円満相続税理士法人 公認会計士・税理士
在学中に公認会計士試験に合格し、監査法人、コンサル、公務員を経て、円満相続税理士法人へ入社。相続・事業承継のプロとしてご家族のサポートができるよう業務に携わっています!
あげるって約束しちゃったけど、取り消せるかなぁ。。。
こんにちは、円満相続税理士法人の中岡です!
つい、あげるって約束しちゃったり、あげたものをやっぱり返してほしくなったり、誰しも一度や二度どころじゃなく、あると思います。
そんな時、贈与の取り消しはできるのでしょうか?
実は、口約束しただけの状況であれば、一方的に贈与を取り消すことができます。
契約書を作った場合や、一度あげたものを返してもらう場合でも、相手方の合意があれば贈与の取り消しは可能です。
ただし、税金の世界では、こうも簡単にいきません。
現実の世界では取り消したはずが、贈与税が課税されるという恐ろしいことが起こり得ます。
≫贈与税の基礎知識について知りたい方は、こちらもご覧ください。
今回は、そんな贈与の取り消しについて、民法と税務での違いについて、分かりやすく、詳しく解説していきます。
最後までお読みいただければ、贈与の取り消しについて分かるようになりますよ♪
贈与とは?
まず、贈与について、基本的なところから押さえていきましょう。
民法549条に定義があります。
民法549条
贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。
贈与も契約ですので、「一方の与える意思表示」と「相手方の受諾」、すなわち双方の意思の合致が必要ということです。
もちろん口頭での契約も有効です。
贈与の取り消しの可否
口頭による贈与契約は一方的に取り消し可能
民法第550条では、次のように定められています。
書面によらない贈与は、各当事者が解除をすることができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない。
履行というのは、実際に財産をあげる行為のことです。
整理すると、
・履行していない部分 ⇒ 一方的に取り消し可
・履行した部分 ⇒ 一方的に取り消し不可
書面による贈与契約は一方的に取り消し不可
書面による贈与契約は、先ほどの民法第550条の反対解釈で、一方的に取り消し不可とされています。
死因贈与契約は一方的に取り消し可能
死因贈与契約は、自分が死んだら財産をあげるよという契約です。
死因贈与は、特別で、遺贈(遺言書で財産をあげること)に準じた取扱いをすることが民法第554条に定められていますので、遺言と同様に、(書面であっても)一方的に取り消し可能となっています。
合意があれば取り消し可能
一方的に取り消しが不可でも、双方が合意すれば、もちろん取り消し可能です。
履行したあとでも、取り消すことができます。
民法に定められた取り消し事由
民法で定められた取消事由に当てはまるものも、一方的に取り消すことが可能です。
これは法定取消権と呼ばれるものです。深掘りするとややこしいですが、ここでは、民法で定められた特別な場合に一方的に取り消せるんだなくらいに思っておいてください。
似たようなものに、法定解除権というものもありますが、これも同じようなものと思っておいてください。
ここでは、法定取消権の代表的なものを紹介します。
詐欺・強迫
民法第96条第1項に次の規定があります。
詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
つまり、詐欺や強迫により、契約してしまった場合は、一方的に取り消し可能です。
錯誤
民法第95条第1項に次の規定があります。
意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
錯誤とは簡単に言うと勘違いです。
つまり、重大な勘違いにより、契約してしまった場合は、一方的に取り消し可能です。
未成年者・成年被後見人
民法第5条第2項と第9条に次の規定があります。
前項の規定(未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。)に反する法律行為は、取り消すことができる。
成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、この限りでない。
つまり、未成年者や成年被後見人が単独で、契約してしまった場合は、一方的に取り消し可能です。
私たち、円満相続税理士法人では、贈与に関するご相談を行っていますので、こちらもご覧ください。
贈与税の課税時期
贈与を取り消したら、どのような課税関係になるか解説する前に、どのタイミングで贈与税が課税されるのか確認していきます。
相続税基本通達では、以下のとおり示されています。
口頭による贈与契約は履行時
口頭による贈与契約は履行したときに、贈与があったとして、課税されます。
つまり、口約束はしたけど、実際に財産をあげていない場合は、贈与税は課税されません。
書面による贈与契約は契約時
書面による贈与契約は、契約の効力が生じたとき、つまり契約時に贈与があったとして課税されます。
つまり、贈与契約書を作成したけど、実際に財産をあげていない場合は、実際に利益は得ていないのに贈与税が課税されます。
そのため、いつかあげようと思って贈与契約書を作っておくことは、一方的に取り消しすることができず、贈与税も課税されてしまうため、注意が必要です!
