一時的な空室は3か月でもダメ?貸家建付地と賃貸割合の考え方を判例解説

相続財産に、空室になっている賃貸不動産があって、これも貸しているということで評価減しても良いのでしょうか?

その空室がいわゆる「一時的な空室」である場合には、貸しているということで評価減しても良いですが、注意が必要です。

注意ですか?

この「一時的な空室」が認められるのは、実はハードルがかなり高いので、今回は判例をもとに解説していきますね!

皆さんこんにちは。円満相続税理士法人、税理士の加藤です。

相続税の対策で賃貸不動産を活用することは、よく話が出てきますよね。

賃貸不動産は、評価額から一定の割合を控除できるなど、相続税の計算に大きな影響を与えます。

(↓賃貸不動産の評価方法の詳細は、次のブログに記載がありますので、こちらも参考にしてください↓)

この賃貸不動産の評価をしているときに、よく出てくる文言があります。

それが、

「一時的な空室」

という言葉です。

今回は、そんな「一時的な空室」が問題になった判例を紹介します。

相続発生時点で空室だけど、賃貸不動産として評価をして良いのか分からない場合は、参考になると思いますので、是非最後まで読んでみてください!

今回紹介する判例は

「税務訴訟資料 第267号-39(順号12988)」(一審)

「税務訴訟資料 第268号-1(順号13106)」(二審)

に全文が載っていますので、もし時間があれば確認してみてください。

賃貸不動産の評価と一時的な空室について

そもそも、賃貸不動産の評価ってどうやるんでしたっけ?

詳細は上で紹介したブログを参考にしていただければと思いますが、ここでも大まかに説明しますね!

賃貸不動産については、そこに住んでいる借主の人がいるため、通常の評価額から一定の割合を控除することができます。

つまり、アパートやマンションを持っているとき、それを第三者に賃貸をしていると、評価額が下がり、相続税も減額することになります。

しかしアパートやマンションは、常に満室になっているわけではありませんので、次のような疑問が出てきます。

相続が発生した日に、たまたま引っ越しがあって空室の場合には、減額ができないの?

これまでずっと賃貸していたのに、たまたま相続日に空室だったから、評価額を下げられないのは、さすがに問題ですよね。

そのため相続税のルールでは、

相続発生日における空室が、一時的な空室に該当するときは、それを賃貸しているものとみなして一定の控除をしていいよ。

と決めています。

~以下財産評価基本通達26より抜粋~

「賃貸されている各独立部分」には、継続的に賃貸されていた各独立部分で、課税時期において、一時的に賃貸されていなかったと認められるものを含むこととして差し支えない。

一時的な空室とは何?

たまたま空室だった場合には、評価でも考慮して大丈夫なんですね!
でも、一時的な空室というのが気になります…

そうですよね。
この「一時的な空室」には具体的な期間などは定められていないので、実務上判断するのは注意が必要です。

賃貸不動産の評価では、相続発生日において空室であっても「一時的な空室」であれば、賃貸しているものとして良いと決められています。

ただ「一時的な空室」とはどのような状況なのか、具体的には決まっていないのです!

「一時的な空室」の期間は、かなりシビアなものとなっているので、安易に適用をしてしまうと、思わぬミスにつながりかねません。

我々税理士は、過去の判例をもとにして、「一時的な空室」と言えるかどうかを判断する必要があります。

今回は、そんな「一時的な空室」が争点となった判例を一つ見ていきましょう!

~以下国税庁のHPより抜粋~

 アパート等の一部に空室がある場合の一時的な空室部分が、「継続的に賃貸されてきたもので、課税時期において、一時的に賃貸されていなかったと認められる」部分に該当するかどうかは、その部分が、 各独立部分が課税時期前に継続的に賃貸されてきたものかどうか、 賃借人の退去後速やかに新たな賃借人の募集が行われたかどうか、 空室の期間、他の用途に供されていないかどうか、 空室の期間が課税時期の前後の例えば1ケ月程度であるなど一時的な期間であったかどうか、 課税時期後の賃貸が一時的なものではないかどうかなどの事実関係から総合的に判断します。

