

大手監査法人にて会計監査業務に従事した後、 円満相続税理士法人に入社。 円満な相続の実現をサポートするため、 金融機関等でセミナー講師も担当している。 詳しいプロフィールはこちら
はじめに ― 遺言をめぐるニーズの高まり
「終活」という言葉が2012年に流行語に選ばれて以降、相続や遺言への関心は年々高まっています。
遺言書は家族間の紛争を防ぐ強力な手段ですが、これまでは「作成の難しさ」「自宅保管のリスク」「家庭裁判所での検認の負担」といったハードルがあり、実際に遺言を残す方は多くありませんでした。
この課題を解消すべく2020年7月に導入されたのが、法務局による自筆証書遺言保管制度です。
普段お客様には「まずは遺言書を」とお伝えしてきた私自身、実際にこの制度を利用して遺言書を作成してみました。その体験を専門家としてまとめます。
自筆証書遺言とは?
自筆証書遺言は、民法968条に規定される遺言方式の一つで、全文・日付・氏名を自署・押印して作成します。公正証書遺言に比べ「簡便」「費用不要」というメリットがあります。
ただし、改正前は次の課題がありました
自宅保管 → 紛失・隠匿・改ざんリスク
家庭裁判所での検認が必須 → 相続人に負担
記載不備 → 無効化の恐れ
これを解消するのが法務局保管制度です。保管されれば紛失や改ざんの心配がなく、さらに検認も不要となります。
利用方法 ― 手続きの流れ
手続きは大きく以下のステップに分かれます。
詳細は法務省HPや桑田税理士のブログをご確認ください。
>>遺言書保管制度を実体験!予約や費用、必要書類を税理士が解説
事前準備
遺言内容の検討(相続人・受遺者・財産内容の確定)
財産資料(登記事項証明書、預金通帳コピー、株式の残高証明など)を整理
遺言書の作成
必要書類の準備
自筆の遺言書
保管申請書(法務省HPからダウンロード可)
本籍地&筆頭者記載の住民票
本人確認書類(運転免許証・マイナンバーカード等)
遺言書に押した印鑑
予約
利用する法務局に事前予約が必須。希望日を電話やネットで申し込みます。
当日の手続き
窓口で本人確認
遺言書の形式チェック
手数料(3,900円)納付
保管証交付
実際に行ってみた感想
平日午前に訪問。専用受付があり、案内はスムーズでした。
本人確認と住民票提示後、遺言書の形式が確認されます。ここで重要なのは「内容の妥当性」ではなく「形式要件の適否」のみが確認される点です。財産分割が適切かどうかは審査されません。
そのため、全ての財産を配偶者に、といったシンプルな遺言作成に特に向いていると思われます。相続対策や遺留分を踏まえた記載内容を検討される場合、専門家に内容を相談するのがおすすめです。
全体で30分程度で完了し、最後に「保管証」を受け取りました。これは遺言が正式に保管された証明書であり、安心感がありました。
メリット
紛失や改ざんの心配がない
相続発生後に検認不要で手続きがスムーズ
費用が安価(3,900円のみ)
「安心」と「低コスト」を兼ね備えた制度だと実感しました。
デメリット
一方で、以下のリスクも忘れてはいけません。
内容の有効性は保証されない
存在を家族に伝えていなければ気づかれない可能性
※現状の制度では通知したい相手を指定できますが、その相手が引っ越しをした場合は、その都度法務局に変更を届け出る必要があります。住民票等の情報が自動連係される仕組みに現在はなっておらず、導入予定もないとのことでした。
複雑な相続には不向き(遺留分・二次相続の考慮など)
公正証書遺言との比較
ざっくり分類すると、財産規模が小さくシンプルなケースでは自筆証書遺言保管制度、複雑なケースや紛争予防重視の場合は専門家に相談の上、公正証書遺言が望ましい、と考えられます。
想定されるトラブル事例
「全財産を長男に相続させる」と書いたが、二男が遺留分を主張し裁判へ
財産記載が不明確で、不動産の名義変更ができず追加手続が必要に
遺言の存在を家族が知らず、他の相続手続を進めてしまった
まとめ ― 税理士としての提言
体験を通じ、法務局の自筆証書遺言保管制度は「安心して第一歩を踏み出す」仕組みであると実感しました。
一方で、制度の利用件数は月2千件前後にとどまり、まだ十分に普及しているとはいえません(法務省統計参照)。
これからは「遺言を残すのが当たり前」という社会になるでしょう。公正証書遺言の作成に踏み出せない方は、まずは法務局の自筆証書遺言保管制度を利用してみませんか?
遺言は、残された家族への最後のメッセージです。制度を正しく理解し、必要に応じて専門家の助言を得ながら活用することをお勧めします。















