円満相続税理士法人 税理士
学生時代に税理士試験の受験を始め、在学中に4科目取得し群馬県の会計事務所に就職。売上規模数十億円の企業の法人税、相続税を担当しつつ25歳の時に税理士試験合格。
時価よりも低い金額で売買をすると、税金で問題になると聞いたのですが・・・
確かに、時価よりも「著しく低い価額」で売買をすると、思いもよらない税金が発生するときがあります!
「著しく低い価額」ですか?
この「著しく低い価額」とは、実は、贈与税と所得税で考え方が違うのです!
そこで今回は、相続税と所得税の「著しく低い価額」の違いが問題となった判例を紹介しつつ、その内容を解説しますね!
皆さんこんにちは。
円満相続税理士法人、税理士の加藤です。
物や商品を売買するとき、適正な価格よりも「著しく低い価額」で取引をすると、税金の世界では贈与税や所得税が発生する可能性があります。
そのため「著しく低い価額」に該当するのか、しないのか、という判断は非常に大切になってくるのですが、実はこの考え方は贈与税と所得税で異なる、ということはご存知でしょうか?
そこで今回は「著しく低い価額」の、贈与税と所得税での考え方の違いが論点となった判例を紹介します。
〈横浜地方裁判所昭和55年(行ウ)第21号贈与税決定処分取消請求事件〉
この考え方を間違えてしまうと、思いもよらない税金が発生してしまう可能性もありますので、ぜひ参考にしていただければと思います!
所得税の考え方
判例に入る前に、所得税と贈与税で「著しく低い価額」はどのように規定されているのかを見てみましょう!
所得税の「著しく低い価額」については、次のように規定されています。
【所得税の「著しく低い価額」】
(贈与等の場合の譲渡所得等の特例)
所得税法:第59条
次に掲げる事由により居住者の有する山林(事業所得の基因となるものを除く。)又は譲渡所得の基因となる資産の移転があつた場合には、その者の山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その事由が生じた時に、その時における価額に相当する金額により、これらの資産の譲渡があつたものとみなす。
二 著しく低い価額の対価として政令で定める額による譲渡(法人に対するものに限る。)
(時価による譲渡とみなす低額譲渡の範囲)
所得税法施行令:第169条
法第五十九条第一項第二号(贈与等の場合の譲渡所得等の特例)に規定する政令で定める額は、同項に規定する山林又は譲渡所得の基因となる資産の譲渡の時における価額の二分の一に満たない金額とする。
つまり所得税では、時価の1/2を下回る価額を「著しく低い価額」と定めているわけですね!
贈与税の考え方
贈与税の「著しく低い価額」はどうなっているのでしょうか?
実は、贈与税では「著しく低い価額」について明確な指標は無いのです!
贈与税で「著しく低い価額」が問題となる規定は、例えば次のようなものがあります。
【贈与又は遺贈により取得したものとみなす場合】
相続税法:第七条
著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合においては、当該財産の譲渡があつた時において、当該財産の譲渡を受けた者が、当該対価と当該譲渡があつた時における当該財産の時価との差額に相当する金額を、当該財産を譲渡した者から贈与により取得したものとみなす。
贈与税のルールでは単に、
「著しく低い価額」で売買をしたら贈与税が発生するよ
としか規定されていません。
そのため、肝心の「著しく低い価額」については、明確になっていないのです。
何も規定が無いと判断に悩みますね・・・
実務においては、
・売買の事情
・対価の額
・財産の市場価額
・相続税評価額
などを総合的に勘案して決める
という形になるのですが、いずれにしても曖昧な点は多いです。
判例の概要
ここからは判例の概要を解説していきます!
今回の納税者は、2つの物件を購入しています。
その購入額について、納税者と税務署との間で争いとなったのが、この判例となります。
物件の購入額と評価額
判例のポイントとなる、物件の購入額と評価額は次のようになっています。
【物件A】
購入額:500万円
相続税評価額:1,140万円
(納税者は相続税評価額を920~930万円程と主張していましたが、裁判所は上記の評価額を妥当としました。)
【物件B】
購入額:700万円
相続税評価額:1,287万円
論点
この判例の論点は、
贈与税の「著しく低い価額」について、所得税のルールを適用できるか否か?
ということになります。
つまり納税者としては
物件Aも物件Bも相続税評価額の1/2以上の価額で取引をしているから、「著しく低い価額」には該当しない。
と主張をするわけです。
(物件Aの相続税評価額は、納税者が主張した評価額を基準としています。)
しかし税務署としては
所得税のルールを贈与税の考え方には適用できない。
と反論しています
裁判所の判断
上記の論点について、裁判所は次のように判断しました。
贈与税に所得税のルールを適用することは出来ない。
また物件の売買については「著しく低い価額」に該当するものと考えられる。
よって、納税者は贈与税を納める必要がある。
結果として、裁判所は税務署の主張を認めることになりました。
つまり贈与税の「著しく低い価額」は、相続税評価額の1/2以上の価額であっても該当する可能性がある、ということが、この判例で明らかになったのです。
【以下判決文より抜粋(一部筆者加筆)】
(贈与税の)著しく低い価額の対価に該当するか否かは、当該財産の譲受の事情、当該譲受の対価、当該譲受に係る財産の市場価額、当該財産の相続税評価額などを勘案して社会通念に従い判断すべきものと解するのが相当である。
所得税法施行令169条は、~~~所得税法59条1項2号の規定を受けて、著しく低い価額の対価として政令で定める額を資産の譲渡の時における価額の2分の1に満たない金額と規定しているが、これらの規定はどのような場合に未実現の増加益を譲渡所得としてとらえ、これに対して課税するのを適当とするかという見地から定められたものであつて、どのような場合に低額譲受を実質的に贈与とみなして贈与税を課するのが適当かという考慮とは全く課税の理論的根拠を異にするといわなければならない。
したがつて、前記所得税法の規定の文言と相続税法7条の低額譲受の規定の文言が同一であることや前記所得税法施行令の規定を、原告(納税者)の~~~主張の根拠とすることはできないといわざるをえない。
物件Aの相続税評価額は1140万3990円、物件Bのそれは1287万2925円であるところ、物件Aの売買価額は500万円、物件Bのそれは700万円にすきず、その差額は、物件Aにつき640万3990円、物件Bにつき587万2925円にも達するものであるから、原告(納税者)主張の本件売買の経緯を考慮しても、本件売買価額は、いずれも、課税の公平負担の見地にかんがみれば著しく低い価額の対価であると認めるのを相当とする。
よつて、相続税法7条により、本件土地の売買価額と~~~土地の時価との差額に相当する金額を原告(納税者)は贈与によつて取得したものとみなされることとなる。
まとめ
今回は「著しく低い価額」について、贈与税と所得税のルールの違いが論点となった判例を紹介しました。
「著しく低い価額」については、税理士でも判断が難しい論点の一つかと思われます。
この判例のように、違う税金のルールを独断で別の税金に適用してしまうのは非常に危険です。
相続税評価額の1/2以上の価額でも該当することは、今回の判例で取り上げられましたが、他にも相続税評価額による売買ではどうか?ということも裁判となっています。
この判例については、下記の記事で詳細を解説していますので、こちらも参考にしてください!
もし皆様の中で取り扱いに不安があることがございましたら、ぜひ一度資産税の専門税理士にご相談していただければと思います。
弊社では相続税や贈与税などを専門としている税理士が最初から最後まで対応をさせていただきますので、お気軽にお問い合わせください!