円満相続税理士法人 代表税理士
『最高の相続税対策は円満な家族関係を構築すること』がモットー。日本一売れた相続本『ぶっちゃけ相続』シリーズ19万部の著者。YouTubeチャンネル登録者10万人。
母が老人ホームに入ることになりました。これまで住んでいた家は空き家になるのですが、母が亡くなった時、小規模宅地等の特例は受けられますか?
こんにちは、円満相続税理士法人の橘です。
お母様が、①介護が必要であるため入居したこと、②老人ホームに入居後にその家を賃貸していないこと、という二つの要件を満たすのであれば、小規模宅地等の特例を受けられます。
一見シンプルに見える要件ですが、実はとても奥が深いので注意が必要です。
今回は、老人ホームに入居した場合の小規模宅地特例について、日本一売れた相続本の作者である私が、わかりやすく解説します。
最後までお読みいただければ、老人ホームに入居しても、しっかりと小規模宅地特例が受けられるようになりますよ♪
老人ホームと小規模宅地特例
小規模宅地等の特例とは、
亡くなった方が自宅として使っていた土地を、配偶者か同居親族が相続する場合には、8割引きで相続していいですよ
という特例です。
8割になるのではなく、8割引きになるのです!
1億円の土地であれば、たったの2千万円の評価額で相続できますので、この特例が使えるか使えないかで、相続税は何千万円も変わります。
この特例は、あくまで『亡くなった方の自宅』に対して使うことが認められます。
老人ホームに入居し、その老人ホームで亡くなってしまった場合、元々住んでいた家は、自宅ではなく、ただの空き家と扱われてしまいます。
結果として、『亡くなった方の自宅』ではなくなることから、小規模宅地特例は使えなかったのです。
平成26年1月1日以後は適用可能に
しかし、
こんな取り扱いはあんまりだ!
という声が多かったので、平成26年1月から税制改正されました。
その改正とは、次の2つの要件を満たした場合には、老人ホームに入居した場合でも、それまで住んでいた家を自宅として、小規模宅地等の特例を受けてもいいですよ!という内容です。
その2つの要件とは、
介護が必要なため老人ホームに入居したこと
自宅を老人ホームに入居後に、新たに賃貸等していないこと
【要件1】介護が必要なため入居
「介護が必要」というのは、具体的に言うと、要介護認定等を受けていることいいます。
要介護認定の他に、
要支援認定
基本チェックリスト
障害者支援区分の認定
の、いずれかでもOKです。
判定時期は相続開始直前
要介護認定は、施設に入る前に受けないとダメですか?
いいえ。判定のタイミングは、相続開始の直前とされています。老人ホームに入るタイミングにおいては、要介護認定を受けていないくてもOKです
要支援認定申請中に相続が発生した場合
父が、要支援認定申請中に老人ホームで亡くなりました。この場合は、小規模宅地の特例は使えませんか?
いいえ。相続発生後に要支援が認められれば、亡くなる前から認定を受けていたものとみなされて、小規模宅地の特例が使えますよ。
【要件2】自宅を新たに賃貸等しない
老人ホームに入っている間、空き家にしておくのはもったいないから、誰かに貸して家賃をゲットしたいです
自宅を人に賃貸し、その後に相続が発生した場合には、居住用の小規模宅地の特例は使えません。
ただ、代わりに貸付事業用の特例は使えるかもしれません。興味ある方はこちらの記事もどうぞ。
子に住まわせるのもダメ
賃貸しちゃダメなのね。それなら、空き家にしておくのはもったいないから、息子を住ませてもいいですか?
これもダメなんです。
『賃貸等』の『等』には、自分の親族に無償で貸しだした場合も含まれています。
基本的には、老人ホームに入った時と同じ状態を保つ必要があります。
【事例1】同居判定のタイミング
それでは問題です。
次の場合には小規模宅地等の特例が使えるでしょうか?
大阪の実家に住んでいた母が、3年前に老人ホームに入居しました。
母に相続が発生し、東京の持ち家に住んでいる長女が実家を相続しました。
母は亡くなる前、要介護認定を受けており、旧自宅には誰も住んでいませんでした。
どうでしょうか?
先ほどの説明からすると、このケースは特例を受けられそうな感じがしますよね?
しかし、残念ながらこのケースでは、小規模宅地等の特例は使えません。
その理由は、小規模宅地等の特例の基本にあります。
小規模宅地等の特例は、誰が自宅を相続すると8割引きになりましたでしょうか?
気付きましたでしょうか?
そうです、小規模宅地等の特例が使えるのは、配偶者か同居親族です。
先ほどの事例においては、母と長女は別居しているため、実家を相続しても小規模宅地等の特例は受けられないのです。
老人ホームで母と同居しろっていうのですか?
安心してください。
老人ホームに入居した場合の同居の判定は、老人ホームで同居しているかどうかではありません。
老人ホームに入居する直前に同居していたかどうかで判定します。
つまり次のケースであれば、小規模宅地等の特例が使えます。
大阪の実家に母と長女の二人で暮らしており、3年前に母が老人ホームに入居しました
母に相続が発生し、大阪の実家で暮らしている長女が実家を相続しました。
母は亡くなる前、要介護認定を受けていました。
【事例2】入れ替えの引っ越し
それではこの場合には、どうでしょうか?
父と母が老人ホームに入居するため、東京に住んでいた長男が実家に住むことになりました。
その後、父が死亡し、長男が実家を相続しました。
この場合、小規模宅地等の特例は使えるでしょうか?
答えは、NOです!入れ替えの引越しの場合にも、この特例は使えません。
あくまで、老人ホームに入居する前から同居をしていれば、条件を満たすことになります。
それであれば、両親が老人ホームに入居する1週間前に私が引っ越して、1週間同居した後に老人ホームに移ればいいのですか?
理屈上は、それでもOKです。ただ、1週間だけでは『同居の実態があった』と認定されない可能性もあります。ケースバイケースになるので、税理士に相談しましょう
【要注意】無認可老人ホーム
有料老人ホームの設置については都道府県知事への届出が義務付けられているのですが、なんと未届出の老人ホームもたくさんあるようです。
平成25年10月31日時点では、全国に有料老人ホームは9827件あるそうですが、未届状態の有料老人ホームはなんと911件にのぼるそうです。10%近くが未届です。
そして、この未届状態の老人ホームに入居してしまった場合には、問答無用で小規模宅地等の特例は受けられなくなります。
そのため、老人ホームに入居する場合には、
お宅の施設は、キチンと都道府県に届出をだしていますか?ちゃんと小規模宅地等の特例は使えますか?
と、必ず確認するようにしてください。
添付書類(申告に必要な書類)
老人ホームに入居した場合の小規模宅地特例の添付書類は、下記の通りです。
亡くなった方の出生から死亡までの戸籍&相続人全員の現在戸籍
遺産分割協議書または遺言書のコピー
相続人全員の印鑑証明書(発行期限は特にありません)
特例を使う人の住民票(コピー可)※マイナンバーを申告書に記載する場合は不要
亡くなった方の戸籍の附票(相続開始日以後に取得したもの)
要介護認定等を受けていたことを証する書類のコピー
施設に入居した時の契約書のコピー
まとめ
有料老人ホームが絡むと、小規模宅地等の特例が使えるかどうかの判断が非常に難しくなります。
老人ホームへの入居の仕方で相続税が何千万円も変わるとは、誰も夢にも思いませんので、もし身近にそういった方がいれば、教えてあげてくださいね♪