円満相続税理士法人 税理士 大学在学中から税理士を目指し25歳で官報合格。以後、法人税務を経て 現在は円満相続税理士法人にて、相続・事業承継のプロとして 申告・税務相談・執筆・セミナー講師として幅広く活動中! 詳しいプロフィールはこちら
遺留分は、遺留分の計算の基礎となる財産(これを『基礎財産』といいます。)を基に計算を行い、以下の算式により算定します。
基礎財産=【被相続人(お亡くなりになった方)が相続開始時点で有していた財産】+【贈与財産】-【相続債務の全額】
上記算式の内、贈与財産に該当するものについては民法で詳しく規定されておりますが、中でも、一般的に相続人に該当しない孫や子の配偶者への贈与の取り扱いについては注意が必要です。
相続のプロを目指す方は、孫や子の配偶者への贈与の取り扱いについても、しっかりと提案できるようにしましょう。
さて、孫や子の配偶者への贈与のうち、基礎財産に加算すべき贈与はどのような贈与でしょうか。
①相続開始前1年以内にされた贈与
②遺留分権利者に侵害を加えることを知って行われた贈与
③孫が代襲相続人になる場合
④孫や子の配偶者を養子にした場合
⑤事実上は子への贈与にあたる場合
①と②については下記サイトで照会しておりますので、そちらをご覧ください。
問題は③④⑤のケースです。
③孫が代襲相続人になる場合
被相続人の子は相続順位が第1順位で相続人となります。
しかし、その子がすでに死亡している場合、子の代わりに孫が相続人になります。
これを「代襲相続」といい、相続人と同じとみなされます。
つまり、孫が代襲相続人になる場合は、被相続人の相続開始前10年以内に行われた贈与であれば、他の相続人の取り扱いと同様で、実質的に遺産の前渡しとされ、基礎財産に加算されます。
ただし、子が亡くなる前に孫への贈与があったとしても、その時点では相続権を持たない状態なので、基礎財産に加算されません。
代襲相続後の孫への贈与に限り、基礎財産に加算するということになります。
④孫や子の配偶者を養子にした場合
孫が代襲相続人になる場合と同様の考え方で、例えば孫や子の配偶者と養子縁組をすると、法律上の関係性が「親子」になり、孫や子の配偶者も相続人とみなされます。
養子になった以降の贈与に限り、基礎財産に加算するということになります。
⑤事実上は子への贈与にあたる場合
少々マニアックですが、上記の事情がなく、相続人に該当しない孫や子の配偶者への贈与が遺留分の基礎財産に加算すべきという判例も存在します。
簡単に解説しますと、名義は孫や子の配偶者であるものの、その贈与による恩恵を受けているのは実質的に相続人というようなケースです。
被相続人から相続人の夫に土地の贈与があったケースで、家庭裁判所が実態としては相続人自身が恩恵を受けていると審判を下した判例があります。
この判例は、相続人夫婦が農家であり、相続人の夫に農地の贈与がありました。
つまり、生前から農業を手伝っている相続人に対し、日ごろの感謝の気持ちから農地を与えて、できれば農業も続けてほしいという意図があったものと考えられるのですが、相続人の夫に贈与をしたのは、夫をたてるべきだと判断した背景が伺えます。
このように、実際は相続人以外への贈与でも、相続人と親族関係にある者であれば、実質的に恩恵を受けている相続人に対する贈与と判断されることもあります。
裁判所は、背景にある贈与の経緯や性質などを考慮し、相続人の配偶者に対してなされた贈与であっても実態は相続人への贈与であるという趣旨の判断を示しています。
(福島家裁 白川支部 昭和55年5月24日審判例)
最後に少々マニアックなお話をしましたが、遺留分の計算における生前贈与の取扱いは相続人に対してされたのか、相続人以外に対してされたのかにより取扱いが大きく変わります。
遺留分が絡むような相続案件では、両者の違いを明確に理解し、しっかりと提案できることが重要です。
根拠条文
民法第1043条 遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。
民法第1044条 贈与は、相続開始前の1年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、1年前の日より前にしたものについても、同様とする。
相続人に対する贈与についての第1項の規定の適用については、同項中「1年」とあるのは「10年」と、「価額」とあるのは「価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る。)」とする。