判例の概要

被相続人Aは平成24年6月に死亡しました。

Aの財産には賃貸不動産がありましたが、Aの死亡日において一部空室がありました。

そこでAの相続人は、その空室が「一時的な空室」に該当するものとして、評価で一定の控除をして相続税の申告をします。

ここで税務署から

この空室は「一時的な空室」ではないので、相続税はもっと多くなります。

と指摘が入ります。

納税者としては納得がいかないので、ここから裁判となっていくわけですね。

ちなみに、結果としては納税者が敗訴し、上告をしています。

(2023年5月時点)

空室の状況

納税者と税務署との間で、「一時的な空室」の考え方が違ったのですね。
具体的にはどのような状況だったのでしょうか?

争点となっている賃貸不動産は2棟あって、空室状況は具体的に次のようになっています。

●相続発生日は平成24年6月●

空室表は判例文より抜粋
空室表は判例文より抜粋

ポイント

・賃貸不動産①は、相続発生日まで半年~1年空室が続いていた。

・賃貸不動産②は、空室になったのは相続発生日の約1ヶ月前から。

全ての空室が、相続発生後に賃貸されている。

賃貸不動産②の方は、相続発生の約1ヶ月前に空室になっていたのですね。これは、たまたま空室になってしまったと言っても良いような気がしますが…

確かに、空室期間が2,3か月くらいであれば一時的な気もしますよね。
ただ、結果としては、この空室は全て一時的とは認められませんでした。

論点① 一時的な空室の取扱いについて

ここからは、納税者と税務署が、どのように意見を主張していたのかを見ていきましょう。

特に税務署の主張は、税務署がどのように「一時的な空室」を考えているのかが分かるので、参考にしておきたいところですね。

税務署の主張

一時的な空室の取扱いは「極めて例外的な取り扱い」で、一定の要件に該当していなければいけない。

税務署は、一定の要件を次のようなものと説明します。

相続開始時点の前後において

①長期にわたり継続的に賃貸の用に供されている

②賃貸契約が相続開始直前に終了したものの、引き続き賃貸される「具体的な見込」が客観的に存在している

③相続開始後に、現実に賃貸借契約終了から近接した時期に新たな賃貸借契約が締結された

今回の場合は、上記の要件に該当していないので、一時的な空室では無い、ということですね。

納税者の主張

これに対し納税者は、次のように反論します。

相続発生日の直前まで実際に賃貸していて、実際に相続日後に新しく賃貸している。また空室期間中も入居者の募集などを行っていた。

納税者としては、空室であっても賃貸をするために管理をしていたし、その後は実際に賃貸出来ているんだから、評価減が出来ないのは納得が出来ない、というところですね。

論点② 「一時的」の期間について

今回の一番大切なポイントである「一時的」の考え方について、税務署と納税者は次のように主張します。

税務署の主張

空室の期間は、約3か月から約23ヶ月であり、これは一時的とは言えない。

税務署の判断は厳しく、空室期間が3か月であっても「一時的」とは言えないと主張しています。

税務署の言う「一時的」は、かなり短い期間なのですね…

国税庁のHPには、空室の期間が1ヶ月程度、という記載もありますが、いずれにしても相当短い期間なのは確かですね。

納税者の主張

相続発生当時は、賃貸住宅が供給過剰で簡単に貸せなかった。

納税者としては、そもそも短期間で賃貸できるような状況ではなかったのだから、「一時的」の解釈も、その状況を考慮すべきだということですね。

相続発生日直前に、たまたま退去者が続出して、そこから直ぐに賃貸出来るなんて難しいですよね。

論点③ 国税庁HPの記載について

納税者は、国税庁のHPに記載がある空室部分の取扱いを引き合いに出して、税務署に対して主張をします。

納税者の主張

国税庁のHPには、相続直前で空室になっても、入居者を募集している場合には賃貸が継続しているものとしてよい、と記載がある。
今回の税務署の主張はこれに反する。

納税者が主張している国税庁HPの文章は、具体的には次のものです。

~以下国税庁HPより抜粋~

相続開始の直前に空室となったアパートの1室については~空室となった直後から不動産業者を通じて新規の入居者を募集しているなど、いつでも入居可能な状態に空室を管理している場合は相続開始時においても被相続人の貸付事業の用に供されているものと認められ、また、申告期限においても相続開始時と同様の状況にあれば被相続人の貸付事業は継続されているものと認められる。

 したがって、そのような場合は、空室部分に対応する敷地部分も含めて、アパートの敷地全部が貸付事業用宅地等に該当することとなる。

こんな記載があるのですね!
これなら、今回も入居者を募集しているので、納税者の主張は認められますね!

