円満相続税理士法人 税理士
学生時代に税理士試験の受験を始め、在学中に4科目取得し群馬県の会計事務所に就職。売上規模数十億円の企業の法人税、相続税を担当しつつ25歳の時に税理士試験合格。
遺産分割協議をやり直すと、贈与税が発生すると聞いたのですが…
おっしゃる通り、遺産分割協議をやり直した場合、贈与税が発生する可能性があります。
しかし、遺産分割協議をやり直した場合でも、贈与税を発生させず、相続税のやり直しを裁判所が認めた判例があります。
皆さんこんにちは。
円満相続税理士法人、税理士の加藤です。
今回のテーマは、
一度行った遺産分割協議をやり直した場合、贈与税を発生させず相続税のやり直しが出来るのか?
です。
じつは、これは原則として出来ません。
遺産分割協議のやり直しは、相続税のやり直しではなく、新たに贈与税が発生する、という考え方があるのです。
法第19条の2第2項に規定する「分割」とは、相続開始後において相続又は包括遺贈により取得した財産を現実に共同相続人又は包括受遺者に分属させることをいい、その分割の方法が現物分割、代償分割若しくは換価分割であるか、またその分割の手続が協議、調停若しくは審判による分割であるかを問わないのであるから留意する。
ただし、当初の分割により共同相続人又は包括受遺者に分属した財産を分割のやり直しとして再配分した場合には、その再配分により取得した財産は、同項に規定する分割により取得したものとはならないのであるから留意する。
つまり、最初の遺産分割協議で財産を取得した人から、二回目の遺産分割協議で財産を取得することとなった人へ贈与をした、というように考えることになります。
このため、基本的に遺産分割協議のやり直してしまうと、多大な贈与税の負担が生じる可能性があります。
しかし一方で、遺産分割協議をやり直して、贈与税ではなく、相続税の申告をやり直すことが出来た事例があります。
今回はこの事例を参考にして、どのような時に相続税の申告がやり直せるのか、について徹底的に解説していきます。
(今回紹介する事例は、「税務訴訟資料 第259号-38(順号11151)」となります。)
簡単な結論
まずはこの事例の結論を簡単に説明します。
~贈与税の負担なく、相続税のやり直しは出来る?~
●税金が少なくなるから、という理由で遺産分割協議をやり直し、相続税の計算をやり直すことは出来ない。
(多額の贈与税が生じてしまう可能性がある。)
●しかし例外として、次の要件を全て満たすような場合は、やり直しが認められる可能性がある。
①相続税の更正の請求期間内に自ら訂正をすること
②税務署から連絡や指摘を受けていないこと
③当初の遺産分割の効果を完全に消失させること
④やむを得ない事情があること
⑤誤りを訂正する一回的なやり直しであること
事例の内容
それでは事例の内容について見ていきましょう。
①今回の相続財産の中には「非上場株式」があり、この株式の分割方法を工夫すると、税額がかなり減額できるという状態でした。
非上場株式の評価方法については、本題と外れてしまうため割愛をさせていただきます。
②そこで相続人は税理士の意見にしたがって遺産分割協議(Ⅰ)を行い、一度相続税の申告を行いました。
③しかし相続人はその後、この遺産分割協議(Ⅰ)のままでは高額な相続税が生じてしまうことに気づいたのです。
(分割方法に誤りがあった。)
④相続人はすぐに遺産分割協議(Ⅰ)をやり直し、遺産分割協議(Ⅱ)を行い、相続税の申告もやり直しました。
⑤しかし税務署は相続税の申告のやり直しを認めなかったことから、今回の裁判となっていきます。
裁判所の判断
相続人としては、
遺産分割協議(Ⅰ)は間違っていたので、相続税も当然にやり直せるはずだ。
と主張します。
しかし税務署は、
相続税を減らすためのやり直しを無制限に認めていたら問題になる。
と反論します。
そこで裁判所は次のように判断をしました。
(結論としては、納税者の主張が通り、相続税の申告をやり直せることとなりました。)
やり直しができるか否かについて
まず裁判所は、そもそも相続税を少なくするための遺産分割のやり直しを認めるか否かについて、次のように判断します。
原則はやり直しダメ。ただ例外的に認めてもいい場合もある。
つまり
前の分割方法よりも相続税が少なくなる分け方が見つかったから、申告をやり直そう!
