重要です。
つまり、無料で貸しているような「使用貸借」契約には適用されません。
ちなみに、税務上は、税金の種類によって借地権の定義が異なります。
相続税は、借地権借家法に忠実ですが所得税法や法人税法は借地権の範囲が広いようです。
気になる方はこちらの記事をご覧ください。
借地借家法制定の背景
民法上では貸主と借主は原則「対等」とされていますが、実際には借主の方が弱い立場に置かれることが多いです。
このような現実を受けて、借主をより強く保護するために制定されたのが「借地借家法」です。
この法律は、平成4年8月1日に施行されました。
ちなみに、それ以前には「旧借地法・旧借家法」という法律が存在しており、非常に強い借主保護の内容を持っていました。
しかし、それが行きすぎて借主の権利ばかりが強くなってしまったため、バランスを取る目的で現在の「借地借家法」へと改正された、という経緯があります。
借地借家法の条件や制定の背景を知ると、借地権の財産評価の理解がより深まります!こちらの記事では借地権の財産評価についてまとめられています。
借地借家法が民法に勝る3つの点
借地借家法は、民法と比べて借主の立場を非常に手厚く保護しています。
では、具体的にどのような点で借主を守っているのか解説していきます!
1つ目:存続期間が最低保証されている点
借地権の存続期間:最低30年の保証
借地権(建物所有を目的とした土地の賃借権)においては、契約内容によって取扱いが2パターンに分かれます。
契約で存続期間を定めている場合
原則、契約で定めた期間(=約定期間)が適用されます。
ただし、30年未満の期間を定めた場合は、自動的に30年に引き上げられます。
契約で存続期間を定めていない場合
法定期間として30年が自動的に適用されます。
つまり、借地契約においては「最低でも30年間」はその権利が保証されているということになります。
民法上では、賃借権の存続期間は最長50年と定められていますが、逆に言えば、極端に短く設定されたり、必ず50年で終了してしまうリスクがあります。
その点、借地借家法では最低30年を保証しているため、借主の権利をより安定的に守るしくみとなっているのです。
借家権の存続期間:1年未満は“無期限扱い”に
借家権(建物の賃貸借)についても、契約内容によって以下のように分かれます。
契約で存続期間を定めている場合:原則、その期間が適用されます。
ただし、1年未満の期間を定めた場合は、存続期間の定めのない契約として扱われます。
契約で存続期間を定めていない場合:当然ながら、期間の定めのない契約となります。
つまり、極端に短い契約期間(1年未満)では、法律上は“無期限”の契約として扱われるということです。
借地と同様に、借家についても「いくらでも長く設定してよい」という柔軟性があります。
この点もまた、借主の立場を考慮した手厚い保護といえるでしょう。
借地借家法では、賃貸借契約の「存続期間」を通じて、借主の居住や営業の安定性を守るしくみが整えられています。
特に、最低期間の保証や短期契約の制限は、民法にはない借主側に有利なルールとして機能しています。
2つ目:契約の更新がしやすい点
民法上の賃貸借契約では、契約期間の満了や貸主からの解約申入れにより、契約が終了してしまうのが原則です。
一方、借地借家法では借主の意思がより強く尊重され、契約の更新がしやすい仕組みになっています。
借主が「このまま借り続けたい!」と主張すれば、原則としてその意思が通るように法律が設計されています。
借地権の更新(4つのパターン)
借地権の更新には、通称として次の4つのパターンがあります。
1つ目:合意更新
当事者双方が合意すれば、契約は更新されます。
条件としては、大きく2つあります。
第1回目の更新:更新日から 20年間 が存続期間となります。
第2回目以降の更新:更新日から 10年間 が存続期間。
※ ただし、当事者間でそれより長い期間を定めた場合は、その期間が優先されます。
2つ目:請求更新
借主が「更新させてください!」と請求すれば、契約は更新されます。
ポイントとしては、大きく2つあります。
借地上に建物が存在することが前提
貸主は更新を拒否するためには、「正当事由」を理由として、遅滞なく異議を述べる必要がある
つまり、借主に重大な過失(例:賃料不払い、無断転貸など)がなければ、更新は認められるケースが多くなります。
3つ目:居すわり更新(黙示の更新)
契約期間が満了しても、借地上に建物がある状態で借主が使用を継続していれば、更新されたものとみなされます。
この更新も、やはり建物の存在が前提条件です。
4つ目:建替え(再築)更新
借主が貸主の承諾を得て、残存期間を超えて存続するような建物を再築した場合、契約はさらに20年間継続します。
ただし、もともとの残存期間が20年以上ある場合や、より長い期間を当事者が合意した場合は、その期間が適用されます。
ちなみに、「建替え」は“再築”であることが必要であり、「増築」では更新の対象になりません。
借家権の更新(3つのパターン)
借家権についても、借主は手厚く保護されています。
基本的に、貸主が契約を終了させるには「正当事由」が必要です。
1つ目:期間の定めがある賃貸借契約の場合
契約期間が満了しても、賃貸借契約は自動的に更新されます。(※更新後の契約は、期間の定めのない契約として扱われます)
ただし、貸主・借主いずれかが「更新しません」という通知(=更新拒絶通知)をすることで、更新を防ぐことができます。
この通知は、期間満了の1年前から6か月前までの間に行う必要があります。
なお、拒絶通知をする際に必要な条件があるので注意が必要です!
