生前中に自分の死後、「自身の財産を誰に、どのくらい渡すか」を意思表示しておく方法として、「遺言書」を残そうと考える方は多くいます。
ただし、その”書き方”によって、大きく税金が変わったり、場合によっては、法律的に意思とは少し異なる取扱いがされてしまうということがあります。
ここでは、亡くなった人が相続人以外の人に財産を残す場合の相続税計算上の債務控除に関する注意点を中心に解説していきます。
円満相続税理士法人 税理士
大学在学中に税理士を目指し、25歳で官報合格。大手税理士法人山田&パートナーズに入社し、年間30~40件の相続税申告に携わりました。丸6年間の実務経験を経て退社。地元関西に戻り、円満相続税理士法人に入社しました。現在も相続税申告を中心に業務に励んでいます!
遺贈とは
遺贈とは、亡くなった人の残した「遺言」に従って、財産を誰かに引き継がせることをいいます。相続というと、相続人だけに限定されるのに対し、遺贈は相続人以外の人にも財産を引き継がせることが可能です。
代表的なところでいうと、お孫様に財産を引き継がせるケースが多いですが、内縁の妻や愛人、極端な話であれば、お世話になった近所の方や友人にも財産を引き継がせることが可能です。
遺贈には、大きく分けて「包括遺贈」と「特定遺贈」があり、遺言書の書き方によって分類されます。
包括遺贈とは
包括遺贈とは、割合のみを指定して引き継がせる方法です。
私の財産の全部のうち、70%を長男Aに、30%を長女Bに遺贈する
など、渡す財産を特定せず、渡す割合のみ指定します。
この包括遺贈の最大の特徴は、財産の種類や金額を特定しないので、相続と同様の意味合いを持つようになり、プラスの財産はもちろん、マイナスの財産についても指定された割合分、遺贈されることになります。
特定遺贈とは
特定遺贈とは、財産を具体的に指定して引き継がせる方法です。
〇〇銀行の普通預金は孫Cに遺贈する
不動産Aは孫Bに遺贈する
など、どの財産をどれだけ引き継がせるかを明確に記載する必要があります。
包括遺贈とは異なり、マイナスの財産については、特に指定がない限り、負担する義務がありません。そのため、不動産に紐付いたローンなどを一緒に引き継がせたい場合には、次のように遺言書に記載をする必要があります。
不動産Aは孫Bに遺贈する
Bは前項遺贈の負担として、遺言者が負担する債務のうち、〇〇銀行のローンの残金を支払わなければならない
遺贈と債務控除
相続税法第13条の債務控除を規定した条文には以下のように記載されています。
相続又は遺贈(包括遺贈及び被相続人からの相続人に対する遺贈に限る。)により財産を取得した者は、~当該相続又は遺贈により取得した財産については、課税価格に算入すべき価額は、当該財産の価額から次に掲げるものの金額のうちその者の負担に属する部分の金額を控除した金額による。
つまり、相続税法では、特定遺贈で財産を取得した人が引き継いだ債務や葬式費用は、債務控除ができないことになっています。
債務や葬式費用を相続税の計算上、控除できるのは、その債務を負担した「相続人」もしくは「包括遺贈を受けた人(これを包括受遺者といいます)」に限定されているということです。
祖父から不動産を特定遺贈で譲り受け、合わせてその不動産に係るローンも引き継ぎましたが、私は相続人ではないので、債務控除できないということでしょうか?
結論としては、債務控除はできません。
ただし、その場合は、「負担付遺贈」という取扱いとなるため、不動産の相続税評価額からローンの残額を差し引いた額を基に相続税を計算していくことになります。
相続税の計算上、負債を差し引いて計算できるという点に変わりはありませんが、債務控除ではないため、特定遺贈を受けた人が控除できる債務は、紐付きの債務に限られる点にご注意ください。
そのため、先ほどもご案内した通り、
「不動産Aを孫Bに遺贈する。」
「Bは前項遺贈の負担として、遺贈者が負担する債務のうち、〇〇銀行のローンの残金を支払わなければならない」
と指定することが重要です。
まとめ
遺言書を書くと言っても、財産を引き継がせたい相手が相続人なのか、相続人以外なのか。特定の財産を引き継がせたいのか、割合を指定しておきたいのか。遺言者の意思によっても、相続税計算上の債務や葬式費用の取扱いに大きな違いが生じます。
思いの実現と共に、残された人の相続税負担も考慮した遺言書を作成しましょう!