そう感じてしまう部分もあるのですが、実はこの文章には落とし穴があるのです。

税務署の主張

納税者の主張に対して、税務署は次のように反論します。

納税者が言っているHPの記載は、小規模宅地等の特例について言っているのであり、今回は賃貸不動産の評価方法が論点なので、関係が無い。

上記で納税者が引き合いに出したHPの記載は、実は小規模宅地等の特例についてのものだったのです。

細かい話ですが、今回の評価の問題も、小規模宅地等の特例も、同じ賃貸不動産に対して適用されるものですが、その基となっている規定が、次のように異なっているのです。

●評価について→財産評価基本通達26

小規模宅地等の特例→租税特別措置法69条の4

納税者が主張する文章は、小規模宅地等の特例について述べているものなので、今回の評価の問題は、それに左右されない、ということですね。

同じ賃貸不動産に関することなのに取り扱いが異なるなんて、ややこしいですね…

なぜ取り扱いが違うのか、という点は、税務署は
●評価時点での客観的な交換価値を算定する「評価通達」
●事業の継続性を考慮する「小規模宅地等の特例」
この二つの取扱いが違うのは当然である。
と述べていますね。

裁判所の判断

税務署の主張も、納税者の主張も、なんとなく理解できますね。

そうですよね。それでは、裁判所はどのように判断したのかを見ていきましょう!

裁判所の判断① 一時的な空室の取扱いについて

まず裁判所は、「一時的な空室」とはどのような状況かを、次のように述べています。

~判決文より抜粋~

当該独立部分が一時的空室部分といえるためには、当該独立部分の賃貸借契約が課税時期前に終了したものの引き続き賃貸される具体的な見込みが客観的に存在し、現実に賃貸借契約終了から近接した時期に新たな賃貸借契約が締結されたなど、課税時期前後の賃貸状況等に照らし実質的にみて課税時期に賃貸されていたと同視し得ることを要するというべきである。

つまり、「一時的な空室」と主張するには

①これまで、ずっと賃貸経営をしていた

②相続発生日において空室ではあるが、既に新しい入居者が決まっていた

③相続発生日の後、かなり近い日に実際に賃貸した

などの要件を考慮して、考える必要がありそうです。

裁判所の判断② 賃貸契約の時期について

判断①で、「一時的な空室」とは何か、を述べた後に、裁判所は今回のケースを次のように判断しています。

今回の賃貸物件は、相続発生日において、その後賃貸借契約が締結される具体的な見込みが無いので、「一時的な空室」に該当しない。

今回の賃貸物件については、いずれも相続発生日において、近い日に空室部分が賃貸されるような具体的な交渉があったわけではありませんでした。

つまり、実際に相続発生日後において賃貸はしているが、その契約が相続発生日において具体的に進んでいなければ「一時的な空室」では無い、ということですね!

相続が発生した後から、賃貸借契約のために動き始めても遅いかもしれない、ということですね・・・

この判決では、そう考えることも出来ますね。
相続が発生する前から、賃貸借契約に向けて具体的な交渉が進んでいる、という事が大切です。

裁判所の判断③ 空室期間3か月は長いのか?

今回の物件は、空室期間が短いものだと約3か月で、これくらいなら「一時的」と言えるくらい短いと思うのですが。

今回の判決では、どのくらいの空室期間が「一時的」と言えるのか、具体的な目安は出ていないのです。
ただ、裁判所は次のように述べていますよ!

