円満相続税理士法人 税理士
学生時代に税理士試験の受験を始め、在学中に4科目取得し群馬県の会計事務所に就職。売上規模数十億円の企業の法人税、相続税を担当しつつ25歳の時に税理士試験合格。
不動産の贈与は、登記簿で税務署が把握すると聞きます。
それでは、登記をしなければ税務署にはバレないのでしょうか?
その考え方は、実は非常に危険なのです。
今回は「不動産を贈与したものの登記をせず贈与税を逃れようとした裁判例」をもとに、その危険性を解説します!
みなさんこんにちは。
円満相続税理士法人、税理士の加藤です。
不動産を贈与するとき、通常であれば名義変更の登記を行い、場合によっては贈与税の申告が必要になります。
しかし世の中には
不動産を贈与しても登記をしなければ、税務署には贈与したことは分からないし、贈与税も払わなくてすむんじゃない?
と考える人がいます。
(このような考えは、脱税行為になってしまうので、絶対に行わないようにしましょう。)
この「登記をしなければ税務署にバレない」という考え方は、実は大きな落とし穴があるのです。
そこで今回は、不動産を贈与しても登記をせず、贈与税を逃れようとした裁判例を紹介します!
この判例を見れば、登記をしないで贈与税を隠す、という方法の危険性が分かりますので、ぜひ参考にしてください。
判例の概要
今回ご紹介する判例は「名古屋地裁平成9年(行ウ)第7号贈与税決定処分取消請求事件」となります。
まずは概要を見ていきましょう。
贈与の経緯
登場人物は、父Aと子Bです。
父Aは子Bに対して、不動産を贈与しようとします。
そこで、公正証書によって贈与契約書を作成しました。
しかし、この契約書作成時点において、不動産の所有権移転登記をしていませんでした。
そして贈与契約書作成から約8年後に、所有権移転登記を行ったのです。
なぜこのような贈与を行ったかというと、それは贈与税には時効があるからです。
贈与税は申告期限から6~7年経過すると時効となり、支払う義務がなくなります。
そこで父Aは、子Bに不動産を贈与した上で、登記をせずその事実を税務署にバレないようにし、時効が成立した時点で登記を行う、ということを行ったのです。
「判決文より抜粋」
父Aは、前記陳述書及び証人尋問において本件公正証書を作成しながら、所有権移転登記をしなかつたのは、贈与税の負担を免れるためであつたとして、次のとおり、陳述し、供述している。
東京のある会場で行われた税務問題のセミナーで、公認会計士から、「不動産の売買や贈与については、取引を完結した後で、登記をしないでおいて、ある程度の年数がすぎると不動産取得税や贈与税がかけられなくなる。そのためには、売買や贈与による者の引渡を済ませ、そのことを公正証書にしておけばよい。」という説明を聞いたことがあり、本件不動産の贈与税を「節税」しようと考えた。
なお、登記をしないで時効を成立させる行為は、脱税となる場合があるので、絶対にやめましょう。
税務署からの指摘
それでは、父Aからの贈与は時効が成立して、贈与税は納めなくても良いことになるのでしょうか?
そこが落とし穴だったのです。この贈与について、税務署から指摘が入ります。
税務署は上記、父Aから子Bに対する贈与について、次のように指摘します。
実際に贈与をしたのは登記をした時であるため、まだ時効は成立していない。
つまり、贈与をした時期は、契約書を作成した時ではなく、所有権移転登記をした時期である、と指摘したのです。
もし贈与が登記の時に行われているのであれば、まだ時効は成立していないということになります。
しかし、子Bはこの指摘に納得がいかなかったので裁判となっていきます。
裁判所の判断
裁判所は上記の贈与について次のように判断します。
贈与が行われた時期は、所有権移転登記があったときである。
よって、贈与税の事項は成立していない。
注目したい点は、父Aと子Bは、公正証書で贈与契約書を作っていたにもかかわらず、贈与の時期は登記のときである、と判断された部分です。
裁判所が、贈与が行われた時期は登記があったとき、と判断した主な理由は次の通りです。
~裁判所の判断理由~
・公正証書で贈与契約書を作成する合理的な理由が存在しない
・所有権移転登記を行う事が出来なった理由が存在しない
・贈与契約書は、贈与税を逃れるために作成されていると認められる
・所有権移転登記の時期は、父Aに決定権があったと認められる
・契約書作成当時、子Bは多額の贈与税を負担できる経済状況でなかった
・登記の時期まで、子Bは不動産を自由に管理できていなかった
裁判所は以上のような理由から、そもそも公正証書の贈与契約書は無効であるとし、契約書作成時点ではなく登記の時点で贈与があったものと判断しました。
この判例から言えることは、不動産登記をせずに贈与を隠していたとしても、登記をした時点で贈与があったものと判断される可能性があるという事です。
また、子Bについては、無申告加算税というペナルティが追加で発生しているので、結果としては普通に贈与税を支払うよりも多額の負担が生じています。
何かを隠すという行為は、最終的には大きな損失を被ることになりますので、皆さんは是非注意していただければと思います。
まとめ
今回は、不動産の贈与をしても登記をしなければ税務署に指摘されないか、という論点について、判例を参考に解説しました。
この判例のように、わざわざ公正証書で贈与契約書を作成しても、そこに合理的な理由がなければ、結果として登記の時期を贈与の時期と判断されてしまう可能性があります。
また、あえて登記をせずに、贈与税の負担を逃れようとする行為は、場合によっては脱税とされてしまうので非常に危険です。
贈与のことについては、もし不明なことがあれば、ぜひ一度専門家にご相談いただければと思います。
弊社では、相続税や贈与税に特化した税理士がすべて対応をいたしますので、何かあればぜひお問い合わせください!