は認められないということです。
しかし例外的に次のような場合には、やり直しをしても問題ないとも判断しています。
~以下判決文より抜粋~
申告者は、法定申告期限後は、課税庁に対し、原則として、課税負担又はその前提事項の錯誤を理由として当該遺産分割が無効であることを主張することはできず、例外的にその主張が許されるのは、分割内容自体の錯誤との権衡等にも照らし、
①申告者が、更正請求期間内に、かつ、課税庁の調査時の指摘、修正申告の勧奨、更正処分等を受ける前に、自ら誤信に気付いて、更正の請求をし、
②更正請求期間内に、新たな遺産分割の合意による分割内容の変更をして、当初の遺産分割の経済的成果を完全に消失させており、かつ、
③その分割内容の変更がやむを得ない事情により誤信の内容を是正する一回的なものであると認められる場合
のように、更正請求期間内にされた更正の請求においてその主張を認めても上記の弊害が生ずるおそれがなく、申告納税制度の趣旨・構造及び租税法上の信義則に反するとはいえないと認めるべき特段の事情がある場合に限られるものと解するのが相当である
今回の事例への当てはめ
それでは今回の事例が、例外的な場合に当てはまるのか、裁判所の判断を見ていきましょう。
この事例は、次のような経緯がありました。
~事例の経緯~
・遺産分割協議(Ⅰ)の段階で、相続人は相続税が少なくなるような遺産分割を望んでいた。
↓
・相続人は税理士に相談をしたが、税理士が判断を誤ったため、相続税が少なくならない分割方法になってしまった
↓
・相続人は自らその間違いに気づき、更正の請求期間内に遺産分割協議(Ⅱ)をやり直した
この経緯を踏まえて、裁判所は次のように判断しました。
更正の請求期間内に、税務署から指摘される前の段階で遺産分割協議をやり直している。
このことから、例外を認める要件の①と②は満たす。
税理士の判断が間違っていることを、相続人が直ちに気づくのは容易ではない。
また、この遺産分割協議のやり直しは、当初の目的を果たすためのものであるため、一回的である。
よって、③の要件も満たす。
これにより、相続人は無事、相続税の計算をやり直すことが出来たため、多大な贈与税の負担を免れたのでした。
~以下判決文より抜粋~
原告について、上記の特段の事情の有無を検討する。
①についてみるに、原告は、更正請求期間内に、第1次遺産分割のうち錯誤による無効を理由として更正の請求をしたものと認められ、また、原告は、課税庁の調査時の指摘、修正申告の勧奨、更正処分等を受ける前に、いまだ税務調査も始まっていない段階で、相続人らが自ら課税負担の前提事項の錯誤があることに気付いたため、上記更正の請求をしたのであり、本件は上記①に該当するものと認められる。
②についてみるに、原告が第1次遺産分割により取得した経済的成果は、一定数の本件会社の株式の帰属であるが、第1次遺産分割のうち本件会社の株式の配分に係る部分が無効であり、更正請求期間内に、原告の取得する本件会社の株式数を減ずる内容の第2次遺産分割がされたことにより(なお、同期間内に、これに基づく本件会社の株式名簿の名義書換えもされた。)、更正の請求の時点では、第1次遺産分割による原告の経済的成果は完全に消失しているものと認められるので、本件は②に該当するものと認められる。
③についてみるに、本件会社の株式の評価に係る配当還元方式の適用は、その適用の有無により評価額に合計約19億円の差異が生ずることから、遺産分割における重要な条件として当初から相続人らの間で明示的に協議されていた事項であり、相続人らが当該株式の評価方法を誤信して第1次遺産分割の合意に至ったのは、本件税理士の誤った助言に起因するもので、事柄の内容も税務の専門家でない相続人らにとって同税理士の助言の誤りに直ちに気付くのが容易なものとはいえないものであったこと、
遺産分割の協議に際して、相続人らは、第1次遺産分割に基づく当初の申告を経て、自らその誤信に気付いた後、速やかに、配当還元方式の適用を受けられる内容に当該株式の配分方法を変更した第2次遺産分割の合意に至っていることが認められ、これらの経緯に照らすと、第1次遺産分割から第2次遺産分割への分割内容の変更は、やむを得ない事情により誤信の内容を是正する一回的なものであったと認められ、本件は③に該当するものと認められる。
以上によれば、前記認定の事実関係の下では、本件は①ないし③のいずれにも該当し、更正の請求において課税負担の前提事項の錯誤を理由とする遺産分割の無効の主張を認めても弊害が生ずるおそれがなく、申告納税制度の趣旨・構造及び租税法上の信義則に反するとはいえないと認めるべき特段の事情がある場合に該当するものというべきである。
専門的な話ですが裁判所は、今回の更正の請求の根拠は、国税通則法23-1-1になるとも判断しています。
まとめ
今回は、遺産分割協議のやり直したとき、贈与税が課税されず、相続税のやり直しが認められた判例を解説しました。
この判例では相続税のやり直しが認められましたが、これはあくまでも例外的だと考えてよいでしょう。
ただ、もし何かのきっかけで遺産分割協議の間違いが発見されてしまった場合、解決をする方法が無いわけではありません。
相続税の申告はこのように、何か一つ間違えてしまうと非常に大きな損失を被る可能性があります。
弊社では最初から最後まで、相続税を専門としている税理士が対応をさせていただきます。
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