~判決文より抜粋~

本件各空室部分が賃貸されていない期間は最も短い場合でも2か月と23日に及ぶものであり、本件各空室部分について課税時期前の賃貸借契約終了後も引き続き賃貸される具体的な見込みが客観的に存在したにもかかわらず上記の期間新たな賃貸借契約が締結されなかったことについて合理的な理由が存在したなどの事情は認められない。

これは二審での判決文となりますが、ここから言えることは、少なくとも3か月の空室は「一時的」とは認められにくい、ということです。

しつこいようですが、相続発生日において、将来賃貸される具体的な見込があれば、判決は変わったかもしれませんね!

裁判所の判断④ 募集をしているが入居者が決まらなかった点について

空室期間は、かなりシビアなのは分かりましたが、この不動産は頑張っても賃貸出来なかったんですよね?
それでもやっぱり認められないのでしょうか・・・

募集をしているけれど入居者が決まらなかった点について、裁判所は次のように判断しています。

募集をしていても入居者が決まらなかった、ということは、相続発生日において賃貸が出来る具体的な見込が無かったといえる。
つまり、一時的な空室では無いという根拠になる。

なんと、募集をしていても入居者が決まらないという事実は、むしろ「一時的な空室」では無い、ということを裏付ける結果となってしまったのです。

確かによく考えると、

「一時的な空室」と言えるためには、将来の賃貸について具体的に決まっている必要がある。

しかし現実は、募集をしても入居者は決まらなかった。

ということは、将来の賃貸について具体的には何も決まっていなかった。

「一時的な空室」ではない。

という流れは、個人的には腑に落ちない部分も多少ありますが、非常に合理的ですね。

~判決文より抜粋~

控訴人らは、課税時期当時、賃貸住宅の供給過剰のため本件各空室部分について簡単に賃借人が決まる状態ではなかったと主張しているから、上記のような事情(※)はなかったものと認められる。そうすると、本件各空室部分が実質的にみて本件相続時に賃貸されていたと評価し得るものであるということはできないから、本件各空室部分が一時的空室部分に該当するということはできない。

※相続開始日において賃貸借契約が具体的に進んでいる等の事情

裁判所の判断⑤ 国税庁HPの記載について

納税者が主張した、国税庁HPの記載については、裁判所は次のように判断しています。

その記載は、異なる規定の事を言っているのだから、今回のケースには該当しない。

この論点については、税務署が主張していたことを、そのまま承認した形となりました。

~以下判決文より抜粋~

記載は、租税特別措置法(措置法)69条の4第1項が規定する小規模宅地等の特例について、同項所定の貸付事業用宅地等に該当するか否かについての見解を示すものであるところ、本件各課税処分は小規模宅地等の特例に関するものではないし、小規模宅地等の特例に係る上記見解が評価通達26の適用場面にも当てはまると解すべき合理的根拠もない。控訴人らの上記主張を採用することはできない。

まとめ

今回は、賃貸不動産の評価で頻出する「一時的な空室」が争点となった判例を紹介しました。

この判例から「一時的な空室」について言えることは、私見ですが次のポイントが重要だと思われます。

①-その賃貸不動産は、以前からずっと賃貸をしていたのか。

②-空室となったのは、相続発生日の直前と言えるか。

③-空室部分について、相続の発生「前」から、具体的な賃貸借契約の手続きが進んでいたか。

④-③を満たした上で、相続発生後、速やかに賃貸をしているか。

⑤-トータルの空室期間は1ヶ月程度か(3か月くらいだと「一時的」とはみなされない可能性が高い)

また、今回の空室の取扱いは、あくまでも不動産の「評価」での考えであって、「小規模宅地等の特例」での空室の考えとは、少し異なる点も注意してください。

小規模宅地等の特例における空室が問題になった事例については、また改めて取り上げようと思います。

相続税の世界では、今回のケースのように、良いとも悪いとも言えない「グレー」なことが多々あります。

取扱いに悩んだときは、ぜひ一度、相続税を専門としている税理士に相談することをオススメします。

弊社でも、相続税の申告はもちろん、生前のご相談も承っておりますので、お気軽にご連絡ください!

※今回ご紹介した判例については2023年5月時点の情報をもとにしております。

 上告により、判決が変動する可能性もございますのでご了承ください。

 また、記載内容については私見が含まれておりますので、実際の判断については、最寄りの税理士、税務署等へご相談ください。

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