停止条件付贈与契約は条件成就時
いつかあげたいと思っている場合に、「将来あることが起こったら」など、一定の条件が成就することで契約を有効にする方法があります。
その条件を停止条件といいます。
停止条件付贈与契約は、以下のとおり、その停止条件が成就したとき、つまり契約の効力が発生したときに、贈与があったとして、課税されます。
なお、停止条件には、将来発生することが不確実な事実を採用しなければなりません。例えば、「○年○月○日が到来したら」といった条件は、将来発生することが確実なので、停止条件とはいえません。
死因贈与契約は死亡時に相続税
死因贈与契約は、遺贈と同じように取り扱われますので、税金の世界でも、贈与税ではなく、亡くなったときに相続税が課税されます。
贈与を取り消したときの贈与税
贈与自体を取り消したんだから、贈与税はかからないでしょ?
贈与を取り消しても贈与税がかかるという恐ろしいことが起こるんです!
民法上は贈与を取り消すことができたとしても、税務上は贈与税がかかるということがあります。ここからは、贈与の取り消しに関する税務上の取扱いについて解説していきます。
履行前の取り消しは課税なし【履行前】
まず、履行前に取り消した場合には、贈与税は課税されません。
履行後に取り消したときの贈与税【履行後】
一方で、履行後に取り消すと、贈与税がかかることがあります。
まず、履行後に取り消すという状況をよく考えていただきたいのですが、このとき、財産が動くタイミングが2回あります。
・最初に、あげる人からもらう人に渡すとき
・取り消した後に、もらった人からあげた人に返すとき
この2つのタイミングについて、それぞれ課税されるのか見ていきます。
最初にあげる人からもらう人に渡すとき
まずは、履行後に取り消すことができる場合を思い出してみてください。大きく2パターンあります。
それは、民法に定める取り消し事由と、合意による取り消しです。
民法に定める取り消し事由は、贈与税が課税されない
国税庁が公表している「名義変更等が行われた後にその取消し等があった場合の贈与税の取扱いについて」という文書で以下のように示されています。
贈与はなかったものとして取り扱う(贈与税は課税しない)と記載されていますね。
この場合、更正の請求という手続きにより、支払い済みの贈与税を取り返すこともできます。
合意による取り消しは課税される
同じ文書に以下のようにあります。
贈与契約の取り消しがあった場合においても、贈与税の課税を行うと書かれています。
合意による取り消しの場合の特例
ただし、合意による取消であっても、贈与税がかからないケースがあります。
「『名義変更等が行われた後にその取消し等があった場合の贈与税の取扱いについて』通達の運用について」という文書に、特例が設けらえています。
少し長いですが、以下のとおりです。
簡単に言うと、以下の条件をすべて満たした場合に、贈与税を課税しないということです。
贈与税の申告期限までに取り消されている
もらった人が贈与された財産を処分していない
あげた人またはもらった人が租税の申告または届出をしていない
もらった人が贈与された財産から生み出される利益を収受していない
税務署長が、贈与税を課税することが著しく負担の公平を害すると認める
取り消した後にもらった人からあげた人に返すとき
こちらは簡単です。
結論は、以下のとおり、贈与として取り扱わない(贈与税は課税しない)とされています。
「行き」が贈与なら、「帰り」も贈与とするのが、論理的ではありますが、「帰り」は許してくれています。
まとめ
贈与税の取り消しについて、民法と税務の違いを理解していただけましたでしょうか?
特に注意すべきは、以下の点です。
合意による取り消しは、原則、贈与税が課税される
安易な取り消しはもちろん、そもそも安易な贈与は、控えるようにしましょう。
生前贈与を活用した相続対策を検討される際は、相続に強い税理士に相談してみることをオススメします!
最後になりますが、私たちのLINE公式アカウントに登録いただくと、税務調査のマル秘裏話や税制改正速報などをお送りします。
さらに、相続税計算シミュレーションエクセルなどもプレゼントしていますので、是非ご登録ください!
最後までお読みいただきありがとうございました!