貸主側からの更新拒絶通知:正当事由が必要
借主側からの更新拒絶通知:正当事由が不要
2つ目:期間の定めがない賃貸借契約の場合
契約を終了させるには、いずれか当事者からの「解約申入れ」が必要です。
なお、解約申入れをする際に必要な条件があるので注意が必要です!
貸主側からの解約の申入れ:正当事由が必要で、解約の申入れ後6か月経過後に契約終了
借主側からの解約の申入れ:正当事由が不要で、解約の申入れ後3か月経過後に契約終了
3つ目:居すわり更新(黙示の更新)
契約期間の満了や解約申入れによって形式上は契約が終了していても、借主が住み続けていれば、貸主が異議を述べない限りは黙示的に契約が更新されます。
借地借家法では、更新の仕組みを通じて借主の居住や営業の継続性を強く保障しています。
民法と比べても、正当事由がなければ終了できない、黙示でも更新されるといった点で、借主の立場が非常に守られた制度となっているのが特徴です。
3つ目:譲渡(転貸)しやすい点
賃貸借契約の延長に際しては、借主による借地権(または借家権)の譲渡(売却や贈与)や転貸(いわゆる「また貸し」)の話が出ることもあります。
このような場合、借主は法律により強く保護されており、借地権や借家権を活用したビジネスも比較的行いやすい環境にあります。
借地権の譲渡・転貸
まずは、借地権についてです。 借地権の譲渡の例題をもとに解説していきます! 地主Aは、土地の賃貸借契約を借主Bと締結し、Bはその土地の上に自ら建物を建てて住んでいました。
(土地所有者=A、借地権者=B、建物所有者=B)

そこにCが現れ、
Bさん、その建物と借地権を私に売ってくださいな
それに対して、
いいですよ。ただし、借地権を譲渡するにはAさんの承諾が必要です
といったやりとりがあったとします。
このように、借地人BがCに借地権を譲渡または転貸するには、原則として地主Aの承諾が必要になります。
※ただし、借地権が地上権であるなど、例外的なケースは除きます。
しかし、Aの承諾が得られない場合には、以下のような対応が可能です。
建物買取請求権
CがBから建物を購入した場合、通常は借地権もあわせて取得する必要があります。
しかし、地主Aが譲渡に同意しない場合、Cは次のように主張できます。
それなら、この建物をAさんが買い取ってください!
この請求が可能になるのが「建物買取請求権」です。
借地非訟手続き
一方、Cがどうしてもその建物を保持したい場合、建物買取請求をしてしまうと手放すことになってしまいます。
そこで利用できるのが「借地非訟手続き」です。
これは、地主Aの承諾が得られない場合に、裁判所に申し立てを行い、その承諾に代わる許可をもらう手続きです。
この手続きにより、CはAの同意がなくても譲渡・転貸が可能になる場合があります。
借家権の譲渡・転貸
一方で、上記のようなケースが「借家権」の譲渡や転貸である場合は借地借家法による保護は及びません。
つまり、原則どおり、貸主の承諾が必要であり、かつ、裁判所から代わりの許可をもらうこともできません。
その理由としては、建物は土地と異なり、使用者によって劣化の程度が大きく異なるため、貸主の意思を無視することは妥当でないと考えられているためです。
ここまでのお話を表にまとめると以下のようになります。

おわりに
今回は、土地の賃貸借契約について、民法と借地借家法とでどのような違いがあるのかを解説いたしました。
実は、借地借家法は非常に奥が深く、さらに掘り下げていくと、更新のない「定期借地権」や「定期借家権」といった制度も存在します。
また、借地権・借家権の評価額の算定方法や、それに基づく税務上の取扱いなど、関連する分野は多岐にわたっており、とても一度では語り尽くせないほどです。
この記事を通じて、土地・建物の賃貸借に関する法律について大まかなイメージを掴んでいただけた方は、次は税務面での取扱いについても学んでみてはいかがでしょうか。
税務上の取り扱いについて様々な記事をご用意しておりますので、是非ご覧ください!